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獣医師
齋藤厚子
多頭飼育は楽しい!だけじゃない。多頭飼育のメリットとデメリット

多頭飼育のいいところ

多頭飼育を始める理由には様々なケースがあると思います。
飼い主さんが気に入ったペットを次々と家にお迎えした結果、飼育頭数が2頭、3頭と増えていたというケースや、動物の保護活動を進めるうちに飼育頭数が増えていた、というケースも多いですが、何らかのメリットを期待して多頭飼育を検討する場合もありますね。

比較的多いのは飼い主さんの仕事の都合などで、一人で留守番させる時間が長いため、外出中もペットに寂しい思いをさせないために多頭飼いするケースではないでしょうか?

実際、多頭飼育によって得られる良い効果には、以下のようなものがあります。
・ペットが一人でお留守番する寂しさを軽減できる
・遊び相手ができる
・動物同士の社会性が身に付く
・仲のいい仲間ができることで精神的に安定する
・飼い主さんへの依存心が減る

留守中に遊び相手がいることで、長時間留守にしなければならない飼い主さんの罪悪感も軽減しますが、一緒に仲良く遊ぶことで運動不足の解消やストレス発散にもつながります。

また、複数の動物がいることで犬や猫同士の社会性が育つなどといったメリットもあります。
後から来た動物は、先住の動物の行動を見ていろいろなことを学習するので、しつけもしやすくなることがあります。

単頭飼育で留守が長い飼い主さんの場合、帰宅後は飼い主さんにべったりということも少なくないですが、多頭飼育によって仲間ができることで飼い主さんへの依存心が少し減り、飼い主さんへの負担が減ることもあります。

またそれぞれの性格や個性、得意なことや苦手なことが異なるため、相互作用によってそれぞれの苦手な部分を補うことができるという効果がみられることもあります。
一頭ではお散歩に行かなかったワンちゃんが弟分ができた途端にお散歩が好きになるという、思ってもみなかった変化が起こることもあります。

そしてなんといってもうれしいのは、飼い主さんが期待した以上に動物同士が仲良くなり、一緒にくっついて寝たりお互いの心配をしたりする様子が見られた時です。
相性が良ければお互いに家族として認めあい、一緒に過ごすことで気持ちが落ち着き、より強い家族の絆を結ぶことにつながります。
そんな関係性が築けたら理想的ですね。

多頭飼育のデメリット

飼育する動物が増えるということは、少なからずデメリットもあります。
よく挙げられるのは以下のようなことです。

・経済的な負担が増える
・散歩や掃除、シャンプーなどお世話の負担が増える
・動物同士の相性が合わないとストレスになる
・個々の体調の変化に気づきにくくなる
・病気になった時の負担が大きい(特に感染症)

一頭のペットを飼育するのには、食事代、生活雑貨代(トイレ用品、ベッドや服、シャンプー、お散歩グッズなど)、予防関連の費用、病気になった時の治療費など、ある程度の金銭的な負担を覚悟しなければなりません。
飼育頭数が増えれば増えるほどその負担は大きくなります。

また、食事の準備やお散歩、トイレの片づけなど、日常的に行うお世話も増えます。
家族の協力が得られればまだいいですが、一人ですべて行わなければならない場合はより大変です。

そして多頭飼育をするうえで一番ネックになるのは、動物同士の相性です。
飼い主さんが新しく犬や猫を迎えたいと考えていても、もともと家にいる動物が一人でいることを好むタイプであったり、新しく迎える子との相性が合わなければ、一緒にいてもストレスになるばかりか下手をするとケガをさせてしまうことにもなりかねません。
中でも縄張り意識の強い未去勢の若いオス同士や、先住の犬猫がヤキモチ妬きである場合、非常に憶病で警戒心の強い犬猫の場合には、特に慎重に相性を見定める必要があります。

健康管理上のデメリットもあります。
動物の体調不良を早く見つけるためには、食事の食べ具合や排泄状況、その他の行動の変化に気づけるかどうかが重要です。
単独飼育であれば体調変化に気づくのはそこまで大変ではありませんが、飼育頭数が増えるにつれ食事を残したのは誰か、吐いたり下痢しているのは誰か、それぞれがちゃんと排尿しているか、飲水量が多くなっていないかどうかなどといったことが把握しづらくなってしまいます。
また誰かが残したご飯を他の子が食べてしまうために肥満を招いたり、病気の治療の一環として行う食事療法なども効果的に行うためには食事場所を分けるなど少し工夫が必要になってきます。

さらに感染症などが発生した場合、同居動物すべてに感染が蔓延しやすくなります。
風邪症状を起こすウイルス性疾患や、消化器症状を起こす寄生虫疾患などは特にその傾向が強く、多くの動物が治療を必要とするようになってくると飼い主さんの負担はさらに増えます。

これらのことを考慮したうえで、飼い主さんは自分や家族がお世話できる許容量を超えてしまわないか、あらかじめよく考える必要があるでしょう。

多頭飼育する前にしておきたいこと

上に挙げたようなデメリットを少しでも減らすために、新しく動物を迎える時には以下のことに気を付けるようにしましょう。

・動物同士の相性をあらかじめチェックする
・新しい動物の健康観察期間を設ける
・トイレや寝床の増設、食事の準備
・繁殖の管理をする

新しい犬猫をお迎えする場合には、できればあらかじめ顔合わせをして相性をチェックしましょう。
ペットショップからお迎えする場合などは難しいかもしれませんが、保護犬・保護猫などを譲渡してもらう場合には譲渡先からもその提案があると思います。

先住の犬猫にとっては新しい犬猫はいわば自分のテリトリーに侵入してきた「よそ者」です。
初めから歓迎ムードでいることは多くありませんが、興味をもって近づくことができるか、お互い攻撃的になっていないか、ケージを介して何度か顔を合わせることでなんとなくその相性の良し悪しが見えてきます。
相性が良くないのに無理してしまうと、縄張りを主張してケンカをしたり排泄の問題行動がおこったりすることがありますので、焦らずゆっくり、慎重に進めましょう。

お迎えすることが決まった場合も、連れてきてすぐに一緒の生活環境で過ごさせるのはお勧めできません。
まずは寄生虫やウイルス性疾患など感染症にかかっていないかどうか動物病院で健康チェックをしてもらい、必要に応じて治療や予防接種を受けましょう。

健康チェックが終わるまでは、新しい子を家に慣れさせるためと、先住の動物にその存在をなんとなく感じてもらうために、可能であれば導入後数日は部屋を分け、そこからケージを介した対面を経て徐々に一緒にしましょう。

導入に際して、トイレの数は足りているかどうか、それぞれが落ち着いて過ごすことができる場所があるかどうかを確認し、年齢に合った食事を用意するなど準備も万全にしておきましょう。

「多頭飼育崩壊」について考える

近年、ニュースなどで「多頭飼育崩壊」という言葉をよく耳にするようになったと思います。
多頭飼育崩壊とは、ペットとして飼育していた動物たちが無秩序に繁殖を繰り返して増え続けた結果、適切な環境での飼育ができなくなってしまう状態をいいます。

多頭飼育崩壊の現場では、糞尿などが適切に処理されていない劣悪な環境の中で、多くの犬猫が十分な食事や水を与えられずに生活し、中には病気になったり餓死してしまう動物もいます。
悲しいことに極度の飢餓状態から亡くなった動物を共食いしてしまうこともあるほどです。
また悪臭や鳴き声による騒音から、近隣の住民にも迷惑をこうむることになり、深刻な社会問題になっています。

多頭飼育崩壊は、たった一頭の犬猫から起こることもあります。
保護して飼い始めた犬や猫がすでに妊娠しており、飼い始めてすぐに出産、その子供たちが大きくなり、また妊娠・出産を繰り返すことで1~2年で20頭以上に膨れ上がってしまうことから発生した事例もあります。

二頭以上のペットを飼育する場合、とても大事なことですが、望まない妊娠をさせないために「避妊・去勢手術」について前向きに検討しましょう。
多頭飼育崩壊が起こるケースの一番の問題点は、飼い主が飼育動物の繁殖管理を怠ってしまっていることです。

繁殖や手術については飼い主さんそれぞれの考え方があり、健康な体に麻酔をかけてメスを入れるのは人間のエゴだと言われる方もいますが、無秩序に繁殖が繰り返され劣悪な環境で人も犬猫も生活するような事態も決して起こしてはいけません。

多くの動物病院では、生殖器に関連した将来的な病気の予防や、発情期の体調不良を抑制する観点からも避妊・去勢手術をお勧めしています。

経済的な理由からすべての動物の避妊・去勢手術ができずに多頭飼育崩壊に陥ってしまうケースもありますが、そのような場合はまずはオスとメスの生活環境を完全に分け、可能であればまずは手術費用の安いオスの去勢手術からとりかかる、里親を探すなど、様々な方法があります。

動物病院や動物保護団体などもそのような相談に真剣に取り組み、対応してくれますので、手遅れになる前に一日も早く相談・対処しましょう。

終わりに

動物を飼育するということは、その動物の命を預かるということです。
家族として迎えるからには、飼い主さんはたくさんの愛情を注ぎ、精神的にも身体的にも健康的に生活できるようにすべての動物に責任をもって最後までお世話するということを放棄してはなりません。

沢山のペットを飼っていてもうまく個々の動物と付き合っていける飼い主さんもいれば、こんなはずじゃなかったと後悔してしまう飼い主さんもいます。
飼い主さんもペットたちも笑顔いっぱいで生活できるような関係性を築くために、まずはペットを増やす前に自分の生活スタイルや先住の動物にとって新しいペットを迎えることが許容できるのかどうか、よく考えるようにしましょう。

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