犬の場合、最初は人間の狩りを手伝うことから入ったと考えられています。大きな獲物を運ぶのにも犬は役立ったようです。
また狂暴な野生動物が人の周囲をうろついているときは、犬が見張り役としても活躍してくれました。敵が来ると威嚇し、吠えたてて追い払ってくれる犬たち。犬に守られて、人々はどんなにか心強かったでしょうか。犬は人から獲物のおこぼれをもらい、お互いが助け合って暮らすようになり、現在のようになっていったようです。
麻布大学獣医学部の菊水健史教授と永澤美保特任助教は、著書『犬のココロをよむ 伴侶動物学からわかること』のなかで、ホモサピエンス、つまり現代人は犬に守られることで安心して十分眠れるようになったこと、さらに警戒心や防衛という能力の必要性が徐々になくなっていったのではないかと述べています。さらに犬と共存することで狩猟の効率があがり、食料も豊かになって人口が増えてきたのではないかと予想しています。
3万年前は現代人もネアンデルタール人もともに存在していたと考えられています。生き延びた現代人と滅んだネアンデルタール人。興味深いことに、双方の遺跡に「ある違い」があるそうです。
それは「犬に似た動物の骨」の存在です。現代人の遺跡からは、ていねいに葬られた犬に似ている動物の頭骨が発見されています。ところが滅んでしまったネアンデルタール人の遺跡からは、そのような動物の骨は見つかっていないそうです。つまり犬に似た動物と共存することで現代人は生き延び、共存しなかったネアンデルタール人は滅んだのではないかと考えることができます。私たちが今ここにいるのは、犬のおかげかもしれませんね。
犬は現在でも嗅覚や聴覚が鋭く、人が気づかないような気配にもいち早く気づいて知らせてくれます。つまり「吠えること」は、犬にとっては当然のことといえます。吠えてもむやみに叱らず、吠えなくていい環境にしてあげることが大切です。
また犬は大きな獲物を群れで分け合って食べていた名残があるため、出された食べ物は大急ぎで食べてしまいます。これも犬の習性なのだと理解したうえで、フードは分けて食べさせるといいですね。
一方、猫は犬よりもちょっと遅れて約1万年前から人と共存し始めたようです。人間が農耕をするようになり、収穫した穀物を蓄えはじめると「ねずみ」などげっ歯類の存在に悩まされるようになりました。そこで大切な穀物を荒らすねずみたちを追い払う役目を、猫が行うようになったと考えられています。
猫には人には懐かないというイメージが一般的にはあるようです。「猫は人につかず家につく」ということが昔からいわれていますが、これには異を唱えたいオーナー様も多いのではないでしょうか。
実際猫は「飼い主さん」と「見知らぬ人」を、きちんと認識していることが実験で明らかになっています。実験では、見知らぬ人が撫でた場合と飼い主さんが撫でた場合の猫の反応は大きく異なりました。また見知らぬ人よりも、飼い主さんの声に強く反応したという結果がでています。猫は視覚や聴覚を使って、人を認識し区別していることが伺えます。最近では臭覚も使っているのではないか、と予想されています。
また猫は、飼い主さんの感情の動きも理解しているようです。海外の研究では、飼い主さんの心の状態に合わせて猫が行動を変化させていることがわかっています。研究では元気のない飼い主さんには、猫が体をこすりつける回数が多くなったとか。落ち込んだ気分のときは、愛猫がそばにいることが多いというオーナー様もいらっしゃるかもしれませんね。
猫の「にゃあー」という甲高い声を聞いただけで「ご飯ちょうだいと言っている、早くあげないと」と、他の用事を放り出してしまうことがありませんか?
実はご飯をねだる猫の鳴き声は、人の赤ちゃんの泣き声と周波数がほぼ同じ。そのため早くしてあげなくちゃ、と人は思ってしまうようです。これは人と暮らしている間に猫が会得したもの。猫はこの声で鳴くと、人が慌ててご飯を持ってくるということを学習したのです。
大事なパソコンの上に乗るのも、読んでいる新聞の上に乗るのも、そうすると飼い主さんが反応することを猫たちが学んだ結果です。そう考えると私たちは愛猫に観察されているのかもしれませんね。
まだまだ犬と猫、そして人の関わりについてのエピソードはたくさんありますので、ご紹介していきます。犬も猫も、人とともに生きる大切な伴侶、大切な存在であることは間違いありませんね。
★参考文献
『犬のココロをよむ 伴侶動物学からわかること』菊水健史・永澤美保 岩波書店
『なぜネコは伴侶動物になりえたのか 比較認知科学的観点からのネコ家畜化の考察』
齋藤 慈子 動物心理学研究 2018年68巻1号p.77-88