猫伝染性腹膜炎とは
変異したコロナウイルスによる難治性の病気です。
猫伝染性腹膜炎は猫コロナウイルスの感染によっておこる病気です。
一般的な猫コロナウイルスは軽い消化器症状を引き起こす程度ですが、そのウイルスが何らかの原因で突然変異を起こすと強毒化し、免疫細胞に侵入して異常を起こし、様々な臓器や血管に炎症反応を引き起こして命を奪う難治性の病気です。
大きく分けるとドライタイプとウェットタイプの2タイプがありますが、いずれの場合も効果的な治療法はなく、残念ながら予後は不良です。
猫伝染性腹膜炎の症状とは
異常な免疫細胞によって体のさまざまな部分で炎症が起こります。
猫伝染性腹膜炎になると、ウイルスに侵された免疫細胞が血管やリンパ管を通して様々な臓器に移動し、そこで炎症を起こし、下記のような症状を示します。
・発熱
・元気消失
・食欲低下
・嘔吐
・下痢
・黄疸
・腹水や胸水
・腹腔内腫瘤(肉芽腫)
・眼の異常(眼の色が変わる・瞳孔の形がいびつになる)
・神経症状(発作や歩行異常など)
猫伝染性腹膜炎は以下の2タイプに大きく分けられます。
① ウェットタイプ
② ドライタイプ
いずれのタイプでも、発症してしまうと進行は急速で、数日から数カ月で命を落とす恐ろしい病気です。
ウェットタイプは腹水などが貯留します。
ウェットタイプは胸やお腹の中を内張する胸膜や腹膜、時には心膜の血管にウイルス感染した免疫細胞の蓄積が起こり、胸水や腹水、心嚢液が多量に貯留するタイプです。
上に示したような症状に加え、胸水の貯留によって呼吸が苦しくなり、開口呼吸などがみられたり、腹水がたくさんたまることによってお腹がタプタプと膨らみ、腹水の圧迫によって食欲不振や下痢などをおこします。
胸水や腹水は褐色~緑がかった黄色で、粘稠性が高く、抜去した後ゲル状に固まったりするのが特徴的です。
ドライタイプは肉芽腫性病変を作ります。
ドライタイプは胸水や腹水はたまりませんが、内臓の表面や腸管膜などに白いぽつぽつとした隆起(結節)を作り、時に大きなしこり(肉芽腫)を形成します。
肉芽腫ができることによって臓器が変形していびつになったり、肝臓・腎臓の機能に障害が出たりします。
眼に炎症が起こった場合には、ブドウ膜炎や脈絡膜炎などをおこし、眼の色が変わる、瞳孔がいびつになる、眼が透き通っておらず濁ったようになる、などの症状が出ることがあります。
猫伝染性腹膜炎の原因とは
突然変異が起こった猫コロナウイルスによっておこります。
猫伝染性腹膜炎は猫コロナウイルスの感染によっておこります。
猫コロナウイルスには2タイプあり、一つは猫腸コロナウイルス、もう一つが猫伝染性腹膜炎を起こす変異ウイルスです。
猫腸コロナウイルスは一般的に広範に存在しており、多くの猫が感染したことがあることを示す抗体を持っています。
この猫腸コロナウイルスは腸の細胞に感染し、病原性は非常に弱く、猫同士の間で糞便に排泄されたウイルスを介して感染が伝搬しますが、ほとんど症状を示しません。
感染後は免疫によってウイルスが排除されますが、中には完全には排除できず、生涯ウイルスを排泄する猫もいます。
この腸コロナウイルスに感染した猫に、免疫が低下するような何らかのストレスがかかると、突然変異が起こり、病原性の高い猫伝染性腹膜炎ウイルスになってしまいます。
変異がどういった機序で起こるのかは明らかになっていませんが、多頭飼育のストレスや免疫を低下させる他のウイルス(猫エイズや猫白血病ウイルス)の感染、免疫抑制剤の使用などが要因の一つではないかとされています。
変異した猫伝染性腹膜炎ウイルスは免疫細胞に感染するため、便には排泄されないとされていますが、猫同士の接触によって感染が広まる可能性も指摘されています。
猫伝染性腹膜炎の好発品種について
好発する品種はありません。
特にありません。
どんな猫でも起こりますが、子猫から3歳くらいまでの猫で発症率が高いとされています。
また、単独飼育よりも多頭飼育の方が発症リスクは高くなります。
猫伝染性腹膜炎の予防方法について
できるだけコロナウイルスの感染リスクを避けましょう。
コロナウイルスに感染している猫と接触しないようにすることです。
しかし、変異を起こす前の腸コロナウイルスはあまり症状が出ないため、感染している猫を認識するのは非常に困難です。
予防策としては、知らない猫との接触を避けるために外に自由に出かけられないようにすることが挙げられます。
多頭飼育の場合はストレスを回避しましょう。
多頭飼育の場合、ストレスがかかることによってウイルスが変異する可能性が指摘されています。
密になりすぎないようにすることや、相性の悪い猫同士は生活環境を分ける、食事やトイレがそれぞれ落ち着いてできるような環境づくりが大切です。
トイレを共同で使用すると、便に排泄されたコロナウイルスに接触する機会が増えるので、多頭飼育ではトイレの数を十分用意することも必要です。
万が一、一頭で感染が見られたら、隔離して他の猫とは接触させないようにしましょう。
また、ヒトの手を介して伝搬してしまうことを防ぐために、分泌物(涙や唾液)などが付いた衣類は着替えるようにし、手洗い・消毒を念入りに行いましょう。
ワクチンは日本では実施されていません。
海外には猫伝染性腹膜炎のワクチンがありますが、その有効性は議論の分かれるところで、日本では行われていません。
猫伝染性腹膜炎の治療方法について
対症療法を行います。
猫伝染性腹膜炎を発症してしまったら、治療する効果的な方法は現在ありません。
少しでも症状をやわらげ、苦痛を取り除いてあげるために対症療法を行います。
胸水や腹水が溜まると苦しくなり、動きが緩慢になるほか、元気も食欲も落ちてしまうため、それを改善するために定期的に抜去します。
また、ウイルスの増殖を少しでも抑え、病気の進行を遅らせるために、インターフェロンや抗ウイルス薬を投与します。
伝染性腹膜炎を起こすウイルスは血管炎を起こすのが特徴なので、炎症を抑えるステロイド剤や免疫抑制剤などのお薬も使用されることがあります。
しかし、いずれの治療も一過性には効果がありますが、しばらくすると症状が再燃してしまい、病気を完治させるものではありません。
また、最近では海外でFIPの新しい治療薬が使われはじめているようです。日本では未発売の治療薬ですので、一般の動物病院でこのお薬を使った治療は難しいようです。
おいしいごはんで少しでも体力を維持しましょう。
徐々に衰弱して食欲が落ちてしまうので、栄養価の高いフードやおいしい缶詰などで少しでも体力をつけてあげ、脱水などがある場合には皮下点滴をしてもらって、体の辛さを軽減してあげましょう。