犬の胃潰瘍とは

胃の粘膜に潰瘍が形成される状態です。

胃潰瘍は、胃の粘膜に存在する器質的な病変や異物などの物理的な障害、また胃酸分泌過多により形成されます。明らかな原因が同定されない場合もありますが、多くの場合は何らかの原因、誘因が存在すると考えられています。

犬の胃潰瘍の症状とは

嘔吐、潰瘍部分からの出血が見られます。

胃潰瘍の主な臨床症状としましては、嘔吐、潰瘍部分からの出血、食欲不振、元気消失などが挙げられます。潰瘍部分の出血によって、黒色便（メレナ）が見られる場合もあります。潰瘍部分からの出血が多い場合は、貧血が見られることもあります。

犬の胃潰瘍の原因とは

原因は多岐にわたります。

胃潰瘍の原因としましては、腎疾患や肝疾患、炎症性腸疾患などの他、異物、薬物（とくにステロイドやNSAIDsなどの抗炎症薬）の摂取が挙げられます。これらについては、異物摂取の傾向があるか、既往症があるか、投薬歴があるか、などの稟告の聴取が重要となります。

また、中～高齢動物においては、腫瘍性疾患による消化管潰瘍はしばしば遭遇見られる病態です。犬における胃腺癌は、様々な犬種で認められる予後の悪い腫瘍です。胃体部・胃角～幽門洞にかけて好発し、胃潰瘍を形成することも多いとされています。

その他に、腫瘍随伴症候群として胃潰瘍が問題になることがあります。肥満細胞腫における高ヒスタミン血症は、胃酸分泌促進作用により重度の潰瘍を形成することがあります。また、ガストリノーマはガストリンを産生する、犬におけるまれな腫瘍ですが、高ガストリン血症が胃潰瘍の原因となることがあります。

犬の胃潰瘍の好発品種について

以下の犬種で好発がみられます。

胃潰瘍はどの犬種でも起こり得ます。
胃潰瘍の原因となる肥満細胞腫の好発犬種であるゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、パグ、ボクサー、ボストンテリアはとくに注意が必要です。

犬の胃潰瘍の予防方法について

原因となる疾患の早期発見、早期治療をおこないます。

胃潰瘍の原因となる疾患の早期発見、早期治療をおこなうことが、胃潰瘍の予防につながる可能性があります。

犬の胃潰瘍の治療方法について

原因疾患の治療、原因となっている薬剤の投与中止、対症療法をおこないます。

原因の除去はしばしば困難ですが、胃潰瘍の原因となる薬剤の投与は可能な限り中止すべきです。また、原因疾患の同定が重要で、治療反応性や予後を判定するためにスクリーニング検査が必要であり、場合によってはより詳細な検査が必要です。

胃酸分泌抑制薬としましては、Ｈ2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬、プロスタグランジンEアナログなどが使用されます。
プロトンポンプ阻害薬は胃潰瘍に対する治療薬として、胃酸分泌抑制薬の中でもっとも推奨されています。１日２回の投与は１回の投与より有効であるとされています。
H2受容体拮抗薬はよく用いられてきた胃酸分泌抑制薬ですが、少なくとも１日１回の標準量投与では胃潰瘍の治療に必要な胃内pHは保てないこと、１日２回の投与であってもプロトンポンプ阻害薬より薬効は劣ること、１～２週間の長期投与により薬効がさらに減弱することが示唆されています。
プロスタグランジンEアナログは、NSAIDs誘発性の胃潰瘍に対して有効であるとされています。
いずれの胃酸分泌抑制薬も、長期投与により高ガストリン血症などが起こる可能性があり、長期投与後の休薬には注意する必要があり、漸減を考慮すべきであるとされています。

予後

予後は原因と病変の重症度、併発疾患いによります。一過性で軽度であれば予後は良いですが、胃潰瘍の原因となる基礎疾患が重篤であったり慢性疾患の場合や、原因となる薬剤が明らかでも併発疾患の治療のために休薬が困難な場合には、治療は難航します。