画家の飼っている犬や猫なのか、たまたま出会った犬や猫なのかと気になりますよね。どこか我が家の愛犬・愛猫に似ている気がしたり、画家の犬や猫に対する愛情を感じたりと観ていて飽きません。そこで今回は犬や猫が出て来る絵画を少しですがご紹介します。
フランス印象派の画家「ルノアール」は、犬や猫が大好きだったようです。《シャルパンティエ夫人とその子供たち》に描かれた大きな犬は、水玉の首輪をつけています。どことなく困惑した顏をしていますが、それもそのはず。小さな女の子が、犬の上に座っているのです。
犬はどんなにか迷惑だったでしょう。それでもどこか慣れた風なのは、子供たちの遊び相手としての役割をわかっていたからかもしれません。シャルパンティエ家はルノアールのパトロンでもあり、裕福だったそうですから、犬はおいしいものをたくさん食べていたかもしれませんね。
またルノアールは「タマ」という名の日本犬「狆(ちん)」を描いています。「タマ」は画家マネの知人が飼っている犬でした。今にも動き出しそうな生き生きとした表情と、ふわふわした毛並みを感じ取ることができます。
マネも「タマ」を描いていますが、ルノアールとは当然タッチが異なるため、2人の画家の個性を感じることができます。それにしても犬に「タマ」とつけたのは面白いですね。絵にも「TAMA」と表記してあります。ルノアールはたくさん犬の絵を描いているので、探してみてください。
淡い色調が特徴的なマリーローランサン。《犬を連れた婦人と少女》《幼い少年と犬》など、作品によく犬が登場します。優しいタッチで描かれた犬たちは、精密画ではないのに大変生き生きとしていて、実際にどこかで見かけた犬のように思えるのだから不思議です。
一方絵の中の人間たちは、どこか寂しそうな、そして不安そうな表情をしています。そんな彼らは抱っこしたり、手を置いたりと犬に触れていることが多いのが印象的です。犬に触れることで、気持ちを落ち着かせていたのかもしれませんね。
猫好きの画家も多くいました。あのレオナルドダヴィンチも猫の素描を残しています。《猫のいる聖母子の素描》は中でも有名な素描です。小さな子供とはもちろんキリスト。キリストに抱っこされた猫は、今すぐにでも逃げ出したそうな様子なのがユーモラスです。この絵は大英博物館に所蔵されています。
藤田嗣治(レオナール・フジタ)も猫をよく描いていました。《アトリエの自画像》では、丸いメガネが特徴的な藤田の背中の上に、ちょこんと乗ったキジトラの猫が描かれています。ほのぼのとした温もりを感じる絵画です。
一方、《争闘(猫)》では猫14匹が争う様子が描かれています。口を大きく開けている猫、爪をむき出している猫、高くジャンプしている猫。どの猫も力強く精密に描かれています。どこか不安な印象を覚えるのは、描かれた年が1940年であり、太平洋戦争で世界が暗かった年代だからかもしれません。
歌川国芳の浮世絵に描かれた猫たちは、何ともユーモラスです。擬人化された猫たちは、踊ったり歌舞伎の役者になったりと大活躍。東海道五十三次に出て来る地名を猫で表すなど遊び心もいっぱいです。例えば「興津(おきつ)」は「起きず」としゃれて、寝ている猫が描かれています。
面白いのは浮世絵に描かれている多くの猫が短い尾をしているということ。江戸時代、庶民は長いしっぽを持つ猫が「猫又」という妖怪になると恐れていたことが理由かもしれません。
ポップアートといえば思い浮かぶのがアンディーウォーホルです。ウォーホルはシルクスクリーンやリトグラフで、たくさんの猫を描いて残しています。猫はピンクだったりブルーだったりと、いかにもウォーホルらしくポップな色合いです。しかし全く不自然ではなく、本当にこういう猫がいてもおかしくないと思えてくるのが不思議なところですね。
ウォーホルは猫を25匹も飼っていたのですが、なぜか皆「サム」と同じ名前を付けていたとか。25匹の猫については、イラスト集「25 Cats Name Sam and One Blue Pussy(サムという名の25匹の猫と青い子猫)」を出版しています。
他にもたくさんの絵画に犬や猫が登場しています。犬や猫たちどんな風に描かれているか、画家によってどのように異なるのかと鑑賞するのも楽しいのではないでしょうか。
またご自分の愛犬や愛猫のスケッチに挑戦するのもいいですね。よく観察すると、ここだけちょっと毛の色が違うとか、うちの子はこんな目の色をしているんだ、など新しい発見もあるかもしれません。
参考資料
『名画の中の猫』アンガス・ハイランド キャロライン・ロバーツ著 株式会社エクスナレッジ
『名画の中の犬』アンガス・ハイランド ケンドラ・ウィルソン著 株式会社エクスナレッジ
『ルノワールの犬と猫 印象派の動物たち』安井裕雄著 講談社