犬の鞭虫症・鉤虫症とは
消化管に寄生する細長い姿をした寄生虫です。
鞭虫、鉤虫は消化管内に寄生します。これらの寄生虫は消化管壁を傷つけるように寄生するため、出血を伴った症状を引き起こします。どちらの寄生虫症も人獣共通感染症です。
鞭虫は4~7cm程度、鉤虫は1~2cm程度の細長い虫です。
犬の鞭虫症・鉤虫症の症状とは
鞭虫症
犬鞭虫は、虫体刺入による腸粘膜障害と吸血に伴う貧血が見られます。多数寄生例では、盲腸粘膜にびらん、潰瘍、出血が起こり、腸壁の浮腫や肥厚が見られることがあります。病理組織学的にはカタル性の盲腸炎であり、粘液分泌亢進により粘膜表面は被覆されてしまいます。犬鞭虫の吸血量は犬鉤虫に比較して少量であるため、強い貧血症状が現れにくいと言えます。
鞭虫症の症状としましては、盲腸結腸炎による粘液性下痢や粘血便が見られます。通常は黄緑色の水様~粘液性下痢が継続して見られることが多いです。犬鉤虫との混合感染が見られることがあり、この場合には、糞便には犬鉤虫による小腸性の出血も加わるため強いタール便が見られ、貧血症状も顕著になることがあります。
鞭虫症は多くの消化管内寄生虫と異なり、仔犬での発生はまれで、通常は成犬に見られる寄生虫病であることが特徴の1つです。
鉤虫症
鉤虫に感染すると、鉤虫自体の吸血と腸壁からの出血による失血のため貧血が起こります。症状の程度は鉤虫成虫感染量、犬の年齢や栄養状態、さらに犬体内の貯蔵鉄量や免疫状態などに影響を受けます。初期には正球性正色素性貧血で、進行して鉄欠乏状態となれば小球性低色素性貧血となります。貯蔵鉄量の少ない幼犬では症状が重度になる傾向があります。
臨床症状は、仔犬、幼犬に見られることが多く、成犬では無症状なことが多いです。幼犬に幼虫が重度に感染した場合には、移行幼虫による肺、肝臓の病変が致命的になることがあります。成犬では無症状の場合が多いですが、犬鉤虫の吸血や腸壁からの出血による症状として腹痛、貧血、削痩、下痢が見られることがあります。下痢は小腸出血に起因する黒色タール便が見られることが多いです。
幼犬では、犬鉤虫感染後4日頃からの下痢症状、8日頃からの吸血、出血による貧血症状が見られ、10~15日頃には最も症状が顕著になります。経乳感染や胎盤感染した幼犬では、生後8日頃に顕著な症状が見られ死亡する例もあります。
犬の鞭虫症・鉤虫症の原因とは
鞭虫症
感染幼虫を含む虫卵を経口摂取することで感染し、経口摂取後30分以内に小腸で孵化します。幼虫は24時間以内に小腸粘膜へ侵入し、8~10日後には小腸管腔内へ脱出、下降して盲腸へ達します。ときには盲腸が充満するほどの感染が見られます。盲腸や結腸では、血液を摂取するために糸状の頭部を粘膜内へ深く刺入させています。
鉤虫症
主な感染方法は、経口感染と経皮感染であり、その他に胎盤感染、経乳感染もあります。
経口感染では体内へ移行することはなく、そのまま成虫に発育します。経口感染した第三期幼虫は消化管内で脱硝し、6日後までに小腸に至り第四期幼虫となり、さらに成長して第五期幼虫となります。感染後26日までには成虫となり、寄生期間は約6ケ月です。成虫は寒冷感作や宿主免疫などにより発育休止状態となることがあります。
経皮感染では、仔犬の場合と成犬の場合でその動態が異なります。生後3ヶ月までの幼犬の場合、経皮感染した幼虫は、血行性またはリンパ行性に肺に達します。その後は幼虫は肺胞から気管、咽頭を経て消化管へ移行し、感染4日後には小腸に達します。感染17日後には成虫に発育します。成犬が経皮感染した場合には、感染幼虫から成熟するものはなく、全身へ移行した後、筋肉内で休眠状態となります。
犬の鞭虫症・鉤虫症の好発品種について
全犬種で好発します。
感染症であるため、どの犬種でも発症する可能性があります。
犬の鞭虫症・鉤虫症の予防方法について
鞭虫症
屋外飼育の猟犬などでよく見られます。犬舎周囲の土中に存在しますので、飼育環境の改善が予防につながると言えます。
鉤虫症
鉤虫卵は乾燥や低温に弱いことから、飼育環境の清浄化以外に高温湿潤環境を避ける必要があります。飼育環境中の土壌が鉤虫卵で汚染されている場合には、再感染の主な原因となるため。飼育環境の改善が必要です。
犬の鞭虫症・鉤虫症の治療方法について
鞭虫症
現在はミルベマイシンオキシムを用いた駆虫が一般的になっています。
犬糸状虫症の予防にミルベマイシンオキシムが広く使用されるようになって以降、感染例は減少してきています。感染例では定期的な駆虫を継続することが推奨されています。
通常、駆虫後の予後は良好であると言えます。まれに鞭虫の大量および長期寄生例で、盲腸および結腸に肉芽腫性炎症が認められる犬では、駆虫後もこれに伴う炎症性腸炎の治療が必要になることがあります。
鉤虫症
鞭虫と同様に、犬糸状虫症の予防にミルベマイシンオキシムが広く使用されるようになって以降、感染例は減少してきています。
鉄欠乏性貧血の見られる犬には鉄剤の投与が必要な場合があります。
駆虫後の予後は良好です。仔犬で貧血が強く見られている症例では、鉄剤の投与による反応を十分に観察する必要があります。