ウィズぺティ
初めての方へ会員登録ログイン買い物かご
TOP > 会報誌「ウィズペティ倶楽部」 > 犬猫の皮膚疾患。食事で維持する皮膚バリア。
獣医師
齋藤厚子
犬猫の皮膚疾患。食事で維持する皮膚バリア。

皮膚の役割と皮膚に起こる変化

動物の体を覆う皮膚には、体温調節機能、免疫器官としての機能、感覚器官としての機能、外界からの体を守るバリア機能など、様々な機能があり、体を健康に維持するためにとても重要な働きをしている器官です。
体に不調があると皮膚の状態が悪くなることもあり、全身の健康状態のバロメーターとも言えます。

皮膚病に関連して特に重要なのはバリア機能で、水分を保って乾燥から体を守ったり、外界からの刺激や細菌・ウイルスなどの侵入から体を守ってくれています。
このバリア機能が何らかの原因で破綻すると、細菌や刺激物が体の中に入り込み、炎症を起こしたり皮膚が荒れたりします。

犬猫の体は毛で覆われているため、直接皮膚(地肌)を見る機会は少ないですが、皮膚は被毛の土台となっているため、皮膚の状態が悪くなると毛艶が悪くなったり毛が抜けたりします。
また、フケが増えたり、皮膚表面に湿疹ができる、痒みが出る、瘡蓋ができる、出血するなどといった状態の変化が見られます。

皮膚に上記のようなトラブルを起こす主な原因としては以下のようなものがあります。
・感染症(細菌、真菌など)
・外部寄生虫
・食物アレルギー
・その他のアレルギー(アトピーなど)
・ホルモンバランスの異常
・ストレス
・品種(体質)
・その他(腫瘍など)

これらの皮膚疾患の多くに共通していえることとして、「皮膚のバリア機能を保つこと」が治療や予防に重要なカギとなります。
つまり、皮膚のバリア機能を維持することで皮膚のトラブルを回避したり軽減することができるのです。

皮膚の健康と食事の関連

犬猫の体においては、皮膚は体重の15~20%をも占める大きな組織です。
さらに犬や猫は全身が毛で覆われ、さらに季節による換毛もあり、皮膚や被毛を作るためにヒトよりも多くのタンパク質を消費するといわれています。

皮膚の角質や被毛を構成するケラチンはタンパク質の構成成分であるアミノ酸から構成されており、犬や猫では摂取したタンパクの約30%が皮膚や被毛に使われます。
犬猫の皮膚は約21日のサイクルでターンオーバー(古い皮膚と新しい皮膚が入れ替わること)しますが、そのためにはたくさんの栄養が必要になるということになります。
ターンオーバーに必要な栄養が不足すると、健康な皮膚が形成されずバリア機能が低下し、皮膚のトラブルが起こりやすくなってしまいます。

そのため、良質で消化性の良いタンパク質を摂取することが健康な皮膚の維持には欠かせません。
中でも低分子のタンパク質や加水分解されたタンパク質は消化性が高く、アレルギーの原因にもなりにくいため、アレルギー疾患の予防・治療としても用いられます。


皮膚疾患を発症している場合、原因によっては投薬(抗生物質や駆虫剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド、免疫抑制剤、ホルモン剤など)が必要になる疾患もありますが、そのような場合であっても食事面のサポートによって皮膚の健康を補助することが治療に大きく役立ちます。

そのため各フードメーカーでは、皮膚が弱い犬猫のためのフードやアレルギー性疾患に対応した特別な療法食を研究・開発して販売しています。

皮膚症状を示すアレルギー疾患の治療と食事の関連

犬猫のアレルギー性疾患は昔からある疾患ですが、様々な研究が進んだことによってそのメカニズムが徐々に解明され、新しい治療薬の開発が進み、治療方針も刻々と変化しつつあります。

アレルギー性疾患には様々なものがありますが、代表的なものとして
・食物アレルギー
・ノミアレルギー
・接触性アレルギー
・アトピー性皮膚炎
などが挙げられます。
犬と猫では少し病態が異なることがあり、猫ではアトピー性皮膚炎という呼び名は使用せず、非ノミ非食物誘発性の過敏性皮膚炎などと呼ばれています。

ノミアレルギーの場合はノミの駆除と環境の清浄化、接触性アレルギーの場合はフードボウルや敷物の素材などが原因となっていることが多く、それらを特定・変更することで症状を改善できます。

食物アレルギーは、食事中の特定の原材料に対して体が過敏反応を起こし、消化器症状や皮膚症状を示す疾患です。
そのため治療には食事療法は欠かせず、適した食事が見つかれば投薬などは必要ありません。

アトピー性疾患は、環境中のアレルゲン(花粉やハウスダスト、その他の様々な環境抗原)に対する過敏反応が起こる疾患で、中には食事中の成分にも反応が起こっているケースもありますが、食事以外の要因も大きく影響する疾患です。
アトピー性疾患に関する研究が進み、皮膚のバリア機能の低下・破綻がアトピー性皮膚炎の発症に関わっていることが明らかになってからは、皮膚のバリア機能を改善する治療も症状の軽減に有効とされてきています。
それには皮膚の保湿や正しいシャンプー療法などが挙げられますが、食事の果たす役割も大きいことがわかっています。

食物アレルギーのためのフード

食物アレルギーの治療には、食事選びが大きなポイントとなり、体に合った食事を見つけることが治療そのものとも言えます。

治療に使用されるフードには以下のようにいくつかの種類があります。

・新奇タンパク食
・低分子食
・加水分解食
・アミノ酸フード

新奇タンパク食とは、食物アレルギーの診断及び治療に使用される食事です。
食物アレルギーを疑う場合、それまで食べていたフードの材料やアレルギー検査などである程度原因となっている食材を絞り込みますが、確定診断をするためにはその原因食材を含まないフードを一定期間与えて反応を見る「除去食試験」というものを行います。

新奇タンパク食には一般的な食事と同じく動物が一日に必要なたんぱく質やエネルギー、ビタミン類などはバランスよく含まれており、唯一の違いはアレルギーの原因となりうるたんぱく源を単一の新奇タンパク(それまでに摂取したことがないタンパク質)にしてあるという点です。
例えば鶏肉や豚肉、牛肉にアレルギーを起こすような場合が多いため、サーモン、カンガルー、アヒルなどといった普段口にすることがないような食材をたんぱく源としたフードがあります。
除去食試験で症状の改善が見られれば、そのまま治療としてその食事を継続することができます。

その他の低分子食・加水分解食・アミノ酸フードは、タンパク質をあらかじめアレルギー反応が起こりにくいレベルまで細かく分解してあるフードです。
タンパク質は体の中で分解されて最終的にはアミノ酸として体に吸収されます。
消化されにくいタンパク質は体で利用できないだけでなく、そのタンパクが何らかの要因によってアレルゲンと認識されてしまうことがあり、それが食物アレルギーを起こしてしまいます。
あらかじめ分解されているフードであればアレルギーの原因になりにくく、消化・吸収効率も良いため、吸収されたアミノ酸からタンパクを体内で合成して健康な皮膚を作るのに役立ちます。

アトピー性皮膚炎の治療に役立つフード

食事療法はアトピー性皮膚炎に対しても行われます。
アトピー性皮膚炎は食物アレルギーと異なり、環境中に含まれる様々なアレルゲン(花粉やハウスダスト、カビ、節足動物など)に対してアレルギー反応をおこし皮膚症状が出る病気です。
中には食物もアレルゲンとなっているケースもありますが、食事以外の物質に対しても反応が起こるため、食事療法だけではコントロールが難しい疾患です。

しかし研究が進むにつれ、アトピー性皮膚炎の発症には皮膚のバリア機能の低下や破綻が大きく関わっていることが明らかとなり、単に過剰な免疫反応を抑え症状を抑える投薬治療を行うだけでなく、皮膚の健康状態を正常化することで本来の皮膚のバリア機能を取り戻すことの重要性に注目されるようになってきました。

そのための治療として大きな役割を担っているのが食事療法です。
アトピー性皮膚炎の治療に使用されるフードには、健康な皮膚の形成に必要な栄養素が適切なバランスで含まれ、皮膚の過剰な免疫反応を抑える成分も高濃度で配合することで、体の内側から皮膚バリアをサポートできるような設計になっています。

含まれる成分はフードメーカーによって様々で、それぞれ特有の成分を配合しているものも多いですが、ベースとして含まれている代表的な成分には以下のようなものがあります。

・高消化性のたんぱく質…皮膚の形成に必要なたんぱく質を消化吸収の良い形で配合
・オメガ3脂肪酸(DHA、EPAなど)…炎症反応を調節して抑制する
・オメガ6脂肪酸…炎症反応を調節して抑制する、健康な被毛を保つ
・ビタミンB群…皮膚の調子を整える、皮膚の水分保持成分であるセラミドを合成する
・ビタミンE…抗酸化成分、血行促進作用
アトピー性皮膚炎で不足しているとされるセラミドの合成には、ビタミンB群とタンパク質(アミノ酸)を一緒に摂取することが効果的といわれています。

これらを高濃度にあるいは適切なバランスで含んでいるフードを継続して食べることによって、皮膚の正常なターンオーバーを促し、健康で強い皮膚が形成されます。
皮膚バリアがしっかりしていれば、皮膚表面からのアレルゲンの侵入を防ぐことができ、皮膚の不快症状が改善すると考えられているのです。

フードによって症状が完全になくならなくても軽減してくれれば、痒みを抑えるために必要なお薬の量を抑えることができ、それらのお薬で起こる副作用をも回避することができます。

食事療法をする際の注意点

皮膚疾患の治療として療法食を与える際に、いくつか注意点があります。

まず1つ目として、おやつは禁止、ということです。
おやつを与えることでせっかく調整された栄養バランスを崩してしまったり、おやつに含まれる添加物などに反応して症状が消えないことがあります。
皮膚の症状があり、その治療として療法食を与えている場合にはおやつは与えないようにしましょう。

しつけのご褒美やスキンシップの一環としておやつをどうしても与えたいという場合には、与えているフードの中からおやつとして与える分を取り分けておき、それをおやつとして与えるようにしましょう。

2つ目は、効果が出るまでにある程度の期間が必要なことがある、ということです。

食事を変更したらすぐに効果が出ることを期待してしまいますが、犬や猫の皮膚がターンオーバーするまでには21日程度かかります。
その間はフードの効果が実感できないこともありますが、そこであきらめてしまわず、しばらくフードを続けるようにしましょう。
除去食試験の場合でも効果の判定には2か月ほどかかります。

例外として、フードを療法食に変更して明らかに皮膚症状が悪化した場合などはフードが合っていない可能性が高いので、すぐにかかりつけの病院で相談しましょう。

終わりに

皮膚病は直ちに命に関わる疾患ではありませんが、人でもそうであるように、犬猫にとっても不快症状が強い場合には熟睡できない、リラックスできない、食欲も低下するなど、生活の質を大きく下げてしまうことがある疾患です。

治療のために体に負担をかけるお薬を生涯続けなくてはならないケースもありますが、食事を適切なものに変更することで、その症状を軽減できる可能性があります。
愛犬・愛猫の体質や症状に合った食事が見つかるまでには少し時間がかかることもあるでしょうが、あきらめずに適した食事が見つかれば、きっと今よりずっと快適な生活がやってくるでしょう。

食事の変更は動物の体には負担をかけることにはなりませんので、是非、食事療法も検討してみてください。

ページ先頭へ