犬の多発性骨髄腫とは
比較的まれな造血系悪性腫瘍です。
多発性骨髄腫は犬の悪性腫瘍の0.3%、造血系悪性腫瘍の約2%を占めるとされ、比較的まれな疾患です。
犬の多発性骨髄腫の症状とは
多発性骨髄腫の臨床徴候
多発性骨髄腫の臨床徴候や検査での異常は多様であるとされています。
50~60%の症例でX線検査において異常が検出されます。骨病変は孤立性の場合も多発性の場合もあります(肋骨、骨盤、四肢、椎体)。主なメカニズムは腫瘍細胞の骨髄浸潤と破骨細胞の活性化であるとされています。骨病変の程度によって異なりますが、跛行や全身の疼痛などが見られます。
15~20%の症例で高カルシウム血症が認められるとされています。破骨細胞活性化因子と副甲状腺ホルモン関連蛋白が関与していると考えられています。
多発性骨髄腫の症例は免疫異常を起こしやすいため、易感染性であるとされています。
約1/3の症例で出血の徴候が認められます。メカニズムとしましては、血小板減少症、M蛋白が血小板を被覆することによる血小板の凝集機能の低下、M蛋白による種々の凝固因子の阻害などが考えられています。
22~50%の症例で腎障害が見られます。M蛋白の腎臓への沈着、アミロイドーシス、高カルシウム血症、過粘稠度症候群による腎臓灌流の減少、脱水、尿路感染、腫瘍細胞の浸潤などが考えられます。
犬での発生頻度は不明ですが、過粘稠度症候群による心負荷の増大、心筋へのアミロイド沈着および貧血が心臓機能を低下させる可能性があります。
約30%の症例に貧血と血小板減少症が認められます。腫瘍細胞の骨髄浸潤、慢性炎症、出血、過粘稠度症候群による赤血球の破壊などに起因します。
犬の多発性骨髄腫の原因とは
形質細胞が腫瘍化することで引き起こされます。
多発性骨髄腫の本質は腫瘍性の形質細胞の骨髄中での増殖であるとされています。
多発性骨髄腫は古くから診断基準が提唱されています。モノクローナルガンモパチーの存在または異常蛋白の検出、X線検査での溶骨性病変、骨髄において腫瘍性形質細胞が5%以上あるいは形質細胞が10~20%認められる、尿中にベンズ・ジョーンズ蛋白が検出、の4項目中2つ以上を満たせば多発性骨髄腫と診断してよいとされています。
犬の多発性骨髄腫の好発品種について
全犬種で好発します。
どの犬種でも起こり得ます。中~高齢の犬に見られることが多いとされています。
犬の多発性骨髄腫の予防方法について
早期発見、早期治療をおこないます。
多発性骨髄腫は、予防が難しい疾患と言えます。早期発見、早期治療が重要な疾患であり、治療の開始時期が症例の予後を左右する疾患であると言えます。
犬の多発性骨髄腫の治療方法について
抗がん剤療法がおこなわれます。
多発性骨髄腫の標準治療は、メルファラン・プレドニゾロンプロトコールであり、効果を証明する報告が存在します。完治はきわめてまれではありますが、化学療法により骨の疼痛、跛行などの臨床徴候は治療開始から1か月程度で改善します。血液検査値(高グロブリン血症、カルシウム値、貧血、血小板減少症など)の改善には3~6週間程度、溶骨性病変の改善には数か月を要します。溶骨性病変は完全に消失しないこともあります。
メルファランは経口のアルキル化薬ですが、その他に使用されているアルキル化薬としてシクロホスファミド、クロラムブシル、ロムスチンなどがあります。
予後
多発性骨髄腫をメルファラン、シクロフォスファミド、プレドニゾロンで治療した回顧的研究では、43.2%で完全寛解、48.6%で部分寛解が得られ、生存期間中央値は540日と報告されています。それに対してプレドニゾロン単独で治療された症例の生存期間中央値は220日であったとされています。高カルシウム血症、尿中ベンズ・ジョーンズ蛋白、重度の溶骨性病変が負の予後因子であったとされています。