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監修: 葛野 宗 獣医師
[記事公開日]  [最終更新日]
[ 目次 ]

犬の乳腺腫瘍とは

未避妊雌に発生する腫瘍では最も多い腫瘍です。

犬の乳腺腫瘍は、未避妊雌に発生する腫瘍ではもっとも多く、とくに中~高齢(7~13歳)で発生が増加します。犬に発生する乳腺腫瘍は、猫の乳腺腫瘍とは大きく異なり半数が良性であるとされています。また、悪性のうち転移を生じるものは、その中の半数程度とされています。

犬の乳腺腫瘍の症状とは

乳腺近傍に発生する腫瘤です。

犬の乳腺は通常左右5対存在しますが、乳腺近傍に発生する皮下あるいは皮膚腫瘤として認識され、とくに乳腺組織の多い第4~5乳腺に多く発生します。6割以上の症例で多発し、良性と悪性が混合して発生することも少なくないとされています。そのため、主訴以外の乳腺にも小型の腫瘤が発生していることがあります。また、以前から存在する腫瘍が急速に増大してきた場合には、悪性転化を疑います。

犬の皮膚には乳腺腫瘍の他にも良性腫瘍や肥満細胞腫などの悪性腫瘍も発生するため、乳腺部に認められた全ての腫瘤性病変に対して、極力細胞診検査を実施することが推奨されています。犬の乳腺腫瘍は、腫瘍の大きさ、領域リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無でステージングが評価されます。犬の乳腺腫瘍において評価すべきリンパ節として、腋窩、胸骨、内腸骨、鼠経リンパ節が挙げられます。大型の乳腺腫瘍が認められた場合には、腫瘍から離れた部位のリンパ節に対しても転移の有無に関する評価をすべきとされています。

犬の乳腺腫瘍の原因とは

性ホルモンが原因とされています。

犬の乳腺腫瘍は、乳腺の細胞が性ホルモンの影響を受けて発生するとされています。

犬の乳腺腫瘍の好発品種について

以下の犬種で好発がみられます。

未避妊雌の中高齢(7~13歳)で発生が多く、アメリカンコッカースパニエル、イングリッシュコッカースパニエル、チワワ、トイプードル、ミニチュアダックスフンドで多く認められます。

犬の乳腺腫瘍の予防方法について

初回発情前に避妊手術を実施することで予防できます。

犬では初回発情前に避妊手術を実施することで、その後の乳腺腫瘍の発生率が0.5%まで低下することが知られています。発情後からの時間経過とともにその予防効果は減少するとされ、4歳以降の避妊手術にはホルモン反応性に発生するものを除き、予防効果はないとされています。

犬の乳腺腫瘍の治療方法について

外科療法をおこないます。

犬の乳腺腫瘍では、外科的切除が治療の第一選択となります。主な方法としましては、腫瘍のみの切除、罹患乳腺のみの切除、領域乳腺の切除(第1~2乳腺切除、第3~5乳腺切除など)、片側あるいは両側全切除などが挙げられます。現在ある腫瘍を取り切ることを優先するか、それに加え今後の再発あるいは新規病変の発生を予防することを同時に考慮するかどうかで術式の選択が変わります。

犬の乳腺腫瘍切除後に残存した乳腺に新たな病変(転移あるいは再発)が発生した症例の割合は58%であったとされています。この数字は決して低くはないものの、犬では新たに腫瘍が発生した場合においても、その時点で再度腫瘍の切除をおこなえば良好な予後が期待できる症例が多いと考えられます。

現時点で犬の乳腺腫瘍に対する有効な化学療法はありませんが、リンパ節あるいは遠隔転移が認められた場合、組織学的に高グレードに分類された場合でおこなわれる場合があります。代表的な薬剤としましては、カルボプラスチン、シクロホスファミド水和物、NSAIDsが挙げられます。

予後

乳腺腫瘍において報告されている予後因子には、腫瘍の大きさ、組織学的タイプとそのグレード、成長パターンおよびリンパ節転移の有無などがあります。リンパ節転移が認められた場合の平均生存期間は、8~17か月、リンパ節転移が認められない場合の平均生存期間は、19~24か月以上とされており、早い段階での治療介入により、良好な予後が期待できます。また、腫瘍の大きさが5㎝を超える場合、あるいは6か月以上無治療で経過観察をおこなった場合に、リンパ節への転移率が高くなることも報告されています。

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