
犬の予防、猫の予防
我々とともに暮らす犬や猫などのペットたちの健康を守るためには、定期的に予防接種を受けることと健康診断をうまく活用して体の状態を把握しておくことが大切です。
しかし予防する病気や予防方法、予防期間などが異なるために、うっかり予防を忘れてしまうこともあります。
また犬と猫では予防するものが異なり、品種や年齢によってもかかりやすい病気が異なること、また生活する地域や生活スタイルなどによってもその予防推奨期間や健康診断の頻度は異なってきます。
そのため、犬と猫の両方を飼育しているご家庭ではなおさら複雑になってしまい、病気の予防や早期発見の機会を逃してしまうことにもなりかねません。
まずはざっくりと一年の中で行っておきたい犬猫の健康管理をまとめてみます。
① 犬の予防
予防接種…混合ワクチン、狂犬病予防接種
その他の予防…フィラリア感染症予防、ノミ・ダニの寄生予防
② 猫の予防
予防接種…混合ワクチン、場合によって猫白血病ワクチン、猫エイズワクチン
その他の予防…フィラリア感染症予防、ノミ・ダニの予防
③健康診断
犬、猫、年齢に関わらず、一年に1回は受けておくことを推奨。
体重測定、視診・触診・聴診など診察台の上でできる身体検査の他、血液検査、尿検査、便検査等も組み合わせて行うと良い。
猫の初めての血液検査では猫エイズ・猫白血病ウイルスの検査をしておく。
体の状態に応じてレントゲン検査や超音波検査なども追加。特定の病気(心筋症や遺伝性腎疾患など)の好発品種の場合、血液検査や尿検査で異常がなくてもレントゲン検査や超音波検査を受けておくことを推奨。
予防接種の内容や接種間隔などは生活スタイルや個々の体の状態などによって異なります。
この後はそれぞれの予防について少し詳しくお話ししておきます。

混合ワクチン
混合ワクチンは一本の注射で複数の病気の予防ができる注射で、接種するかどうかは飼い主さんの任意となっています。
予防できる病気の多くは、感染してしまうと重症化したり中には命に関わる病気があるため、できるだけ接種して体に免疫を付け予防しておくことが推奨されています。
犬と猫では混合ワクチンで予防できる病気の内容が異なりますが、それぞれにコアワクチン(感染率や重症化率、致死率が高く全ての犬または猫に接種が推奨される病気のワクチン)とノンコアワクチン(飼育環境や居住地域によって感染リスクが高いと判断される場合に推奨されるワクチン)があります。
犬が混合ワクチンで予防できる病気には下記のようなものがあります。
・犬ジステンパー
・犬パルボウイルス感染症
・犬パラインフルエンザ
・犬伝染性肝炎(アデノウイルス1型)
・犬アデノウイルス2型感染症
・犬コロナウイルス感染症
・犬レプトスピラ感染症(4種:カニコーラ、イクテロヘモラジー、グリッポテフォーサ、ポモナ)
これらの組み合わせによって、一本の注射で2種から10種まで予防できるものがあり、どこまでの予防が必要になるかは生活環境や他の犬との接触機会の多さ等によって異なります。
犬ジステンパー、犬パルボウイルス、犬伝染性肝炎、犬アデノウイルス2型感染症を予防するワクチンがコアワクチンとなります。
同様に猫の混合ワクチンで予防できる病気には以下の様なものがあります。
・猫ウイルス性鼻気管炎
・猫カリシウイルス感染症
・猫汎白血球減少症
・クラミジア感染症
・猫白血病ウイルス感染症
・猫エイズウイルス感染症
このうち猫ウイルス性鼻気管炎・猫カリシウイルス感染症・猫汎白血球減少症の3種類を予防する注射をコアワクチンと言い、猫の予防接種のベースとなっています。
コアワクチンに加え、クラミジア感染症や猫白血病ウイルス感染症を加えた4種・5種の混合ワクチンの他、猫白血病や猫エイズウイルスの単味ワクチンもあり、どのワクチンにするかは生活環境などによって異なります。
室内飼育が主流となり外に出る飼い猫の数はかなり減少してきていますが、感染している猫と同居している場合や、外に自由に出られる環境で生活している猫の場合はこれらの病気も予防できるワクチンを打っておいた方が良いと考えられます。
一方、感染猫との接触が全くない猫ではコアワクチンで十分です。

狂犬病予防接種
狂犬病の予防接種は日本では基本的に犬の予防接種として認識されています。
ただし海外に猫を連れて渡航する場合、多くの国では猫にも接種していることが求められますので、海外へ猫を連れていく場合には数か月前から計画的に狂犬病の予防接種を受けなくてはなりません。
狂犬病は1957年以降、日本国内での発生は認められていない病気です。
しかし犬だけでなくヒトや野生動物を含めた様々な哺乳類に感染する人獣共通感染症であり、ひとたび発生すると感染の拡大が起こりやすく、発症後の致死率も非常に高い恐ろしい病気です。
そういった観点から、犬を飼う飼い主さんには狂犬病の予防接種を毎年受けさせること、お住まいの自治体に犬を飼育することを届け出ることが義務付けられています。
飼育犬を登録してあれば、毎年春に狂犬病予防接種を受けるようにという通知が届きますので、忘れずに接種しましょう。
逆に自治体に犬の登録をしていなければ狂犬病予防接種の案内も届きません。
かかりつけの病院で予防接種と登録について教えてもらいましょう。
毎年4~6月が狂犬病予防注射期間となっており、近隣の動物病院もしくは自治体によっては集団接種会場が設けられる場合もあり、どちらでも接種可能です。
基本的に狂犬病の予防接種は混合ワクチンと同じ日にはできません。
混合ワクチンが先か、狂犬病予防接種が先かによって異なりますが、接種時期が近い場合は2~4週程度間隔をあけ、いずれも午前中に受けに行くようにしましょう。

フィラリア感染症予防
フィラリア感染症とは、犬糸状虫(フィラリア)という寄生虫によっておこる病気です。
蚊が媒介して伝播する病気で、蚊に吸血されると蚊の体内にいるフィラリアの幼虫が犬の体内に入り、数か月間徐々に成長しながら犬の体内を移動し、最終的には血液中で細長いミミズの様な成虫になります。
成虫は心臓や心臓周囲の血管内に寄生して血流を妨げ循環不全を起こすほか、雄と雌が両方寄生している場合には体内で新たに子虫をたくさん産み、それらが血流に乗って流れていくことで肺などの毛細血管に詰まって重篤な症状を示すようになってしまいます。
この病気は犬の病気として知られていますが、猫にも寄生することがわかっています。
犬の体内と猫の体内では成長率や生存率が異なるため、心臓内に成虫が寄生する率は犬ほど高くはありません。
しかしひとたび発症してしまうと致命的になってしまうことがある病気ですので、猫での予防についても近年は推奨されつつあります。
この病気の予防方法はいくつかあります。
基本的には蚊に刺されて体内に入った幼虫が成長する前にフィラリアの駆虫薬を投与し、成虫にならないうちに駆除する、という方法になりますが、投与経路として、皮下注射、経口投与、皮膚から吸収されるスポット剤投与などがあります。
投与期間は地域によって異なり、春から夏にかけて気温が上昇するのが早い沖縄や九州地方では長く、気温の低い北海道や東北では短いため、お住まいの地域によって投与期間には数か月の差があります。
一度夏を経験したことがある犬の場合、翌年のフィラリア予防を開始する前に必ず血液でフィラリアの抗原検査を実施することも必要です。
これは予防がうまくできていなかった場合に体内にフィラリアの成虫がいて子虫をたくさん産んでしまっていると、翌年のフィラリア予防薬で一度にたくさんの子虫が死滅して血管内に塞栓し、ショックを起こすことがあるためです。
安全に毎年の予防をするために、決められた投与間隔を守って確実に投与すること、万が一に備えて翌年の予防開始前には抗原検査を受けましょう。
予防期間は地域によって異なりますが、予防間隔は薬剤の投与方法によって異なります。
注射で予防する場合は一年に一回、飲み薬(錠剤やおやつの様なフレーバータイプのもの)では毎月1回、スポットタイプのものでは月一回のものと3か月に一回のものがあります。
予防期間が長い地域の場合は注射タイプのほうが飲み忘れ等を防止する意味でもいいかもしれませんが、注射の場合は副反応などに注意が必要ですので、事前によく説明を受け、愛犬・愛猫に合った方法を選んであげまし

ノミ・ダニ予防
外に出る犬猫の場合、ノミやダニの予防も忘れずにしておきましょう。
お散歩で短時間しか外に出ない子であっても、草むらで臭いを嗅いだ際などにこれらの寄生虫がついてしまうことがあります。
またご家族の衣服などについて家庭内に持ち込まれるケースもありますので、室内飼育であっても油断は禁物です。
ノミ・ダニの予防にもいくつか方法があります。
経口投与で体の内側から成分を摂取するものや、皮膚につけるスポットタイプ、市販されているものでは首輪タイプなどもあります。
経口薬やスポット剤はフィラリア予防との合剤になっているオールインワンタイプのものが増えてきており、さらに消化管内の寄生虫も駆除できる効果もある物が多いためとても便利です。
予防期間は概ねフィラリアの予防期間と重なりますが、ノミやダニの方が少し早い時期から活動し始めるため、春先数か月間はノミ・ダニの予防薬を使用し、フィラリアの予防期間と重なったらフィラリア予防薬との合剤を投与する、という方法もあります。
ノミやダニは様々な病気(サナダムシやライム病、バベシア症、重症熱性血小板減少症候群など)を媒介することもあるため、できるだけ付着・吸血させないようにあらかじめ予防しておくことをお勧めします。

健康診断
健康診断は飼い主さんのご希望に応じて行いますが、できれば一年に1回は受けておいてほしいと考えられます。
健康診断を受ける際には、診察台の上で行う身体検査(体重測定や視診・触診・聴診)だけでなく、可能であれば便や尿を持って行って便検査や尿検査も受けておくと良いでしょう。
子犬や子猫の時期には消化管内の寄生虫がいることが多いため、早めに見つけて必要に応じた駆虫をしてあげることで健全な成長につながります。
また血液検査では血球計算や生化学検査(内臓の機能などを調べる検査)等を行うことが多いと思いますが、初めて血液検査をする猫の場合は猫エイズや猫白血病ウイルスへの感染がないかどうかもしておくと良いでしょう。
犬の場合、健康診断と毎年のフィラリア抗原検査のタイミングを合わせて行えば、採血されるストレスを減らすことができます。
そのため、血液検査を含めた健康診断は春先、フィラリア予防前に一緒に行うのがおススメです。
高齢の犬猫では、一年に一度の検査では体の変化をとらえきれない場合もありますので、理想的には半年に一回くらいの検査を考えておくと良いでしょう。

予防と健康診断の進め方
ここまで一年間に行うべき予防などについて説明しましたが、ではこれらをどのように進めていったらいいのでしょうか?
まずは狂犬病の予防接種ですが、こちらは春先に自治体から予防接種に必要な用紙や葉書が届きますので、それを目安に忘れないうちに接種しに行きましょう。
高齢で体が衰弱している場合や、ワクチンアレルギーが起こりやすい体質の場合、あるいは重症疾患の治療中で接種が難しい場合には、獣医師の判断で猶予証明を出すことができます。
実際に注射が打てない場合でも必ず病院へいき手続きしてもらいましょう。
狂犬病の予防接種の時期(4月~)は、ノミやマダニの予防の開始時期、あるいはフィラリア予防の開始時期にも重なります。
狂犬病の予防接種時に一緒に採血をしてもらい、フィラリアの抗原検査をしておけば改めて動物病院に足を運ぶ必要はなくなります。
フィラリアの予防を注射で行う場合には、狂犬病の予防接種と同じ日にはできませんので改めて来院する必要がありますが、飲み薬やスポット剤での予防の場合は予防シーズン分のお薬をこの日に処方してもらえます。
さらに、フィラリア検査のための採血時に少し多めに血をとってもらえば、一緒に健康診断もできます。
せっかく採血するのであれば、ここで健康チェックをしてもらうと動物にかかる負担も少なくて済みます。
ノミやダニの予防も併せて行う場合、フィラリアの予防薬との合剤にしてもらえば、一つのお薬の投与で一度に予防が可能になります。
さらには多くの合剤には消化管内の寄生虫の駆除効果も付帯されているものが多くなっていますので、より効果的に病気予防ができると言えます。
これらとは別に混合ワクチンの接種が必要です。
混合ワクチンの接種時期は特に推奨期間などは無く、前回いつ接種したかによって決まります。
接種間隔は以前は1年ごとに毎年打ちましょうというのが通例でしたが、近年はコアワクチンは3年に1回で十分とも言われており、動物病院ごとに方針が異なります。
かかりつけの病院がどのような接種間隔を推奨しているのか確認し、追加接種を忘れないようにしましょう。
予防接種はいくつか種類はありますが、これらの注射はいずれも同じ日に複数本打つことはできません。
ワクチンの種類(生ワクチン、不活化ワクチン)によって接種の間隔を1週間から4週間以上空けるように推奨されていますので、病院で次の注射の接種までどれくらい間隔を開けたらよいか、確認しておきましょう。
またどんな予防接種であっても、副反応が出てしまう可能性がありますので、予防接種はできるだけ午前中に受け、接種当日は愛犬・愛猫の様子をよく観察するようにしましょう。
ノミやダニの予防薬やフィラリアの予防薬を投与する場合、できれば他の予防接種の日とは重ならないようにしましょう。
万が一体調が悪くなってしまった場合、その原因が予防薬なのか注射なのかが判別できなくなってしまいます。
毎月同じ日に飲むように処方されると思いますが、注射の日と重なる場合には2~3日前倒しするか、後にずらして投与しましょう。
