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監修: 葛野 宗 獣医師
[記事公開日]  [最終更新日]
[ 目次 ]

犬の尿崩症とは

尿が濃縮されないままに大量に作られてしまう状態です。

健康な犬の場合、1日の尿量は体重1㎏当たり60ml以下ですが、1日の尿量が体重1kg当たり100ml以上になると異常とされています。正常な腎臓では、糸球体でいったん濾過した水分の99%以上を再び吸収して体に戻しますが、これを再吸収と言います。再吸収の結果、尿は膀胱に貯留される時には、糸球体で濾過された時よりも濃縮された状態になっています。この再吸収がうまく働かなくなると、尿が濃縮されないまま大量に作られてしまうことになり、この状態を尿崩症と言います。

犬の尿崩症の症状とは

多飲多尿が見られます。

まず、尿量が増加します。そのため体内から尿として水分を排出し、それを補うために大量の水を飲むようになります。
初期は元気、食欲には問題無いことが多く、多飲多尿のみ認められることが多いとされています。慢性化すると、体重減少が認められることがあります。
大量に水を飲めていれば他の臨床徴候が認められない場合がありますが、水を飲めなくなってしまうと短時間のうちに脱水症状があらわれ、意識混濁や痙攣が起こることがあります。

尿崩症の他にも多飲多尿が見られる病気は多くあります。多飲多尿が見られる病気には、慢性腎不全、腎炎、副腎皮質機能亢進症、糖尿病などがあります。避妊手術を受けていないメスで見られる子宮蓄膿症でも多飲多尿が認められます。また、副腎皮質ホルモン薬、利尿薬、抗てんかん薬でも多飲多尿が認められます。

犬の尿崩症の原因とは

腎性尿崩症と中枢性尿崩症に分類されます。

尿崩症は大別して、腎臓に問題がある腎性尿崩症と脳の下垂体に問題がある中枢性尿崩症に分けられます。

腎性尿崩症は、バソプレシンに対する腎臓の反応が低下する時に起こります。

中枢性尿崩症は、下垂体からのバソプレシンの分泌が不足した時に起こります。
腫瘍の転移、交通事故の後に生じる外傷に起因することもあります。

正常な動物では水が与えられないと尿を濃縮して尿量を減らしますが、尿崩症の場合、水分の再吸収ができないため、水を飲めていなくても大量に尿をつくってしまいます。この時に尿量とともに尿比重を測定すると尿崩症の診断ができます。
この状態でバソプレシンを注射することで、中枢性尿崩症の場合は正常な場合と同じように尿を濃縮できるようになります。それに対して、腎性尿崩症の場合は腎臓がバソプレシンに対する感受性を失ってしまっているため、注射したバソプレシンにも反応しません。この反応の違いで腎性尿崩症か中枢性尿崩症かを判断します。

 

犬の尿崩症の好発品種について

全犬種で好発します。

尿崩症はそれほど多い病気ではありませんが、犬種や性別に関係なく発症するとされています。

犬の尿崩症の予防方法について

早期発見、早期治療をおこないます。

尿崩症は予防方法はないため、早期発見、早期治療をおこないます。元気、食欲に問題が無い場合でも、飲水量、尿量が増加した場合は動物病院に相談しましょう。

犬の尿崩症の治療方法について

バソプレシンを投与します。

尿崩症の治療は、多飲多尿の低減または解消を通じてQOLを改善することが目的となります。

バソプレシンの補充によって治療をおこないます。合成バソプレシンが存在しますが、作用時間や投与経路の難しさから前駆体であるデスモプレシン酢酸水和物が多く使用されます。国内には経口薬と点鼻薬の2種類が存在していますが、点鼻薬を点鼻したり点眼することが多いとされています。

デスモプレシン酢酸塩水和物は、決して安価な薬ではなく、生涯にわたる投与を考えた場合、投薬を断念してしまう場合もあります。しかしながら、尿崩症は飲水制限をおこなうと致命的になりますが、飲水制限をおこなわなければ大きな問題は起こりません。これを逆手に取り、自由飲水がおこなえる環境をつくり、自由排尿できるのであれば無治療で生活可能です。

特発性の尿崩症は、地領がおこなわれていれば予後は良好と言えます。外傷性や炎症性疾患に起因しているものは、原疾患の治療がおこなえれば予後は良好ですが、汎下垂体機能減少症などがあると併発疾患のコントロールが難しくなります。また、腫瘍性疾患が原疾患の場合は、予後はその腫瘍に依存します。

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