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執筆獣医師:齋藤厚子先生
[記事公開日]  [最終更新日]
[ 目次 ]

猫の毛包虫症とは

毛包虫(ニキビダニ)によっておこる皮膚の炎症です。

毛包虫はニキビダニとも呼ばれ、健康な動物の皮膚にも少数存在する常在寄生虫です。
異常増殖すると毛包に炎症を起こし、ニキビの様にポツポツとした毛穴周囲の膨らみ、痒み、掻き壊しによる皮膚の傷・出血、脱毛などを起こします。

ニキビダニは動物の毛包の中に住み、角質や皮脂などを食べて生活していますが、皮膚が健康であれば全く症状を示しません。

しかし、何らかの原因が引き金となりニキビダニが異常増殖すると、毛包に炎症を起こして皮膚症状がみられるようになります。
これが毛包虫症と呼ばれる状態です。
毛包虫症になると、皮膚状態は非常に悪化するため、二次的に細菌感染などを合併することがあり、治療にも長期間を要します。

多くの毛包虫症には、皮膚の免疫力が低下するような基礎疾患が存在するため、皮膚の治療と並行して、基礎疾患の検査・治療をしっかり行うことが重要です。

猫の毛包虫症の症状とは

毛包の炎症により痒みと脱毛が起こります。

ニキビダニは、毛の付け根の毛包の中に住んで生活しています。
このニキビダニが異常に多く増殖すると、毛包が詰まって膨らんだようになり、以下のような症状を示すようになります。
・毛穴の膨らみ
・毛穴の詰まり(コメド)
・皮膚が赤く腫れる
・皮膚の痒み
・脱毛
・フケが多い
・皮膚が黒くなる(色素沈着)

これらの症状は、顔、手足、背中、お腹など、全身どこにでも起こりますが、猫では顔・頭部・頚部に好発する傾向があります。
はじめはどこか一部分から始まった場合でも、治療が遅れて進行すると、徐々にその範囲が広がり、全身性の毛包虫症になってしまうこともあります。

痒みが強いために掻いて皮膚を傷付けて出血してしまうことも多く、細菌感染などの二次感染を伴うと、皮膚が化膿して膿皮症となります。

猫の毛包虫症の原因とは

免疫力の低下による異常増殖で発症します。

ニキビダニは生後間もなく母猫から仔猫に感染が成立し、その後は常在寄生虫として宿主と共生状態を保って生活しています。

猫が健康で、体の免疫がしっかり働いている時は問題になることありませんが、何らかの原因で猫の体に体調不良が生じると、均衡が破れてニキビダニの異常増殖につながります。

その主な原因は以下の通りです。
・ウイルス感染(猫エイズ、猫白血病など)
・アレルギー性皮膚炎
・アトピー性皮膚炎
・腫瘍疾患
・内科疾患(糖尿病、副腎皮質機能亢進症など)
・過度のストレス(引っ越しや新規同居猫の存在など)
・加齢
・免疫を抑える薬剤の内服(高用量のステロイド、免疫抑制剤など)

この他では、免疫の未発達な仔猫で限局性の毛包虫症がみられます。

猫の毛包虫症の好発品種について

以下の猫種で好発がみられます。

これらの品種では遺伝的に毛包虫症を起こしやすい要因があると考えられています。

猫の毛包虫症の予防方法について

効果的な予防方法はありません。

ニキビダニは常在寄生虫ですので、感染を予防する方法はありません。

あまりストレスを与えず、バランスの取れたフードを食べ、適度に遊んだりブラッシングをしてスキンシップを取り、健康的な生活を送れるようにしましょう。

また、生活環境が不潔にならないように、ベッドの掃除や洗濯なども定期的に行いましょう。

皮膚に異常が見られたらすぐに病院を受診しましょう。

毛包虫症は早期発見、早期治療が重要です。
早く治療を始めれば、その分病変の拡大を抑制することができ、治療期間も短くできます。

皮膚が赤い、痒がっている、フケが増えた、毛が薄くなったなど、皮膚に問題があるときは、とりあえず一度病院を受診しましょう。

猫の毛包虫症の治療方法について

症状が限局的な場合は外用療法を行います。

病変が一部分に限局している場合は、外用薬を塗布して治療します。

外用薬には殺ダニ剤を希釈して溶かしたものを使用します。
塗布後は舐めとってしまわないよう、必要に応じてエリザベスカラーなどを使用しましょう。

全身性の場合には内服薬を併用します。

猫ではあまり多くありませんが、毛包虫症が全身に拡がった場合は、外用薬での治療に併せて内服薬もしくは注射薬で殺ダニ剤を投与します。
症状が限局的であっても、外用薬での治療への反応が悪く、悪化傾向がみられる場合にもこの治療を行います。

投与後は、吐き気や食欲不振などの副作用が現れる場合がありますので、初めて投与する際は特に気を付けて様子を観察しましょう。

シャンプー・薬浴を行います。

毛穴の洗浄効果があるシャンプーで洗浄し、殺ダニ剤を溶かしたお湯で薬浴することも効果的です。
全身性の場合も、限局性の場合も行うことがありますが、皮膚への刺激性が強いため、ひどく炎症を起こして潰瘍などができている場合には実施できません。
実施のタイミングや方法については、かかりつけの獣医さんとよく相談して行いましょう。

若齢の猫では自然に治ることもあります。

仔猫に発症した毛包虫症は、成長とともに自然に改善することがあります。
そのため、経過観察を提案されることがありますが、悪化傾向であれば治療対象となりますので、変化をよく観察するようにしましょう。

基礎疾患の治療が必要です。

成猫になってから発症する毛包虫症、中でも全身性の毛包虫症の背景には、多くの場合、基礎疾患の存在があります。
皮膚の治療だけ行っても、基礎疾患を治療しなければなかなか良くならず、回復したとしてもすぐに再発してしまいます。
毛包虫症と診断されたら、一度全身的な健康診断を行ってもらい、基礎疾患があればその治療を合わせて行いましょう。

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