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監修: 葛野 宗 獣医師
[記事公開日]  [最終更新日]
[ 目次 ]

犬の偽妊娠とは

妊娠していないにもかかわらず妊娠犬と同様の徴候を示す状況です。

犬は多くの哺乳動物と異なり、排卵後の黄体機能は妊娠の有無にかかわらず類似しており、約2か月間維持されます。そのため、妊娠していなくても黄体から分泌される長期間のプロジェステロンの作用により、軽度な乳腺の腫大が見られます。ただし、白色を呈した乳汁の分泌は見られず、血漿様の液が分泌される程度です。この状況を生理的偽妊娠と言います。
これに対して、妊娠していないにもかかわらず、妊娠犬と同様の徴候(著しい乳腺の腫大、乳汁分泌および営巣行動などの行動的変化など)を示す状況を偽妊娠(臨床的偽妊娠と呼ぶことあります)と言います。

犬の偽妊娠の症状とは

妊娠犬と同様の徴候が認められます。

偽妊娠の臨床徴候としましては、乳腺の腫大、乳汁分泌が認められます。その他に、食欲不振、神経質・攻撃的になる、営巣行動、おもちゃを仔犬のようにかわいがるなどの行動変化が見られますが、個体によりその程度はさまざまです。乳汁は乳房を絞ると出る場合が多いですが、重度の時には何もしなくても乳頭から垂れ落ちてしまう場合もあります。

 

 

犬の偽妊娠の原因とは

ホルモンの作用によって引き起こされます。

妊娠期の後半以降に下垂体前葉から分泌されるプロラクチンに原因があることが明らかにされています。妊娠していない犬ではプロラクチンの血中濃度はやや上昇するだけですが、偽妊娠犬においては妊娠犬と同様の著しい上昇を示し、このホルモンの作用によって、偽妊娠に関連する徴候が現れます。妊娠していないにもかかわらず、なぜプロラクチンが妊娠犬と同様に高濃度に分泌されるかという発生機序についてはまだ詳細は明らかにされていませんが、プロジェステロンの血中濃度の減少と関係があることが明らかにされています。

犬の偽妊娠の好発品種について

全犬種で好発します。

避妊手術を受けていない雌犬に見られます。偽妊娠を一度発症した犬は、発情ごとに繰り返すとされています。

犬の偽妊娠の予防方法について

避妊手術を受けることで予防できます。

今後とくに繁殖する予定がないのであれば、外科的な避妊手術を受けることで偽妊娠を防ぐことができます。

犬の偽妊娠の治療方法について

内科的治療をおこなう場合があります。

偽妊娠は生理的な現象であり時間の経過とともに乳腺は自然に退行するため、特別な治療はおこなわない場合もあります。飼い主が積極的な治療を強く希望する場合、乳汁分泌が著しく乳腺に熱感や痛みを伴う場合、ダックスフンドのように短足であるため腫大した乳房を床に引きずってしまう場合、攻撃性・神経質などの精神的な徴候が強い場合、などでは薬物投与による積極的な内科的治療をおこないます。
偽妊娠の内科的治療としましては、ドパミン作動薬である抗プロラクチン薬を使用します。1日1回、数日間の投与で乳腺の腫大および乳汁分泌の徴候は消失します。また、この治療は乳腺の腫大が見られないが神経質な異常行動だけを示している犬に対しても効果が見られます。
プロラクチンは犬において黄体刺激作用をもつため、抗プロラクチン薬を投与すると黄体の早期退行が起こり、その作用によって次回の発情発現が早くなることが副作用の1つとして知られています。

偽妊娠は、乳房を刺激すると徴候が治まらないことが知られています。同居している犬による吸引刺激や自分で乳頭を舐めることによる刺激によってプロラクチンの分泌が持続してしまうと、乳汁分泌は消失せず持続してしまいます。そのため、このような状況が考えられる場合は、エリザベスカラーをつけるなどの処置が必要になります。また、おもちゃを自分の子供だと思って授乳するような動作を示している場合は、そのおもちゃを取り上げないといつまでも徴候が消失しない可能性があります。

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