
泌尿器のトラブル
寒くなり初めに増える疾患の代表格として、泌尿器疾患が挙げられます。
秋口から冬にかけては、犬も猫も膀胱炎症状を示す患者さんが非常に多くなります。
これは、涼しくなることで夏に比べて飲水量が減ることが原因と言われています。
飲水量が減ると必然的に尿量が減少するため、それまでよりも少量で濃い尿が出るようになります。
すると、尿中に排泄されるミネラル分などの濃度が高くなり、尿中に結晶が析出しやすくなり、さらにその状態が長くなると結石ができてしまうのです。
尿中に結晶や結石ができると膀胱の粘膜に常に刺激を与えるため、膀胱炎症状(頻尿や血尿、排尿時の痛みなど)が現れます。
中でも特に注意が必要なのは、オス猫の尿石症です。
オス猫の尿道は細くて長いため、結石でなくても沢山の結晶が尿中に形成されてしまうと、排尿時に尿道閉塞を起こしてしまうことがあるのです。
尿道が完全に閉塞してしまった場合は早急に適切な処置を行わないと尿毒症を起こし命に関わります。
何度も排尿姿勢をとっているのに排尿できない場合や、その症状に加えて吐き気が現れた場合には、夜間であっても急いで病院を受診するようにしましょう。
このような尿石症を予防するためには、水分をしっかり摂取させることが重要です。
とはいえ、無理やり水を飲ませることはできませんよね。
水だけで飲まなくても、食事にウェットフードを加えてみたり、ドライフードをふやかして与えてみたり、ドライフードに水をかけた状態で与えてみる、水分摂取ができるおやつ(ゼリーなど)を与えてみるなどといった工夫で水分摂取量を増やすことができます。
また、尿石症の既往歴がある犬猫の場合には、尿石症に対応した療法食を与えることをお勧めします。
もし寒くなり始めたと同時に排尿の状態に心配な症状が見られたら、可能であれば採尿をして早めに病院を受診しましょう。

消化器症状
季節の変わり目には、なんとなく元気がない、少し食欲が落ちているというような不定愁訴や、便が緩め、下痢をする、吐くことが増えた、というような消化器症状を示す患者さんが多くなります。
はっきりとした原因はわからないまでも対症療法で改善することが多いですが、体力の落ちている高齢の犬猫ではそれをきっかけにずるずると体調が悪くなってしまうこともあるため注意が必要です。
季節の変わり目のこのような体調不良はヒトでも見られることがあり、上記のような症状の他に頭痛がする、なかなか寝付けない、体がだるい、気分が落ち込むといった症状も多いようです。
このような不調は日中と夜間の気温差や気圧の変化などの影響で自律神経に負担がかかっていること、日照時間の変化が生活リズムを乱してしまうことなどが原因となって起こると考えられています。
自律神経は消化器官の働きにも大きく影響するため、下痢や吐き気、食欲不振などといった消化器症状が起こってしまうことが多いのでしょう。
こうした症状を軽減するためには、適切な室温管理に加え、お散歩のような適度な運動、バランスの取れた食事などで体のリズムやバランスを整えてあげることが重要です。
季節の変化に伴う外気温の変化に体を馴化させることも必要ですが、年齢や体調によってはその変化に体がついていけないこともあります。
朝晩の気温の落差が激しい場合や天候の不順によって体が疲れてしまわないように、エアコンがある場合は適度に室温・湿度管理をしたり、冷え対策として服を着せる、暖かいベッドなどを用意してあげると良いでしょう。

換毛に関わるトラブル
季節の変わり目には、動物特有の『換毛』に関するトラブルも起こりがちです。
暑い時期から寒い時期に変わる時や、逆に寒い時期から暑い時期に変わる時には夏毛・冬毛の生え変わりがあるため、毛の抜ける量がいつもより多くなります。
柴犬などの日本犬では、換毛期に抜け毛が浮いて毛が二層になり段ができることもあるほどです。
抜け毛がうまく脱落せずに被毛同士が絡まりあって皮膚の表面で毛玉になってしまうと、毛玉の下にある皮膚の状態が悪化したり、毛が引きつれることによって動きが制限されてしまいます。
特に長毛種の犬猫では、全身に鎧のように巨大な毛玉ができることによって身動きが取れなくなってしまうこともあり、それが原因で食欲が落ちたり元気がなくなってしまうこともあります。
加えて、大きな毛玉の下では皮膚が荒れて皮膚病を起こしてしまうこともあります。
荒れた皮膚では正常なバリア機能を保つことができなくなり、感染症を起こしたりアレルゲンの侵入を許してアレルギーを発症してしまう可能性もあるのです。
その他にも、抜け毛を毛づくろいで飲み込んでしまうことによって消化管の中に毛球ができ、消化管の通過障害を起こして吐き気や下痢を起こす状態になってしまうこともあります。
抜け毛の増える換毛期には、こまめにブラッシングをして抜けた毛を取り除いてあげるようにしましょう。
ブラッシングをすることで日々皮膚の状態をチェックできますし、ペット達とのスキンシップも図ることができるでしょう。
普段から毛がもつれやすいのにブラッシングをさせてくれない子の場合は、定期的にトリミングサロンで毛の長さを整えてもらうことも検討した方が良いかもしれません。
季節の変わり目は気温だけでなく湿度も大きく変化し、これからは冬が近づくにつれ空気が乾燥しがちになります。
乾燥による皮膚炎がおこりやすい子たちでは、痒みやフケが増えるなどといった皮膚症状が出やすくなります。
対策としては室内が暖房などで乾燥しすぎないように加湿すること、皮膚の保湿剤などを加えること、適切な頻度でシャンプーをすることなど(低刺激のシャンプーを使用)が挙げられます。
皮膚の状態を見ながら愛犬・愛猫に合ったケアを選んであげましょう。

関節疾患
暖かい(暑い)時期から涼しい時期に切り替わるころには、膝や股関節、肩関節あるいは変形性脊椎症、背骨の椎間板ヘルニアの既往歴がある場合など、四肢の関節や背骨に問題を抱える犬猫の動きにも変化が現れることが多くなります。
特に冷え込みが強くなりはじめる冬の初め頃に動きのぎこちなさや患肢をかばって歩く様子が顕著になることが多く、痛みが強い場合には完全に足を挙上して歩く様子が見られることもあります。
背骨の問題がある場合には、抱き上げたときに痛そうにキャンと鳴く様子や、動きたがらない、歩幅が狭くなる、足を引きずって歩く様子などが見られ、重篤な場合は排泄ができなくなってしまうこともあります。
歩き方に異常がみられる病気の中には、炎症や加齢性変化によるものだけでなく稀に腫瘍性疾患などが隠れていることもあるため、何らかの症状がみられた時は必ず病院を受診するようにしましょう。
関節疾患がある場合、急性期には少し安静期間が必要ですが、急性期を過ぎたら関節の動きがそれ以上悪くならないように維持するケアが大切です。
寒い時期でも防寒をしっかりしたうえで患部に負担がかからない程度にお散歩などの運動を継続し筋肉を落とさないようにすること、関節を動かし関節の可動域が狭くならないようにすることなどが大切です。
寒い時期は負担がかかるのでお散歩を控える、という飼い主さんもいるかもしれませんが、秋から冬の間に全く運動しないでいると関節の周りを支える筋肉がやせ、ますます症状が顕著になってしまいます。
外での運動が難しければ、室内で動き回れるように工夫したり、マッサージをしながら関節を動かしてあげることを取り入れてみましょう。
ただし関節炎や椎間板ヘルニアなどの場合、安静にして動かさない方が良い場合や必要に応じて消炎剤を服用した方が良い場合もあります。
どこまで運動させていいのか、どんなケアが必要なのかを正しく知るためにも、定期的に病院を受診して状態をチェックしてもらいましょう。
また関節の動きのサポートや筋肉量の維持のためにサプリメントなどで必要な栄養成分を補給してあげることもおススメです。
様々なサプリメントが各社から販売されていますので、価格や剤型、味の好みなど愛犬・愛猫に合ったものを選んであげると良いでしょう。

呼吸器症状
夜間や早朝に冷え込むことが多くなると、呼吸器疾患を持つ犬猫では症状が悪化して咳込みやくしゃみなどが目立つようになります。
特に気管・気管支軟化症や慢性気管支炎、気管支喘息のある子では症状がひどくなりやすいため、咳の頻度が増えてきたらそれ以上悪化させないためにも、肺炎など他の疾患を併発していないか確認するためにも、早めに病院を受診するようにしましょう。
また、寒い時期は空気が乾燥しやすいため、ウイルス疾患などの感染症も増えがちです。
冬前には多くの動物が集まるイベントなども開催されることが多いため、そのような会場で感染症をもらってしまう可能性もあります。
感染症を防ぐためにはあらかじめワクチン接種などで体の抵抗力をつけておくことが大切ですので、ワクチン接種時期を過ぎてしまっていないかどうか確認し、必要であれば追加接種して体の抵抗力を高めておきましょう。
乾燥による咳込みや感染症の予防には、室内を適度に加湿することが有効です。
暖房を使い始めると室内は乾燥しすぎてしまうことが多いため、意識的に加湿して呼吸器や皮膚の乾燥を防ぎましょう。

散歩中の誤飲誤食
夏から秋に移り変わる頃には、お散歩コースに木の実が落ちていたりキノコが生えていることが多くなります。
ドングリやクルミなどの硬い木の実は飲み込んでしまうと消化管閉塞の危険がありますし、自然に生えているキノコも種類によっては中毒や消化器症状を起こす可能性があるため、食べさせないようにしましょう。
街路樹としてなじみのあるイチョウにも秋にはたくさんの実が成り、銀杏をおつまみにすることを楽しみにしている飼い主さんもいるかもしれませんね。
ですが、銀杏は犬が食べてしまうと中毒症状をおこす危険があるため口にさせないように気を付けなくてはなりません。
銀杏の実をどれくらい摂取すると中毒症状を起こすかはわかっていませんが、一粒であっても体格によっては神経症状(痙攣や意識の混濁)や呼吸困難、消化器症状(嘔吐や下痢)などの中毒症状を呈し危険な状態になることがあるため、絶対に食べさせないように気を付けましょう。
万が一飲み込んでしまった場合には、すぐに病院へ連れていき吐かせてもらうようにしましょう。
また銀杏の外皮に含まれる成分はかぶれなど皮膚炎の原因になることもあります。
紅葉した木々の中をお散歩するのはとても魅力的ですが、落ちているものをなんでも口にしてしまうことがあるワンちゃんの場合、誤食が起こらないようにリードを短めに持って気を付けて歩くようにしましょう。
危険回避のためには木の実が沢山落ちているような場所はお散歩コースから外した方が良いかもしれません。

終わりに
季節の変わり目は体調不良やトラブルに悩まされることもありますが、一つ一つに対処していけば季節の移り変わりを楽しむことができる良い時期でもあります。
夏仕様だった室内を徐々に秋冬仕様に変えることも楽しみながら、少しずつ寒さ対策を進め、日々を元気に過ごしましょう。









