「猫にマタタビ」変わる認識と変わらない認識
マタタビに含まれている成分の中で、これまで研究者に着目されていなかった物質が猫に対して意外な作用を引き起こしたという内容であり、猫とマタタビの関係について、これまでとはまったく違う角度による答えを突き止めたことにより、研究グループからは「猫に関する謎の1つが解明された」という声も出ています。
このニュースは各メディアで大きく報じられ、ネット上でも大きな反響を呼びましたが、今回の研究結果からはまだ解明されていない疑問、そして新たな展開への期待もいくつか見えてきました。
「マタタビ」とは、どんな植物?
マタタビ(木天蓼・マタタビ科マタタビ属)は低木の落葉蔓性植物で、北海道から九州の山地に自生します。毎年5月頃に芽を出し、長く伸びた茎(つる)から葉を出して6月頃から白い花を咲かせますが、この時期に合わせて葉の一部も白く変色するのが特徴です。
マタタビの果実は長さ3~4cmで、見た目はトウガラシに似た楕円形ですが、花が開くまでの時期に昆虫(マタタビアブラムシなど)が寄生、産卵した場合には、小さいカボチャのような形の「虫えい果」に姿を変えます。マタタビの新芽や果実などは人間の食用にも使われることがあり、虫えい果については薬効が非常に高く、漢方薬として用いられています。
これまでの定説だった「マタタビラクトン」の作用
今回の研究結果が公表されるまで、猫がマタタビを好む科学的な理由には「マタタビラクトン」が関係しているとされてきました。1960年代、大阪市立大学の目武雄(さかんたけお)教授らによって発表された論文の中で、猫が反応を示す成分として挙げられたのがマタタビラクトンです。
複数成分の混合物であるマタタビラクトンは、猫がマタタビによる反応を誘うための化学物質として目教授らによって命名されました。俗に「マタタビ踊り」と呼ばれる猫の行動は、揮発性(蒸発、気化する)物質であるマタタビラクトンに、猫のヤコブソン器官(フェロモンを感知する鋤鼻器官)が反応して脳に伝わり、中枢神経が鈍化あるいは麻痺することで起こるリラックス状態を指すとされています。
反応が強い個体によっては、体をくねらせる、恍惚の表情を浮かべる、よだれを垂らすといった行動につながる場合もありますが、マタタビによる反応の本質はフェロモンとの関係が強いという見方から性的興奮、性的快感に似たものであるというのが有識者による考察です。
詳しいメカニズムは解明されなくとも、マタタビに猫がひきつけられるという関係性が分かったことで、一般家庭の愛猫に対しても食欲や行動力を促す目的でマタタビの成分を猫じゃらしや爪とぎなどに含ませたり、原木をおもちゃとして与えたり、粉末をごはんのトッピングに加えたりと、日々の生活においてマタタビが幅広く活用されるようになりました。
新たな定説となった「ネペタラクトール」という物質
猫がマタタビを好むのはマタタビラクトンが原因である、という研究の発表から約60年。
世間においても常識とされてきたこの説に風穴を開けたのが、岩手大学の宮崎雅雄教授らの研究グループでした。
宮崎教授らのグループが行った最新技術による分析で、マタタビに含まれる「ネペタラクトール」という物質がもたらす猫への作用が発見されました。そしてマタタビの葉から抽出した成分による実験において、猫の反応を呼び起こす物質の量と作用の強さ、その両方において、ネペタラクトールがマタタビラクトンを上回る数値になったのです。
「ネペタラクトールは、分析技術の進化によって検出できた物質」という研究グループのコメントがあるように、60年前の研究においては見つけること自体が不可能だったのではないかと見られているネペタラクトールですが、この物質には蚊を遠ざける「忌避」の効果があるのも分かったことから、猫がフィラリアなどを媒介する蚊から身を守る目的でマタタビに擦り寄っているのではないかと推測されています。
歴史的な解明の中にも謎や疑問は残る
この結果により、各メディアの記事には『猫にマタタビは「蚊よけ」のため』という類の見出しが躍ることになったわけですが、まだ考察すべき項目はあると研究グループも話しているように、これで猫がマタタビを好む理由のすべてが明らかになったとはいえません。
なぜネコ科動物だけがマタタビに反応するのか、という疑問を筆頭に、今回の検証で使われたマタタビの葉以外の部分(木、果実、虫えい果)についても同様の結果となるのか、そして前述の「マタタビ踊り」に含まれる陶酔や恍惚といった作用と防虫との間に関連性はあるのかについても、今後の研究によってぜひ解明してほしいテーマといえます。
未来に期待しつつ、愛猫にはこれまで通りで。
ネペタラクトールの発見によって「猫にマタタビ」の固定観念に変化がもたらされた意義は大きく、まだまだ研究は続いていくであろうと思います。そしてネペタラクトールを見つけるに至った今回の研究には、マラリアやエボラ出血熱など致命的な状況を引き起こす数々の感染症を媒介する蚊から、我々人類や犬、猫など動物の命を守るための技術への応用が待望されています。ネペタラクトールを活用した忌避剤の開発検討についてのコメントもあり、マタタビが感染症対策に大きく貢献する未来にも期待したいところです。
しかし、猫とマタタビに関する画期的な研究結果が報道されたとはいえ、猫がマタタビに反応するという本質が変わったわけではありません。飼い主が愛猫に対するマタタビの使い方を改めなければならない必要もなく、猫と暮らす人間にとっては今後も変わらず、マタタビの有効性や愛猫への作用を把握した上で、毎日の生活において効果的な活用を心がけていきたいものです。
マタタビへの猫の反応は個体によってさまざまであり、よだれを大量に出したり、中には失神したりという過敏な反応を示す猫もいれば、まったく反応も興味もないという猫もいます。ご自宅の愛猫にはじめてマタタビを試してみる際には、念のため反応や様子をしっかり観察しながら使うことをお勧めいたします。
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