犬の咀嚼筋炎とは
咀嚼筋群に炎症が見られます。
口を動かすための筋肉である側頭筋、咬筋、顎二腹筋、翼突筋を咀嚼筋群とよびます。咀嚼筋炎では、咀嚼筋群にのみ炎症が認められますが、多発性筋炎を併発することがあります。
犬の咀嚼筋炎の症状とは
咀嚼筋の腫脹と開口時の疼痛が認められます。
発症の時期によって急性期と慢性期に分けられます。
急性期には筋線維間に炎症細胞の著しい浸潤が認められます。急性期の症状は筋の炎症に伴うものであり、咀嚼筋の腫脹と開口時の疼痛が認められます。また、全身性の強い炎症反応から発熱や元気消失などを伴うことも多いとされています。
慢性期になると炎症は収束しますが、筋線維の線維化が進行し、咀嚼筋の萎縮とともに開口範囲が狭くなります。そのため、骨ばって目が落ち窪んだ顔つきになります。
血液検査では慢性炎症に伴う軽度の貧血、好中球主体の白血球増加症を認めることがあります。血液化学検査では、CKやAST活性が上昇しており、とくに急性期には高値を示します。急性期にはCRPも顕著に高値を示すことが多いとされています。
筋生検および病理組織学的検査は診断だけでなく、予後予測においても重要であるとされています。慢性期の線維化が進んだ症例では、著しく開口範囲が狭くなっている場合があります。硬く線維化していることが原因であるため、このような場合は意識下はもちろん、麻酔下でも開口は困難です。
犬の咀嚼筋炎の原因とは
自己免疫疾患の一種であるとされています。
咀嚼筋炎は、2M型筋線維に対する自己抗体が形成されることで発症する自己免疫疾患の一種であるとされています。
犬の咀嚼筋炎の好発品種について
以下の犬種で好発がみられます。
- ジャーマンシェパード
犬種、年齢を問わず発症しますが、若齢の大型犬やジャーマンシェパードでの発症が多いとされています。
犬の咀嚼筋炎の予防方法について
早期発見、早期治療をおこないます。
咀嚼筋炎は、自己免疫疾患の一種であるため、予防は難しいと言えます。早期発見、早期治療をおこないます。
犬の咀嚼筋炎の治療方法について
急性期の治療
急性期には炎症と免疫反応を抑えることが治療の主体となります。
咀嚼筋炎では、多発性筋炎や他の免疫介在性疾患と同様に、コルチコステロイドや免疫抑制薬を中心とした免疫抑制療法を実施します。通常は免疫抑制量のコルチコステロイドから治療を開始することが多いです。この時期の開口障害や疼痛は筋線維の炎症によるものが主体であるため、コルチコステロイドが奏効しやすいとされています。症状の改善が認められれば、コルチコステロイドを漸減します。多くの免疫介在性疾患と同様に、2~3週間おきに30%ずつゆっくり減量していくと維持しやすいとされています。うまくいけば休薬できる場合もあります。
一方で、コルチコステロイドの減量がうまくいかない場合には、免疫抑制剤を併用します。多少筋線維の萎縮があっても、治療が奏効すれば機能の回復は充分期待できます。
慢性期の治療
筋線維の萎縮と線維化が進んだ慢性期には、コルチコステロイドが奏効しない場合があります。これは、筋線維の線維化によって物理的に開口できなくなっているためで、炎症を抑えても硬く委縮した筋線維は回復しません。過去には線維化の進んだ場合の治療として、麻酔下で強制的に開口することもおこなわれていましたが、かえって炎症や筋損傷を助長するため現在では推奨されていません。開口範囲が狭く、摂食が困難な場合には、食道チューブや胃瘻チューブの設置も検討する必要があります。
予後
線維化の程度と初期治療への反応性に左右されますが、一般的に急性期に治療を始めたほうが予後は良いとされています。線維化が重度の場合は、開口障害が改善せず、流動食やチューブフィーディングが生涯必要になる場合もあります。