長閑(のど)けさよ牛に吠えつく子犬あり (春)矢野愛乃(やの あいの)
「長閑(のどか)」「のどけし」は、春の日ののびやかでゆったりしている様子を表す春の季語です。おだやかな春の日、大きな牛に子犬が吠えついている何とものんびりした微笑ましい光景です。牛はおそらく子犬には見向きもせず、草を食んでいるのでしょう。作者は静岡県の俳人。
足長の犬を放てり青き野へ (夏)大前貫之(おおまえ たかゆき)
「足長の犬」はボルゾイやポインターのような犬でしょうか。「青き野」は夏の季語です。青々と草の生える野に放たれ、しなやかな長い足で弾むように駆け回る犬の姿が目に浮かぶようです。作者は昭和31年生まれの俳人です。
野の風や初猟の犬すでに逸(はや)る (秋)富田直治(とみた なおじ)
狩猟解禁日、野の風が吹くなか猟に出る犬はすでに興奮し、たかぶっています。飼い主も犬をなだめつつ、心の奥から興奮する気持ちを抑えきれないのでしょう。初猟の日を待ちわびていた様子が伝わってきます。作者は大正11年生まれの俳人。
犬行くや吹雪の中に尾を立てゝ(て) (冬)前田普羅(まえだ ふら)
吹雪の中を歩く、犬の姿が目に浮かぶような俳句です。「尾を立てゝ」がこの句のポイントですね。毛がたっぷり生えた日本犬でしょうか。吹雪もものともしない、強さと気高さを感じます。前田普羅は明治17年生まれの俳人です。
雪の原犬沈没し躍(おど)り出づ (冬)川端茅舎(かわばた ぼうしゃ)
雪が深く積もった原っぱに、犬がすっぽり潜ったと思ったら勢いよく飛び出した、ユーモラスな俳句です。「沈没し」「躍り出づ」に犬の躍動感と生命力を感じます。川端茅舎は明治33年の俳人。絵を学び、岸田劉生に師事したこともあります。
生きて還る犬抱きて炉(ろ)にくつろげよ (冬)及川貞(おいかわ てい)
この俳句の前書きに「子、大洋の戦さよりかへり、又征く」とあります。戦争から何とか生きて家に還った息子。「犬を抱いて炉にくつろげよ」と声をかける、母としての作者の気持ちを思うと切なくなります。犬を抱いて囲炉裏にくつろいだ子は、また戦争に征ってしまったようです。
作者は、犬が好きだったようで夏にはこんな俳句も作っています。
犬洗ひ(い)やりて忘暑(ぼうしょ)の犬とわれ (夏)
夏の暑い日犬を洗ったら、犬だけでなく作者もびしょぬれになって涼しくなったのでしょう。「犬とわれ」と自分を客観的にとらえた表現が、何ともいえないおかしさと犬への愛情を感じます。作者は明治32年生まれ、女流俳人として活躍しました。
何もかも知ってを(お)るなり竈(かまど)猫 (冬) 富安風生(とみやすふうせい)
火を落とした後の、ほんのり温もりが残る竈で暖を取る猫。家族のいさかい、悩みごと、今日作っていたごはん、何もかも知っているのが竈猫です。「猫にはかなわない、猫はなんでもお見通し」と思うのは昔も今も変わりません。
掌(てのひら)にのせて子猫の品定め (春)富安風生(とみやすふうせい)
掌に乗るくらいの小さな子猫を誰かから譲ってもらうのでしょうか。前から後ろから、上から横から、いとおしみながら見ているのでしょう。「品定め」という表現がユーモラスです。富安風生は明治18年生まれの俳人です。猫が好きだったようですね。
細目して酔うて出て来る炬燵(こたつ)猫 (冬)西脇妙子(にしわきたえこ)
温かい炬燵が心地よくて、つい長居してしまった猫。とうとう暑さに酔い、目を細めながら炬燵から出てきました。「あらまあ」という作者の驚きのあとの「仕方ないわね」というおかしさが、伝わってくるようです。作者は大正15年生まれの俳人です。
わが仔猫神父の黒き裾(すそ)に乗る (春)平畑静塔(ひらはたせいとう)
神父様だから失礼のないようにしないといけない、などと子猫は思いません。気の向くまま、居心地のよさそうなところがあれば乗ってしまいます。黒き裾ということは、神父様のカソックの裾に乗ってしまったのでしょうか。作者の慌てぶりが目に浮かぶようです。「わが仔猫」とし、単に「子猫」としなかったところに愛情を感じます。平畑静塔は明治38年生まれ、医学博士でもあった俳人です。
猫が子を咥へ(くわえ)てあるく豪雨かな (春)加藤楸邨(かとうしゅうそん)
子猫を咥えて豪雨をしのぐ場所を探しているのでしょう。親猫も子猫もびしょぬれになりながら豪雨の中をいく姿には、あわれみを覚えます。しかし「猫が子を咥へてあるく」という表現には、子猫を守る親猫の強さが感じられます。
加藤楸邨は明治38年生まれ。猫の佳句が多い俳人です。
くすぐつたいぞ円空仏(えんくうぶつ)に子猫の手(春)
恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく(春)
死にに行く猫に真青の薄原(すすきはら)(夏)
百代の過客しんがりに猫の子も(春)
まだまだ他にも犬や猫を詠んだ俳句はたくさんあります。俳句を読んでみて味わうのはもちろん、ご自分でも愛犬・愛猫の俳句を季節ごとに作るのも素敵ですね。
参考文献
・風俳句歳時記 沢木欣一編 風発行所
・現代の俳句 平井正敏著 講談社学術文庫
乳腺腫瘍とは乳腺組織からできる腫瘍全般をさします。雌犬の腫瘍の約半数を占め、良性と悪性の比率は大体1:1です。
犬の乳腺は胸の前側から陰部の付け根まで、左右に5個ずつ、全部で10個あります。
毛で隠れて見えづらいこともありますが、乳腺に腫瘍ができると、コリコリとしたしこりとして触知できるようになります。1個だけのこともあれば、複数の乳腺にまたがって多発することもあり、良性腫瘍と悪性腫瘍が混在することもあります。
発症年齢は比較的高齢で多いですが、稀に2歳くらいの若齢でもできることがあります。
犬の乳腺腫瘍の発生には女性ホルモンが関与しています。
乳腺腫瘍には卵巣から分泌されるプロゲステロンやエストロゲンに対する受容体があり、それらのホルモンの働きによって乳腺細胞が増殖します。未避妊の犬では避妊済みの犬に比べ、乳腺腫瘍の発生率は7倍にも上るといわれています。
また、初回発情の前に避妊手術をすると、将来的な乳腺腫瘍の発生率は0.05%、初回発情後の避妊手術では8%、2回目の発情後では26%とされています。つまり、より若齢での避妊手術によって乳腺腫瘍の予防効果が上がることになります。
避妊手術は子宮や卵巣の病気の予防という観点から、あるいは発情期の体調不良を断つために勧められることが多いですが、将来的な乳腺腫瘍の発生を減らす意味でも非常に意義のあることなのです。
初期には、乳腺にしこりが触れる以外にはほとんど症状はありません。
良性腫瘍の多くは境界明瞭で小さなしこりとして認められることが多く、悪性のものほど皮膚や筋肉などの周りの組織に貼りつくように大きくなり、境界が不明瞭で急速に成長する傾向があります。また、腫瘍の表面が破れて(自壊)出血したり、炎症を起こすこともあります。出血や炎症を伴うとじわじわと貧血がおこり、感染や消耗によって全身状態が悪くなり、食欲低下や元気消失が起こります。また、大きなしこりが脇の下や内股付近にできると、歩行に支障が出てしまう場合もあります。
自壊が起こらなくても、大きなしこりがあると体の栄養が腫瘍の成長に取られてしまい、食べているのに体がやせていく、という『悪液質』の状態になってしまいます。
腫瘍が悪性の場合、注意したいのは転移です。転移が起こってしまった場合には乳腺以外の部分にも症状があらわれることがあります。転移は近くのリンパ節から起こり、前の方の乳腺であれば脇の下にある腋窩リンパ節に、後の方の乳腺であれば内股の付け根にある鼡径部のリンパ節に転移します。そして、次に転移が起こるのは主に肺です。小さな肺転移が起こっていても症状があらわれることは多くはありません。しかし転移巣が大きくなると、胸の中に水が溜まったり、呼吸困難や咳などの症状が見られるようになります。
転移は稀に脳や骨などにも起こることがあります。その結果として神経症状が出たり、骨転移による激しい疼痛が見られることがあります。
診断は触診、針生検、最終的には切除した組織の病理検査で行います。また合わせて全身状態のチェックと胸部のレントゲン検査を行い、転移の有無も調べていきます。
先ずは触診です。動物の体は全身毛でおおわれているため、しこりができても見た目にはなかなかわからないことが多いですが、腹側を前胸部から内股まで両手で撫でるようにゆっくり触っていくことで、しこりができているかどうかは割と簡単にわかります。左右同時に触っていくと、左右差があるところがより分かりやすくなります。
しこりが見つかった場合、次に行うのは針生検という検査です。しこりの部分に細い針を刺して細胞を採取し、それによって腫瘍の種類の見当をつけておくための検査です。乳腺にできたしこりがすべて乳腺腫瘍とは限らず、中には肥満細胞腫や脂肪腫などの他の腫瘍、ということもあります。
腫瘍の種類をある程度振り分けることは治療の計画を立てる上でとても重要で、例えば肥満細胞腫という腫瘍であった場合には手術範囲や転移しやすい臓器が変わってきます。
複数のしこりがある場合には、理想的にはすべてのしこりに針生検を行います。中には乳腺腫瘍と肥満細胞腫が混在している、ということもあります。
針生検は手術を行う前段階の検査で、確定診断は実際に手術をして切除した組織を病理検査に出して行います。針生検では良性か悪性かの判断はできませんが、病理検査に出すことで良性・悪性の診断がつき、どの程度進行しているのか、取りきれているかどうかなどの情報も得られます。
治療は主に外科手術、抗がん剤治療、対症療法に分けられます。
・外科手術
乳腺腫瘍の場合、治療の基本は外科手術になります。
手術の目的は腫瘍を取り除くことももちろんですが、最終的な診断をするための材料をとる、という意味合いもあります。
手術に臨む前には、全身状態を調べる検査をします。麻酔には耐えられそうか、他の病気はないか、転移は起こっていないかなどを調べたうえで、手術方法や切除範囲などを決定します。この時点ですでに深刻な転移が見つかった場合は、外科手術を断念することもあります。麻酔や外科手術による体へのダメージが腫瘍に対する抵抗力を下げ、手術をすることによって転移巣の成長を速めてしまう可能性があるからです。しかし、腫瘍が大きく自壊し、腫瘍があることそのものが著しく生活の質(QOL)を低下させているような場合は、転移があってもQOLの向上のために最低限の手術をすることもあります。このような判断は獣医師と飼い主さんとでよく話し合ったうえで決定します。
良性腫瘍であれば手術による切除で治療は終了です。悪性腫瘍であった場合でも、腫瘍の広がり具合によって初期であると判断された場合は外科手術後に追加の治療を積極的にすることはなく、残った乳腺と肺に転移病変ができてこないか定期的にチェックするだけになります。
手術では、ごく小さなものであればしこりだけを切除することもありますが、乳腺組織を損傷することがあるため、1cmを超えるようなものでは乳腺ごと切除します。リンパ節が近くにある場合や、明らかにリンパ節が腫れている場合はリンパ節も合わせて切除します。乳腺にできたしこりが単独であればその乳腺だけ、いくつかの乳腺にまたがってできている場合には、2~3個の乳腺をまとめて取ったり、片側の乳腺を全摘出、あるいは両側の乳腺を全摘出する場合もあります。手術する範囲が大きくなればなるほど麻酔時間が長くなり、傷も大きくなるため、体に加わる侵襲は大きくなり、術後の回復にも影響します。手術をどこまでするかは、術前の検査で全身状態をよく評価してから決められます。
また、手術時に未避妊の状態であれば、避妊手術も合わせて行うことがあります。
・抗がん剤治療
乳腺腫瘍の場合、初めから抗がん剤を使うことはあまり多くありません。抗がん剤だけでしこりが消失することは期待できないことと、悪性かどうかは転移がまだ見られていない場合は切除しないとわからないからです。
手術後、病理検査で悪性と診断され、リンパ節などに転移が認められた場合や、肺転移が多数認められた場合、肺転移による呼吸障害が懸念されるとき、後述する『炎症性乳癌』などの場合に、進行の抑制のために使用されることがあります。
抗がん剤の投与は基本的には病院で行われます。抗がん剤投与後は発熱や吐き気、下痢などの副作用が出ないか、自宅で状態をよく観察することが重要です。
・対症療法
診断時にすでに転移があり、かなり進行した状態であった場合や、大きな腫瘍が破れて出血や感染が起こり、体が衰弱したような症例では、対症療法で体の状態を少しでも楽にしてあげることが治療のメインになります。
食事や水分をとることが難しい場合には、皮下点滴などで脱水を改善してあげると少し元気が出ます。しこりが破れて出血などがある場合は、消毒してガーゼなどを厚めに当て、包帯やネット、服などを着せて床に直接擦れないように保護してあげます。感染が疑われたら抗生剤を、痛みがある場合は痛み止めなどを使用する場合もあります。
肺転移の末期になると、呼吸の苦しさが目立つようになります。今は在宅酸素のレンタルなどもあるのでそれらを活用することで、自宅で最期を迎えられるようにしてあげることができます。
乳腺腫瘍の中で、私たち獣医師が最も警戒するのが『炎症性乳癌』です。悪性の乳腺腫瘍の一つですが、腫瘍の細胞がリンパ管などに強く浸潤した特殊な乳腺癌です。
乳腺全体が板状に硬く熱を持って腫れ、時には四肢の内側まで浮腫を起こし、激しい痛みを伴うことが多く、全身状態を非常に悪くします。進行が早く、予後は非常に悪いとされています。
炎症性乳癌の場合、手術はできません。手術による侵襲によってさらに周囲の組織の炎症を引き起こし、悪化するといわれているため、手術はしない方が良いと言われています。治療は鎮痛消炎剤による対症療法がメインとなります。症状の緩和目的で抗がん剤の投与や放射線療法を実施することもありますが、あまりいい成績は報告されていません。
乳腺腫瘍は、犬猫の腫瘍の中でも非常に発生の多い病気です。しかし、前述したように避妊手術によってある程度予防することができ、また腫瘍ができてしまっても、乳腺をよく触ることで自宅でも早期に発見できる腫瘍です。悪性であっても転移が起こる前に早期に治療できれば、十分根治が見込めます。
シャンプーの時などにチェックしたり、心配であればワクチン接種などの際にかかりつけの獣医さんにもチェックしてもらい、早期発見・早期治療につなげたいものです。
猫が下半身麻痺になる原因は様々なものがあります。その症状とともにご紹介していきましょう。
1.外傷
猫の下半身麻痺の原因で、1番多いものが外傷によるものです。交通事故や転落事故により骨盤を骨折したり、脊髄や神経を痛めてしまったりすると後肢や尻尾を動かすことが出来なくなってしまいます。
また、事故の際に目立った外傷がなくても、脊髄損傷や神経を痛めてしまっている可能性があります。そのため事故にあった際は、強く揺すったり動かしたりせず、優しくタオル等で包むようにして動物病院に連れて行きましょう。
2.心臓疾患
外傷も無いのに急に下半身麻痺の状態になってしまった際は心臓疾患が疑われます。
肥大型心筋症などの心臓疾患によって、血管に出来た血栓が足の血管に詰まってしまうのです。
多くの場合は後肢の動脈に詰まり、そこから先に血液が流れなくなってしまいます。そのため片方の足もしくは両足が動かせない状態になってしまうのです。
また血液の循環が止まってしまった足は冷たくなり、痛みも強いため身体を触られるのを嫌がります。
血栓が詰まってしまうと迅速な処置が必要です。血流が無いと足が壊死してしまい、最悪の場合命に関わってきます。
3.奇形
生まれつき下半身麻痺で産まれてくる場合もあります。これは母猫のお腹の中にいる際に、何らかの原因で後ろ足や骨盤の形成不全が起こることが原因と言われています。
野良猫の場合、子猫の際は母猫が排泄の世話をすることで生き延びる場合もありますが、成猫になると自力での排泄が出来ない事や麻痺している足からの感染等によって、生存は難しくなるでしょう。
4.椎間板ヘルニア
犬では下半身麻痺の原因として第1位の椎間板ヘルニアですが、実は猫でも起こる可能性があります。
足が短く改良されてきた猫や、肥満の猫に多く起こり、下半身に力を入れることが出来ず、腰が抜けたような状態になってしまいます。また、椎間板物質が神経を圧迫しているため強い痛みを伴います。
椎間板ヘルニアはグレードが進むごとに完治は難しくなるため、初期の発見、そして治療が大事です。
何らかの病気や事故によって下半身麻痺になってしまった場合、多くは今後の生活に介護が必要になることでしょう。下半身麻痺の際に必要な介護の種類と方法について詳しくご説明をしていきます。
1.圧迫排尿
猫の下半身麻痺では、多くの場合排尿が自分で出来なくなってしまいます。尿が排出出来ずに膀胱の中に溜まってしまうと膀胱破裂や尿毒症に陥り、命の危険がありますので必ず人間の手で出してあげることが必要です。
人間が排尿をさせるためには、圧迫排尿という方法が取られます。
圧迫排尿は外側から膀胱を圧迫し、尿道から尿を排出させる方法なのですが、簡単な方法ではありません。
具体的な方法としては、下腹の部分を親指、そして人差し指と中指でゆっくりと軽く力を入れながらお尻の方に向かって動かします。すると通常であれば玉子位の大きさの膀胱が触れますので、それをお尻の方に向かって全部の指を使いゆっくりと絞っていきます。
これを基本的には1日2回行います。
圧迫排尿を行っている方の多くは人間のトイレで絞ることが多く、慣れてくれば1回5分以内に終わらせることが出来ます。
しかし1回の圧迫排尿で膀胱内の尿をしっかりと絞りきることが出来ないと、残った尿によって膀胱炎になってしまったり尿管結石が出来てしまったりしますので注意が必要です。
最初はなかなか膀胱が分からず、上手に絞ることが出来ないことがほとんどです。獣医師や動物看護師も最初から上手に絞ることが出来る人はなかなかいないでしょう。
そのため圧迫排尿が必要だと診断を受けた際には、動物病院で獣医師や看護師とともに難語も練習を行い圧迫排尿のコツを掴むようにしましょう。
2.用手排便
圧迫排尿が必要な猫の中には排便だけは自力で行える猫もいます。これは膀胱を収縮させる筋肉と排便をするために必要な筋肉の種類が違うためです。下半身麻痺の猫の中には排便をする筋肉も動かすことが出来ない猫もいます。その場合はどんどん便が腸の中に詰まってしまいますので、人間の手で排便をさせてあげる必要があります。
排便をさせる方法としては2通りあり、一つは便を掻きだす方法です。
手袋などをして直接肛門から指を入れ、肛門付近に溜まっている便を掻きだします。
しかしこの方法ですと不快感を伴うこともあるため猫が嫌がることも多く、また直腸内の炎症などの原因にもなってしまうことがあり注意が必要です。
もう一つの方法としては圧迫排尿と同じように外側から直腸を圧迫し、排便を促す方法です。膀胱よりも背骨の方向に直腸があり、便が溜まるとその部分に便を触ることが出来ます。手のひらと指を使い、ゆっくりと肛門付近に押し出していくことで肛門から便を出します。通常1日1回から1日置きに行います。
圧迫排便は圧迫排尿と同じように多少コツが必要ですが、慣れれば炎症などのリスクも少なく行えます。日頃は圧迫排便を行い、便が溜まってきてしまった際は掻きだしの方法を取ることによってリスクを最小限に抑えることが出来るでしょう。
また上手に掻き出すことが出来ない場合は無理をせず、動物病院で行ってもらうようにしましょう。
3.擦過傷の予防
下半身麻痺になってしまった場合は後ろ足に力を入れることが出来ずに引きずって歩くようになるため、すり傷や切り傷が出来てしまうことがあります。傷が出来ても痛みを感じないため悪化しやすく、早期に発見して治療を行うことが大切です。
また老化などにより動きが鈍い場合や寝たきりになってしまっている場合は床ずれなどが発生してしまう危険もあります。
骨が突出している部分(腰や膝など)に多く出来ますので、厚めの服を着せたり低反発のマットを使用したり工夫してあげましょう。
各都道府県が管理している動物愛護センターや、民間の保護団体のもとで保護、収容、管理されている犬猫たちのことを保護犬・猫と呼びます。
保護犬・猫たちは保護、収容される理由が多種多様であり、年齢や身体、心の状態、しつけ、人に慣れているかなどは、その犬猫たちが保護、収容までに暮らしてきた生活で大きく違いがでます。
動物愛護センターでは、このような保護犬・猫たちの精神的肉体的ケアはもちろんのこと、必要に応じて訓練を行い、新しい家族と出会える機会を作ります。また、動物愛護センターから一旦引き取り、同じようにケアや訓練を施して里親募集をする、民間の保護団体も年々増えてきています。
譲渡会や里親募集をされる犬猫には、下記のような様々な特徴があります。
・仔犬・猫よりも成犬・猫が多く、シニアもいる
・性格適正テストをクリアしていても、臆病、人見知りな性格の犬猫が多い
・障がいや疾患を持っている子もいる
・血統書はなく、雑種(ミックス)の犬猫が多い
センターや団体から犬猫を迎えるときにたくさんの条件が提示されるのは、このような特徴のある犬猫たちを迎える人にきちんと覚悟と決意を持ってもらうためであり、二度と施設に戻されたり手放されたりが無いよう、飼い主としてふさわしくない人をふるいにかけるためでもあります。
ここで紹介するのは、一般的なお迎えの流れであり、各センターによって多少流れに違いはあります。
1、住んでいる都道府県が管理している動物愛護センターに、電話やメールなどで連絡をとります。
保護犬・猫、譲渡犬・猫をお迎えしたいことを伝えましょう。施設や時期によっては、保護、収容されている犬猫がいない場合や、里親募集を行っていない場合もあります。
2、センターが実施する、犬猫を飼う為の講習を受講します。
講習会の内容は、犬猫を飼うことの心得や飼育動物についての法律です。どれも飼い主として当たり前に知っておかなければならない内容ですので、必ず受講しましょう。
3、定期的に行われる、譲渡会に参加します。
様々なテストをクリアした犬猫と対面、場合によっては触れ合うこともできます。性格、年齢、障がい、疾患、仔犬であれば今後どれくらい成長するのか、保護・収容前後の様子などきちんと知り、家族として迎えられるのか検討しましょう。衝動や雰囲気に流されず、その犬猫を最後まで幸せに飼いとげることができるか、十分に悩むことが大切です。一回目で良い出会いがなかったとしても、譲渡会には何度でも参加できます。
4、希望の犬猫が見つかったら、譲渡希望を申し込みします。
譲渡希望が重なってしまった場合は、主にセンター職員が飼い主としての適正と犬猫を照らし合わせて、どの希望者に譲渡するかを判断します。センターによっては希望者同士で話し合いを行ったり、もう一度犬猫と対面や触れ合いを行って判断することもあります。
5、譲渡が仮決定したら、譲渡講習を受講します。
最初の講習とは違い、犬猫を迎えてからの必要な登録手続きや、ワクチンについての講習です。猫の譲渡の場合は、この譲渡講習がない場合もあります。
6、譲渡が決定。犬猫を自宅に連れ帰ります。
講習を終え、譲渡にあたってのセンターで必要な手続きを終えたら、いよいよ犬猫を自宅へ迎えることができます。もちろん、必要なペットグッズなどはそれまでに揃えておきましょう。お迎えの時には必ず首輪、リード、キャリーなどを持ってお迎えに行きます。
またセンターによっては、数千円ほどの譲渡料金を設けている場合がありますので、事前に確認をして用意しておきましょう。
ここで紹介するのは、一般的なお迎えの流れであり、各保護団体によって多少流れに違いはあります。
1、 保護団体のホームページやSNSアカウントで里親募集を確認して、見学などの予約をします。
里親募集をしていない場合でも、施設や犬猫の見学をすることができることもあります。どんな保護団体なのかをよく知るためにも、サイトやSNSをしっかりチェックしましょう。
2、 施設へ訪問したり、民間やボランティアが開催する譲渡会へ参加します。
近年では、里親募集も併用している保護猫カフェや保護犬カフェも増えています。自分に合った保護団体、見学・譲渡方法を見つけましょう。
3、 譲渡希望の犬猫が決まったら、説明を受けてトライアル期間が始まります。
ほとんどの場合、民間の保護団体は譲渡について厳しい条件を設けています。家族構成、職業、家の間取り、犬猫についての知識や資格など、その団体や犬猫によって様々です。それらをクリアしてすると、期間限定のお試しで自宅に犬猫を迎えるトライアルが始まります。団体によっては期間中に職員が訪問して、家や里親、犬猫の様子を確認したりと、この期間に、本当にきちんと飼うことができるのかを見定めます。
4、 トライアルを合格して、譲渡が決定したら自宅へ迎え入れる
里親、団体の両者が問題ないと判断したら、譲渡が決定です。犬猫はトライアルのまま団体に戻ることなくお迎えになる場合や、団体に一度戻ってから手続きを済ませ、正式なお迎えになる場合もあります。
悲しいことに、動物愛護センターや民間の保護団体から里親へ引き取られた犬猫が、再び施設へ戻ってくることがあります。
俗に「出戻り」と言われ、やっぱり飼えなかった、思ったより大変だった、懐いてくれなかった、など理由は様々です。
犬猫をお迎えするとき、その子を最後まで見届ける覚悟をもって、生涯と共にする家族としてお迎えしましょう。