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獣医師
齋藤厚子
沈黙の臓器「肝臓」。犬猫の肝疾患には食事療法で効果的にケアを。

肝臓の働きとは?

肝臓は体にとって必要不可欠な臓器です。
体の中で最も大きな臓器で、全身に血液を送り出す心臓や神経活動の司令塔である脳と並んで、体に必要な栄養分などをうまく采配する代謝の要となる臓器です。
代表的な働きには以下のようなものがあります。

・代謝機能:吸収した栄養分を体が使いやすい形に変換してそれぞれの臓器に届ける
・解毒機能:体に入った薬物や体内で生成された有害物質を分解する
・貯蔵機能:エネルギー源となるブドウ糖を貯蔵し必要時に利用できる状態にする
・分泌機能:消化に必要な胆汁を分泌する
・血液凝固機能:血液凝固に関わる凝固因子を作る

これらの機能はどれも一つも欠かすことができず、哺乳類が生きていくために必要不可欠です。
肝臓疾患になってしまうとこれらの機能が低下するために体に様々な不調が生じます。

肝臓疾患にはどんなものがある?

肝臓病の代表的なものとしては、肝臓に炎症が起こる肝炎や、肝臓の細胞に脂肪がたまりすぎる疾患、肝臓の細胞が壊れてしまう疾患、または肝臓の細胞が腫瘍化してしまう病気などがあります。

・感染性のもの(ウイルスや細菌、真菌、原虫などの感染など)
・慢性肝炎(代謝性、中毒性、感染性、自己免疫性などがあるが多くは原因不明)
・銅蓄積性肝障害(特定の好発犬種で遺伝性に起こることがある)
・中毒性
・腫瘍性
・肝リピドーシス(主に猫、長期の飢餓状態などに伴っておこる)
・門脈体循環シャント(先天性あるいは後天性)

またこれらの他に、隣接する他の臓器の影響を受けて肝障害が起こることもあります。
腸炎や膵炎などの炎症が波及して胆管炎、胆嚢炎、肝炎などに発展することもあり、またこれらの病態によって肝臓から分泌される胆汁の流れが滞って肝臓に障害が出ることも少なくありません。

このような肝臓疾患、肝障害が起こっている場合にみられる症状としては以下のようなものがあります。

・食欲不振
・元気がない
・吐き気や嘔吐
・下痢
・体重減少
・水をたくさん飲んでおしっこを大量にする(多飲多尿)
・黄疸
・腹水(低アルブミン)
・神経症状(肝性脳症)

しかし肝臓は予備能力が高く再生能もあるため、初期にはなかなかこうした症状を示しません。
その為早期発見は難しく、症状が現れた段階では既に病気がある程度進行してしまっていることが多いのです。

つまり肝疾患の早期発見には定期的な健康診断が重要と言えます。

肝臓病の治療と食事

肝臓疾患の治療は、原因に対する治療を行うことが必要ですので、まずは全身の総合的な検査を行い、正確に診断をつけることが重要です。
肝炎などでは投薬治療、腫瘍や先天性門脈シャントなどの場合は手術が必要になることもあります。

しかし実際には、目立った症状が見られない肝酵素の上昇や、原因が特定できない肝炎なども多くあります。
これらの治療としては、肝臓を保護して休ませ、肝臓の修復・再生に必要な栄養を十分に補給することが重要になります。

そこで登場するのが食事療法です。
食事を変更することで消化や吸収をスムーズにし、肝臓にかかる負担を減らすだけでなく、療法食には肝臓をサポートする成分が含まれているものが多いため、肝臓を効果的に回復させることができます。

現在は様々なフードメーカーが独自に研究を重ねあらゆる疾患に対応した処方食を販売しており、肝臓疾患時に与えることを目的としたフードも数多く販売されています。

肝臓疾患用のフードの特徴

肝臓の治療をサポートする食事としては、肝臓に負担をかけず、肝臓の再生をサポートする成分が含まれたフードが理想的です。

肝臓疾患用のフードの大きな特徴としては以下のような点が挙げられます。
1.タンパク質の量が調整されている
2.肝臓疾患時に負担となる成分を制限してある
3.肝臓の働きを助ける成分が含まれる

1.タンパク質の量が調整されている
肝臓の重要な働きの一つにはタンパク質を代謝することがあります。
食べ物が消化されると食物中のタンパク質はアミノ酸まで分解されて肝臓に運ばれ、そこでそれぞれの目的に応じた形のタンパク質に再合成されます。

重度の肝障害が起こった時にはタンパク質を代謝した時に生じるアンモニアを解毒できなくなり、アンモニアによる肝性脳症などを起こすリスクが高くなります。
しかしタンパク質は肝臓が再生するためにも必要となるため、極端に制限しすぎることは良くありません。

この二つを両立させるために、肝臓疾患のために作られた療法食では良質な消化性の高いタンパク質を適切な摂取量に調節して配合されており、肝臓にかかる負担を軽減しつつ肝臓の再生・回復をサポートしています。

ただし、肉食動物である猫には高タンパク食が必要なため、タンパクを制限することは稀です。


2.肝臓疾患時に負担となる成分
肝臓疾患の種類によっては、銅や脂肪が肝細胞に負担をかけ、肝疾患を悪化させてしまうことがあります。

例えば銅蓄積性肝障害の場合には食事中の銅の含有量を必要最小限に制限してあるフードが理想的です。
肝臓疾患時に肝臓の細胞内に銅が蓄積されるとそれがさらに肝臓の機能を低下させてしまうからです。

同様に肝臓に負担をかけがちな成分としては脂肪が挙げられます。
肝機能には脂肪の消化・吸収をサポートする役割もあるため、脂肪を多く含む食事は肝臓に負担をかけてしまいます。

これらのことを考慮して、肝臓疾患用のフードでは銅の含有量を制限しているものや低脂肪のフードが多くみられます。


3.肝臓の働きを助ける成分
① BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)
BCAAとは、分岐鎖アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシンの総称です。
肝機能が低下してアンモニアの分解がうまくできなくなると、体内では筋肉が代わりにBCAAを消費してアンモニアを分解するようになります。

アミノ酸は生体内でタンパク質を合成するために使われますが、数種類あるアミノ酸のバランスが悪いと、最も低いアミノ酸のレベルでしかタンパク質を合成できません。

肝疾患時に不足しているBCAAを補給することでアミノ酸全体のバランスを改善し、タンパク合成の底上げをすることができ、肝臓の機能を補助しつつ肝臓の再生に必要なタンパク質も合成できます。
さらにアンモニアの代謝も促進し、肝疾患時に起こる低タンパク(アルブミン)血症に引き続いて起こる腹水貯留を予防する効果も期待できます。

タンパク合成を補助することは、肝臓だけでなく、健康的な体や免疫力を維持することにも役立ちます。

② L-カルニチン
肝臓病の療法食によく含まれる成分として代表的なのがL-カルニチンです。
カルニチンは脂肪の代謝やエネルギー産生に必要不可欠な栄養素で、主に肝臓で合成されます。
しかし肝疾患時にはL-カルニチンの生成量が減少してしまいます。

L-カルニチンを摂取することで脂肪の燃焼・代謝を促すことは、肝臓疾患時に脂質の代謝のためにかかる肝臓の負担を減らすことにもつながります。

③ 亜鉛
亜鉛は体の老廃物であるアンモニアの代謝に関わる補酵素です。
通常は小腸で吸収された後アルブミンというタンパクと結合して肝臓に運ばれますが、肝障害によってアルブミンの合成が低下すると亜鉛は吸収されずに排泄されてしまいます。

そこでタンパクの原料となるBCAAとともに亜鉛を補給してあげることが肝臓の機能をサポートすることにつながります。

さらに亜鉛には、肝臓の細胞に蓄積して肝機能の低下を招く銅の吸収を妨げ、肝臓を守る働きがあります。
そのため、銅蓄積性肝障害をはじめとする様々な肝臓病で摂取が推奨されています。

④ 抗酸化成分
細胞を老化させると言われる活性酸素は、肝臓にも負担をかけます。
抗酸化成分にはビタミンCやビタミンEなど様々な成分がありますが、活性酸素による肝臓へのダメージも軽減してくれる効果が期待できます。


肝臓疾患用の療法食は上記のような点に配慮されたフードが多く、血液検査の数値だけが高い場合はフードの変更だけで改善することもあります。

食事療法時に気を付けたいこと

食事療法は、まずは適切なフードを選ぶことが重要です。
病態によっては同じような療法食であってもこの成分は含まれない方がいい、またはこの成分はできるだけ摂取してほしいということもありますし、肝臓疾患以外に持病がある場合にはそのケアとの兼ね合いも含めてフードを選ばなくてはなりません。
またどんなに良いフードであっても、愛犬・愛猫が気に入って食べてくれなければ選び直しになります。

療法食をより効果的に役立てるために、どのような成分を重要視するべきか、フードの選定も含めてかかりつけの獣医さんに相談することをお勧めします。


療法食を食べ始めたら、おやつはできるだけやめましょう。
療法食はそのフードだけを与えることで体に必要な栄養分が摂取できるように様々な成分が調整されています。

そこに市販のジャーキーなどを加えてしまうと、せっかく低タンパク・低脂肪の食事にしても意味がなくなってしまいます。

しつけやスキンシップの楽しみとしてどうしても与えたいという場合は、一日に与える療法食の中からおやつとして与える分を取り分けておくか、疾患時にも与えることができるようなトリーツを選びましょう。


フードを購入する際はパッケージのサイズにも気を付けましょう。
フードは大きい袋の方が割安ですが、ドライフードは開封直後から酸化が始まるといわれており、保存状態が悪ければカビが発生することもあります。
酸化したフードを食べているだけでも肝酵素が上がることがありますので、開封してから1か月以内に食べきれるサイズを選びましょう。


食事は動物の体を作る源です。
特に全身へ栄養を送り出す肝臓の機能を保護するためには、日々の食事が非常に重要です。
体の状態に適したフードを上手に活用して、ペットの健康を取り戻しましょう。

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