ノミ・ダニはどこにいる?
ペットの体や時にはヒトの体にも食いついて吸血するノミやダニ、彼らはどこにいるのでしょうか?
まずはノミについてですが、一般的に知られているノミは「ネコノミ」です。
イヌノミやヒトノミといったノミもいますが個体数は少なく、現在日本で最もよく見られるのはネコノミです。
名前にはネコと付いていますが、猫に限らず犬やヒトにも寄生して吸血します。
ノミは通常、野生動物の体に寄生しています。
自然界にいる野生動物はもちろんですが、野良猫などもほとんどはノミに寄生されていると考えられます。
そのような動物とペットが接触した際や、野良猫や野生動物が庭に入ってノミを落としていき庭でペットが遊んでいる時に寄生されてしまう場合、あるいは保護した犬猫にノミがついていて家庭内に入り込むということもよく聞く話です。
ノミの生活環は短く、1か月で卵、幼虫、蛹、成虫のサイクルを繰り返しますので、一度家の中に入り込んでしまうと気づかないうちに爆発的に数を増やし、駆除が非常に難しくなります。
一方ダニについてですが、ダニにはいくつか種類があります。
ペットに関連する代表的なものとしては比較的大型のダニであるマダニや、肉眼ではなかなか見ることのできないツメダニ、ヒゼンダニなどが挙げられますが、今回はマダニに関してお話しします。
マダニは普段、自然界の草むらなどに潜んでおり、人が生活する環境の近く、例えば庭や畑、公園にも普通に存在します。
彼らはハーラー器官という感覚器を持っており、哺乳動物から発せられる臭いや体温、物理的な振動に反応して草の上から動物の体に飛び移り吸血を行います。
そのためお散歩の際に草むらに入るのが好きな犬猫ほど、寄生される機会が多くなります。
マダニは動物の血液を栄養源として成長し、吸血する前は3~4mmですがお腹いっぱい吸血した状態(飽血)では1cmを超えるくらいまで大きく膨らみます。
吸血によって成長・脱皮を繰り返し、メスは最終的に数百~数千個の卵を産んで一生を終えます。
ノミやマダニは暖かい時期に活動が活発になります。
地域によって多少異なりますが、ノミでは7月~9月、マダニは4月~11月頃に注意が必要です。
しかし冬であっても暖房によって暖かい室内ではノミやダニの繁殖活動は続きます。
ノミやダニが媒介する病気
ノミやダニは吸血の際に、原虫やウイルス、リケッチア、細菌、消化管内寄生虫など様々な病原体を動物の体に媒介してしまいます。
ノミ・ダニがペットに媒介する代表的な病気には以下のようなものがあります。
サナダムシ
正式には瓜実条虫という名前の消化管内寄生虫で、ノミが媒介する病気です。
イヌやネコ、ヒトにも感染し、下痢や吐き気、食欲不振などの消化器症状の他、栄養不良による重度の削痩、子犬・子猫の成長不良を招くことがあります。
バベシア感染症
バベシア原虫が赤血球に寄生することによっておこる犬の病気です。
バベシア原虫は主にマダニに吸血されることによって感染し、感染した赤血球の破壊を招き、重度の貧血や発熱、血色素尿、脾腫などを起こす病気です。
西日本で多くみられる病気ですが、気候の変動などにより徐々に東日本でも見られるようになってきました。
ヘモプラズマ感染症
猫に見られる感染症です。
赤血球にマイコプラズマという細菌の一種が寄生することにより赤血球が破壊されてしまい、重度の貧血が起こる病気です。
感染経路は明確にはなっていませんが、感染している猫に噛まれたり、ノミやダニなどの吸血性節足動物による媒介、母子感染などが原因となっていると考えられています。
ライム病
ダニの媒介によってボレリアという細菌が感染しておこる犬の病気です。
多くの犬は症状を示さない不顕性感染となりますが、中には多発性関節炎や発熱、食欲不振、リンパ節の腫脹などがみられることもあり、時には腎不全などを起こすこともあるので注意が必要です。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
ダニが媒介するウイルス性の疾患です。
2017年に犬で発症が確認されて以来、犬でも猫でもSFTSの発症が確認されています。
発熱、血小板減少、白血球減少、嘔吐などを示し、猫では64%、犬では26%もの症例が死亡しています。
動物から人への感染も報告されているため、注意が必要です。
また、感染症ではありませんが、噛まれることによる痒みの他、ノミの唾液成分に対する過敏反応としてノミアレルギーなどの皮膚トラブルをおこす原因にもなります。
さらに子猫にノミが大量寄生した場合や、体の小さい超小型犬などにたくさんのダニがつくと、吸血による貧血が起こる場合もあります。
ノミやダニがついてしまったら?
愛犬・愛猫にノミがついてしまった場合、ノミ取り櫛で丁寧に取るという方法もありますが、ノミは動きが素早く、毛をかき分けて全てのノミを櫛で取り切ることは不可能です。
また成虫を除去したとしても幼虫や卵が残っていればいずれまた同じことの繰り返しです。
まずはノミの駆虫効果のあるお薬を処方してもらい、全身に付着したノミや幼虫、卵、糞などを取り去るためにはシャンプーするのが最も効果的です。
因みに見つけたノミを潰すのはノミの卵を飛散させることになりますので絶対にやめましょう。
マダニの場合はまた対処法が異なります。
被毛の上でまだ動いているダニを見つけた場合は皮膚に食いつく前に速やかに取り除きましょう。
しかしすでに皮膚に食いついた状態のダニを発見した場合には、力任せに引っ張って取ってはいけません。
引っ張って取れたと思っても頭だけが皮膚の中に残ってしまうことが多い他、虫体に圧をかけることによってダニの体内にある感染性の病原体を押し出すことにもなってしまいます。
病院では鉗子や専用の器具を使って頭ごとダニを取り除いてもらえますので、下手に触らず、できるだけ早く動物病院へ連れて行くようにしましょう。
ノミの場合もダニの場合も、眼に見える虫体を取り除いた後は全身的な駆虫が必要です。
ノミや吸血前のダニ、特に幼ダニは1~2mm前後と小さいため、被毛の間に潜んでいると多くは見落としてしまいます。
それらが食いつくのを予防しつつ駆虫を効果的に行うために、ノミやダニに効果のある予防・駆虫薬を使用しましょう。
また部屋の中を徹底的に清掃することも必要です。
ペットの体についていた虫体や卵などが生活環境内に落ちている可能性は高く、一度駆虫が完了したと思ってもしばらくして再度ノミやダニが現れることがあります。
ペットのベッドや使用しているタオル、敷物などのうち、廃棄できるものは廃棄する、洗えるものは念入りに洗濯し、部屋の隅々まで徹底的に掃除をした後、掃除機のダストボックス内もきれいにしましょう。
また、可能であれば家庭用の燻煙タイプの駆虫剤も使用すると良いですが、使用後は良く換気をしてペットの体調に影響が出ないように気を付けましょう。
ノミ・ダニの予防薬、駆虫薬
ノミやダニの予防・駆虫薬にはいくつかタイプがあります。
・スプレータイプ
・スポットタイプ
・内服薬タイプ
スプレータイプのものは直に皮膚や被毛の表面に吹きかけてなじませるタイプです。
スプレーをかけられるのを嫌う猫や体の大きな大型犬では全身に吹きかけるのが大変なので現在はあまり主流ではありませんが、即効性があるため、すでに大量にノミやダニがついている場合によく使用されます。
スポットタイプのものは様々なメーカーから販売されており、月に1回背中に垂らして使用するものが主流ですが、中には3か月に一回で良いというものも販売されています。
背中に垂らすだけで全身の予防ができるの?と不安に思う方もいるかもしれませんが、皮膚に浸透・吸収された薬剤は皮脂腺を伝わって拡散し、全身に効果を発揮します。
ただし、全身に行き渡るまでには少し時間がかかるため、即効性を期待する場合には選択されないこともあります。
また使用前後のシャンプーに制限があることが多くなります。
スポットタイプの薬剤の中には駆除効果だけでなく、忌避効果(付着を予防する)があるものもあります。
内服薬タイプのものも近年よく見かけます。
多くの内服薬タイプは月に1回~3か月に1回投与するおやつタイプのもので、ノミやダニだけでなく犬で予防が必要なフィラリア感染症に対する予防効果もあるものが多いため、犬の飼い主さんには使いやすいタイプでもあります。
おやつタイプなので割と嗜好性が高く与えやすい商品が多いですが、味の好みが強い犬猫や、アレルギー体質の場合では難しいこともあります。
どのタイプが良いのかは感染状況や生活環境、投与の簡便さ、価格とノミ・ダニ以外の寄生虫(消化管内寄生虫、フィラリア、シラミなど)に対する予防効果の違いなどを比べて決めることになります。
飼い主さんが決めかねる場合には遠慮せず動物病院で相談してみましょう。
またホームセンターなどではノミ予防の首輪やシャンプーなども販売されています。
これらは全く効果がないわけではありませんが、医療機関で販売されているものと比較すると効果が出にくかったり持続期間が短いことがありますので、補助的に使用することをお勧めします。
さいごに、ノミやダニの予防薬を使用しているとはいえ、生活環境によってはノミやダニがペットの毛に付着してしまうことがあります。
それらが家の中で落ちると、ペットだけでなく飼い主さんの健康被害につながることもあります。
ノミやダニの予防という観点からしても、猫は基本的には室内飼育を心がけ、犬のお散歩時もあまり深い草むらには入らないようにすることをお勧めします。
またお散歩の後はブラッシングなどで表面についた汚れとともにダニなども落とし、家に持ち込まないようにするのもある程度効果がありますので、是非行ってみてください。