門脈とは、肝臓に入る血管の一つで、胃腸で消化・吸収された栄養分や薬物などを含む血液を肝臓に運ぶ重要な血管です。
運ばれた血液の中の栄養分や薬物は、肝臓内で代謝・貯蔵されたり、解毒されたりすることで、体に害のない状態で有効に活用されるようになり、有毒なものや不要なものは体外に排泄されるための処理を受けます。
門脈シャントとは、本来肝臓を介してから全身に送られるべき門脈からの血液が、他の血管を介して、肝臓を通らずに全身循環に入ってしまう病気です。
門脈シャントが起こることによって、代謝・貯蔵されるべき栄養分がうまく活用されず、また体にとって有毒な成分が全身を巡ることによって、発育不良や体調不良を起こします。
門脈シャントが起こる原因は、大きく先天性と後天性の2つに分けられます。
先天性のものは生まれつきの血管の奇形で、門脈がほかの太い血管につながってしまっているために、本来の門脈の血流が乏しくなり、肝臓に十分な栄養が送られず肝臓が小さくなり、体全体としても発育不良などが起こります。
後天性のものは、肝臓の問題が原因で門脈が高血圧になり、門脈に血液が流れにくくなることで起こります。
原因となる肝臓の病気には、肝硬変、肝線維症、慢性肝炎、腫瘍などが挙げられます。
先天性のものでは、発育不良が挙げられます。
他の兄弟に比べてひときわ体が小さい、ということがよく見られます。
また、特徴的なものには神経症状が挙げられ、特に食後に発現する又は悪化する意識障害などがみられます。
これは肝臓で代謝・解毒されるべきアンモニアをはじめとする有害物質が、解毒されずに全身を巡ることによっておこります(肝性脳症)。
また、糖の代謝もうまくできないため、低血糖による痙攣が起こる場合もあります。
この他には、代謝異常から膀胱結石なども起こしやすく、結石による刺激で血尿や頻尿などの膀胱炎症状も見られます。
後天性のものでは、門脈に血液が流れにくくなることによって腸間膜などの血流がうっ滞しがちになり、腹水が溜まることもあります。
診断には、身体検査をはじめとする基本的な検査から、最終的には造影検査など特殊な検査まで必要になります。
身体検査では、発育不良や腹水の有無、神経症状の有無などをチェックします。
血液検査では、アンモニアや総胆汁酸という項目が高値を示す一方で、タンパクやコレステロール、BUN、血糖値といった項目は低いことが多くなります。
レントゲン検査では、先天性のものでは肝臓が小さいことが多く、引き続き行われる超音波検査では、シャントを起こしている異常な血管が認められることがあります。
ただし、後天性の門脈シャントなどの場合は、細いシャント血管が数十本から数百本形成されるため、超音波検査ではっきりとわからない場合もあります。
ここまでの検査を総合して門脈シャントが疑わしいとされた場合、次の段階としてはCT造影検査や門脈造影検査(開腹手術)などを行うことになります。
先天性門脈シャントの場合は、シャント血管を手術によって閉塞させることが根本的な治療になります。
ただし、1回の手術で完了する場合もあれば、血管を縛って閉塞させる際の血圧の急激な変化に体が対応できないこともあるため、そのような場合には部分結紮を行って数か月後に再度血管を閉塞させる、という段階的な方法をとる場合もあります。
手術後、合併症などが起こらなければ予後は良好です。
一方、後天性の門脈シャントの場合は、外科手術は不適応です。
原発疾患である肝疾患を治療することにより症状を改善させ、良好にコントロールできるかどうかがポイントになります。
肝臓では門脈から流れ込んだ血液を処理する、解毒を行うために老廃物や有害物質の代謝を行う、という働きの性質上、腸から吸収された発がん物質への暴露や有害物質との接触が多くなり、腫瘍が発生することがあります。
しかし、その発生頻度はそれほど高くなく、犬では1~2%、猫では1~3%程度とされています。むしろ、他の部位にできた腫瘍の転移が認められることの方が多くなっています。
肝臓に認められることがある腫瘤の種類には主に以下のようなものがあります。
肝細胞腫瘍:肝細胞癌、肝細胞腺腫、結節性過形成
胆管細胞腫瘍:胆管細胞癌、胆管細胞腺腫
肝カルチノイド
血管肉腫
リンパ腫
転移性腫瘍…など
診断は血液検査、レントゲン検査、超音波検査などで肝酵素の上昇、肝臓の形・大きさの変化、構造の異常を見つけた後、腫瘍がある場合には組織をとって検査をする、という流れになります。
基本的には体に負担の少ない方法から検査を進めていくことになりますが、肝臓の悪性腫瘍の場合には、血液の凝固異常によって出血しやすい状態になっている場合もあるため、細い針を刺して検査をするのか、もう少し太い針で組織がとれるのかを慎重に判断する必要があります。
場合によっては、針を刺すこと自体がハイリスク、ということもあり、その際は腹腔鏡で止血をしっかり確認しながら肝臓の一部を切除して検査、あるいは検査を兼ねた外科手術で腫瘤自体を摘出してしまう、という選択をすることもあります。
また、大学や大きな医療施設では、CT検査や超音波造影法という検査も行うことができ、それによって腫瘍の広がり具合や、ある程度、悪性・良性の判断がつけられる場合もあります。診断の補助として非常に有効な方法です。
肝臓に腫瘍があるときの症状は特徴的なものはあまりありません。
腫瘤や肝臓全体が大きく腫れることで、元気消失や食欲不振、体重減少、吐き気、下痢などが起こります。
肝臓の腫瘤がさらに大きくなって初めて腹囲膨満、腹水、黄疸などがみられるようになり、ようやくおなかの検査を受けることがほとんどです。
そのため、定期的に血液検査や、犬猫ドックを受けていなければ、早期発見できないことがほとんどです。
ここからはそれぞれの腫瘍について簡単に解説していきます。
肝細胞腫瘍
肝細胞腫瘍には悪性の肝細胞癌と良性の肝細胞腺腫、また腫瘍というより肝細胞が部分的に増殖しただけの結節性過形成が含まれます。
・結節性過形成は高齢犬(10歳以上)で多く認められ、多発することもありますが基本的に小さく(3cm以下)、肝臓の細胞の構造は壊されていないため、これに伴った症状はほとんど示しません。
基本的に手術なども必要ありません。
・肝細胞腺腫は単一で、小型から大型の腫瘤を形成する腫瘍です。
基本的には症状はなく、ほとんどが偶然発見されます。手術によって切除されれば予後は良好です。
・肝細胞癌は単一の腫瘤の場合もあれば、肝臓全体に腫瘍が浸潤することもあり、肝不全の症状を示して発見されることが多い腫瘍です。
特徴的な症状として、低血糖が認められることがあります。
悪性に分類されますが、単発性で手術で摘出が可能なものは再発や転移もなく、予後は良好とされています。
一方、同じ肝細胞癌でも、大血管を巻き込むほど大きくなった腫瘤や、肝臓全体に多発・浸潤するタイプのものでは予後は良くありません。この場合は対症療法で体調の管理を行う治療がメインとなります。
肝細胞腫瘍の大きな問題は、この3タイプの腫瘍の区別をつけるのが難しい、という点にあります。
もちろん、手術で摘出してしまえば診断は可能ですが、中には結節性過形成のように手術が不要なものもあります。
より安全で負担の少ない検査を獣医師とよく相談することが大切です。
胆管細胞腫瘍
胆管細胞腫瘍には良性の胆管細胞腺腫と胆管細胞癌があります。
犬ではあまり発生が多くなく、猫では肝臓腫瘍の半数を占めるといわれていますが、肝臓原発の腫瘍自体の発生が少ないため、それほど多い病気ではありません。
・胆管細胞腺腫は良性で、腫瘍が成長して周りの組織を圧迫するようになるまで無症状のことが多い腫瘍です。外科手術による切除で予後は良好です。
・一方、胆管細胞癌は悪性で、肝臓全体に浸潤するように発生したり、多発することが多い腫瘍です。切除できても再発・転移が多く、効果のある抗がん剤なども報告されていないため、ほとんどの症例では対症療法がメインとなり、予後不良とされています。
肝カルチノイド
肝カルチノイドとは、肝臓内や胆嚢にある神経内分泌細胞の腫瘍です。
他に腫瘍に比べると若い(8歳)段階で発症するまれな悪性腫瘍で、転移が高率に発生します。
診断時には肝臓全体に多発性に腫瘤を作っていることが多く、手術が可能であることは非常に少ないため、予後は不良とされています。
肝臓血管肉腫
血管肉腫とは血管の内側の細胞の悪性腫瘍です。
血管肉腫は脾臓や心臓に起こることが多いため、転移として起こることがありますが、肝臓に初めにできることもあります。
普段はほとんどが無症状ですが、この腫瘍は脆く、大きくなると破裂することがあり、出血によってショック症状を示して緊急来院することがあります。
血液検査では貧血、血小板減少、血液の凝固異常、低タンパク、肝酵素上昇などを示すことが多く、中には輸血を必要とする場合もあります。
腫瘤が限局的であれば手術も検討しますが、一般的には肝臓全体に浸潤しており、手術できないことが多い腫瘍です。また、他の組織への転移が高い確率で起こるため、手術を行ったとしても抗がん剤療法などで補助的に治療することが必要になります。
いずれの場合も予後はあまり良くありません。
肝臓リンパ腫
リンパ腫は全身性に起こる血液系の腫瘍ですが、まれに肝臓が原発で起こることがあります。特に猫で多く認められます。
1つの大きな腫瘤を作るというより、肝臓全体が大きくなることが多くなります。
針生検などで診断が可能ですが、より詳細に分類する(悪性度の評価)ためにはもう少し大きな組織をとって検査が必要になることもあります。
治療は抗ガン剤療法がメインとなります。
転移性腫瘍
肝臓には門脈からの血流を介して、脾臓・胃・腸・膵臓などの臓器から血液が流れこむため、他の部位にできた様々な腫瘍の転移が起こることがあります。
多いものでは脾臓の血管肉腫、胃・腸の腫瘍、膵臓の腫瘍、また全身性に起こるリンパ腫や肥満細胞腫、組織球肉腫といったものです。
転移性の腫瘍の場合、肝臓自体のみの治療ではなく、原発部位の治療に合わせて抗ガン剤療法などを行いますが、一般的には予後が悪く、対症療法で体調を整える治療がメインとなります。
このように、肝臓にできる腫瘍には様々なものがあります。
決して発生頻度の高いものばかりではありませんが、症状があまり出ないことを考えると、進行する前に何とかして見つけてあげたいものです。
そのためにも、定期的に健康診断を受け、特にシニア期には年1回程度の犬猫ドックを検討してみてください。