猫のアセトアミノフェン中毒とは
猫はアセトアミノフェンをうまく解毒できません。
アセトアミノフェンはヒトの解熱鎮痛剤として一般的に販売されている薬剤ですが、猫はこの薬剤を代謝して無毒化する機能がヒトや犬に比べて弱く、少ない量でも中毒症状を起こしてしまいます。
犬猫ではアセトアミノフェンを治療として用いることはありませんが、誤って猫がアセトアミノフェンを摂取すると、重度の肝障害、メトヘモグロビン血症、貧血を起こし、死に至ることもあるため非常に危険です。
愛猫がヒト用の薬を口にすることがないよう薬の管理は徹底し、自己判断での投薬は絶対にやめましょう。
猫のアセトアミノフェン中毒の症状とは
重度の肝障害と貧血がおこります。
アセトアミノフェンを摂取すると、以下のような症状が現れます。
・大量の涎を垂らす
・顔や四肢がむくむ
・元気消失
・嘔吐
・頻脈
・呼吸が速い
・チアノーゼ
・黄疸
・尿が赤い
アセトアミノフェンを摂取すると、肝臓で代謝する過程で、N-アセチル₋p₋キノネミンという毒性のある物質が生成されます。
この物質はグルタチオン抱合という過程を経て無毒化されますが、猫では肝臓に蓄えているグルタチオンが少ないため、無毒化作用が弱く、中毒症状を示してしまいます。
N-アセチル₋p₋キノネミンは、赤血球や肝臓の細胞を酸化・障害し、メトヘモグロビン血症やハインツ小体を形成します。
メトヘモグロビンとは、赤血球の中にあり酸素と結合するヘモグロビンが酸化したもので、酸素と結合することができない状態になったものです。
一方、ハインツ小体とは赤血球のヘモグロビンが変性して塊になったもので、ハインツ小体を有する赤血球は破壊されやすくなり、溶血が起こります。
摂取してから2~4時間経過してしまうと、溶血が始まり、血色素が尿に出て褐色から赤色の尿になります。
溶血に伴い貧血が進行することに加え、メトヘモグロビン血症によって体に酸素が行き渡らなくなり、呼吸の苦しさやチアノーゼがみられるようになります。
さらに肝臓では肝細胞の破壊が起こり、重篤な肝障害による黄疸がみられます。
時間が経過するにつれて状態は刻々と悪化し、摂取量が多ければ18~36時間後には死亡してしまいます。
猫のアセトアミノフェン中毒の原因とは
ヒト用の薬剤の誤食が原因です。
猫の肝臓には、アセトアミノフェンを代謝するのに必要なグルタチオンが十分に備わっていません。
そのため、少量でも中毒症状を起こし、多量に摂取した場合には命の危険があります。
ヒト用の消炎鎮痛剤を床に落としたままでいると、猫が遊んでいるうちに誤って口にしてしまいます。
ヒト用薬剤1錠でも、猫にとっては致死量になることがあるため、薬剤の管理には十分に気を付ける必要があります。
飼い主さんの自己判断による誤った投薬が行われる場合もあります。
痛み止めとして、飼い主さんが自己判断でヒト用の市販薬を猫に与えてしまうことがあります。
しかし、ヒトとは薬の代謝速度が異なり、代謝に必要な酵素がない薬剤もあります。
その中でも最も危険なのがアセトアミノフェンです。
猫には絶対に飲ませてはいけません。
どんな薬であっても、獣医師の指示なく自己判断で投薬することはやめましょう。
猫のアセトアミノフェン中毒の好発品種について
好発する品種はありません。
特にありません。
どんな猫でも起こります。
猫のアセトアミノフェン中毒の予防方法について
薬の管理を徹底しましょう。
猫にはアセトアミノフェンは禁忌です。
猫が誤ってヒトの薬剤を飲むことがないよう、薬剤は子供や動物の手が届かない場所に保管し、管理を徹底しましょう。
自己判断で投薬してはいけません。
アセトアミノフェンだけでなく、他の薬剤も猫や犬では体内での動態がヒトとは異なるため、ヒト用の薬を自己判断で投与することは絶対にやめましょう。
猫のアセトアミノフェン中毒の治療方法について
催吐処置を行います。
誤食からそれほど時間が経っていなければ、速やかに催吐処置を行うことで症状の発現を抑制できます。
催吐処置は自宅では難しいため、誤食が判明した場合は急いで病院へ連れていきましょう。
状況に応じて胃洗浄も実施します。
催吐処置には、吐き気を起こす薬剤を飲ませたり、注射での投与を行います。
催吐処置の後は吐き気が残る場合があるため、処置が終わった後には吐き気止めや胃粘膜保護剤を使用します。
吸着剤の投与を行います。
誤食から時間が経過してしまった場合には、消化管内のアセトアミノフェンを吸着し体に吸収される量を減らすことを期待して、活性炭などの吸着剤を投与します。
また、薬がすでに体にある程度吸収され、溶血や黄疸が起こっている場合には、アセチルシステインやアスコルビン酸を投与して、肝臓の細胞や赤血球を酸化障害から保護します。
アセチルシステインはグルタチオンの前駆物質で毒性物質の除去を促進し、またアスコルビン酸はメトヘモグロビン血症を還元するのに有効です。
貧血や酸欠に対して治療します。
酸素吸入を行いながら、必要に応じて輸血を行います。
輸血にはドナーが必要となるため、必要時にすぐにできる治療とは限りません。
支持療法で状態の回復を期待します。
吐き気や嘔吐がある場合には、制吐剤や脱水を補正するための点滴を併せて行います。
大量にアセトアミノフェンを摂取してしまった場合には、上記の治療をできる限り行っても回復が難しくなります。
治療が難しいだけに、誤って摂取してしまうことがないように、やはり管理を徹底することが一番重要です。