犬の前立腺肥大症とは
男性ホルモンによる前立腺の加齢性徴候です。
前立腺肥大症は、雄犬に認められる加齢性徴候であり、過形成(細胞数の増加)と肥大(細胞容積の増大)の両者によって発生します。
犬の前立腺肥大症の症状とは
排便障害、排尿障害が認められます。
前立腺は雄犬においての唯一の副生殖腺であり、性成熟以降に精巣から分泌される雄性ホルモンであるアンドロジェン(主としてテストステロン)の作用によって発達・維持されます。未去勢犬の生涯を通じて絶えず前立腺は成長し続けます。また、精巣を摘出してしまいますと、急速に前立腺容積が縮小します。
前立腺肥大が顕著でなければ多くは無症状です。前立腺の腫大の進行に伴って、骨盤腔内の前立腺の背側に位置する直腸を圧迫することによる排便障害(便秘、便が細くなる、、しぶり便)、前立腺尿道を圧迫することによる排尿障害(血尿、頻尿、尿失禁)が認められるようになります。
前立腺肥大症に関連して、前立腺実質内において前立腺上皮細胞による裏打ち、または線維結合織から構成される大小さまざまな嚢胞が形成され、嚢胞内に非化膿性液体が貯留する場合があります。これを前立腺嚢胞と呼びます。このような場合、排尿時または排尿とは無関係に、血尿に似た血色水様の嚢胞内貯留液を外尿道口から垂らすことがあります。また、精液中に血様貯留液が混入したり、不妊症になります。
前立腺に炎症が無ければ一般的に疼痛は伴いません。
犬の前立腺肥大症の原因とは
雄性ホルモンが原因となります。
発症には、精巣から合成、分泌されるテストステロンやエストロジェンが関与しています。加齢に伴って精巣におけるテストステロンの分泌は低下する一方で、エストロジェンの分泌は維持または増加するといった性ホルモンバランスの不均衡が生じることが、前立腺容積の増加の一因と考えられます。
また、テストステロンが前立腺上皮細胞や間質細胞に取り込まれると、酵素である5αリダクターゼの作用により、テストステロンよりも生理活性が強いジヒドロテストステロンに変換されますが、このジヒドロテストステロンの産生過剰が前立腺の上皮細胞や間質細胞の増殖を誘導します。
これらに加えて、前立腺間質や前立腺尿道、尿道周囲の前立腺導管上皮にはエストロジェン受容体が発言しており、エストロジェンの増加もまた前立腺の肥大(扁平上皮化生)をもたらします。
犬の前立腺肥大症の好発品種について
全犬種で好発します。
高齢で未去勢の雄犬でよく見られます。
犬の前立腺肥大症の予防方法について
去勢手術を受けることで予防することができます。
精巣を摘出することで前立腺容積は縮小します。前立腺肥大症は去勢手術を受けていれば発症しない疾患であると言えます。
犬の前立腺肥大症の治療方法について
去勢手術
前立腺肥大症の発生は、精巣から産生、分泌される性ホルモンが深く関与していることから、治療として一般的には去勢手術が実施されます。
手術後1~2週間で前立腺実質が縮小することがほとんどですが、完全な縮小には4か月を要する場合があります。
去勢手術による治療を選択した場合は、前立腺肥大症の再発はありません。
内科的治療
高齢などの全身麻酔が困難な場合や、飼い主様が去勢手術を望まない場合は、抗アンドロジェン製剤や合成黄体ホルモン製剤を用いた内科的治療をおこないます。
抗アンドロジェン製剤は、前立腺に対して前立腺内へのテストステロンの選択的取り込み阻害、ジヒドロテストステロンとアンドロジェン受容体との結合阻害などの作用があります。抗アンドロジェン製剤が持つ作用によって去勢手術と同様の前立腺縮小効果を得ることが出来ます。
合成黄体ホルモン製剤は、前立腺に細菌性の炎症がある場合は、細菌感染に対する防御機構を抑制する可能性があるため、抗菌薬による治療を実施してから用いります。
内科的治療を選択した場合、治療後半年から1年を経過して再発する可能性があります。