猫の膝蓋骨脱臼とは
膝のお皿が大腿骨の内側あるいは外側に脱臼します。
膝蓋骨脱臼とは、膝蓋骨、いわゆる膝のお皿が脱臼した状態をいいます。
膝蓋骨とは、膝関節の前側にある種子骨という遊離した骨で、太ももの筋肉から延びる腱の中に存在しています。
膝蓋骨は太ももにある大きな大腿四頭筋を一つにまとめ、下腿骨にその力を伝える橋渡しをしています。
また、大腿骨の下端には膝蓋骨が収まる滑車状のくぼみがあり、その上を膝蓋骨が滑らかに滑ることで膝がスムーズに曲げ伸ばしできます。
膝蓋骨が脱臼すると膝蓋骨に付着している腱や筋肉も内側あるいは外側に牽引されるため、膝関節に異常なテンションがかかり、膝の曲げ伸ばしをしにくくなり、びっこを引いたり、片足でケンケンして歩く様子が見られます。
膝蓋骨は膝関節の重要な支持組織の一つで、脱臼したままで捻れるような力がかかると膝関節を構成する他の靭帯の断裂につながることがあるため、膝蓋骨脱臼と診断された場合には治療すべきかどうか、慎重に経過を見る必要があります。
猫の膝蓋骨脱臼の症状とは
歩行異常がみられます。
膝蓋骨が脱臼すると、以下のような症状が見られます。
・時々片足でケンケンする
・びっこを引いて歩く
・膝が腫れている
・足を触ると嫌がる
膝蓋骨脱臼は程度によってグレード1~4に分類されます。
グレード1 膝蓋骨を手で押すと脱臼するが、離すと自然に元に戻る
グレード2 膝を曲げるか、膝蓋骨を手で押すと脱臼し、膝を伸ばすか膝蓋骨を手で押すと整復できる
グレード3 常に膝蓋骨が脱臼しており、手で押すと整復できるが、離すと再び脱臼する
グレード4 膝蓋骨が常に脱臼し、手で押しても整復できない
グレード1~2では強い痛みの症状などが出ることなく、特にグレード1では歩行にもほとんど支障が出ません。
グレード3以上では歩行に明らかに異常が見られ、中には痛みの症状が強く現れたり、骨の変形や靭帯にも影響が出ることがあります。
猫の膝蓋骨脱臼の原因とは
遺伝性におこります。
特定の品種には遺伝性に膝蓋骨脱臼が起こります。
スコティッシュフォールド、シャム、ペルシャ、デボンレックス、メインクーンなどが報告されています。
特に股関節形成不全などが存在する場合に、股関節脱臼に伴って太ももの筋肉がけん引され、膝蓋骨脱臼を起こすことが多いようです。
外傷性に発生します。
交通事故や高所からの落下によって強い力がかかることによって起こったり、骨折に伴って脱臼が起こることがあります。
猫の膝蓋骨脱臼の好発品種について
以下の猫種で好発がみられます。
- シャム
- スコティッシュフォールド
- デボンレックス
- ペルシャ
- メインクーン
これらの品種では遺伝性に膝蓋骨脱臼が起こりやすいとされています。
外傷性の膝蓋骨脱臼は品種に関係なく発生します。
猫の膝蓋骨脱臼の予防方法について
環境改善でケガを防ぎましょう。
滑りやすい床や非常に高いところから飛び降りて着地するような環境では、外傷による膝蓋骨脱臼も発生しやすくなります。
特に年をとって筋肉が減少していると、筋肉による支持が弱くなるためにリスクが上がるので、年齢とともに生活環境を見直し、不慮の事故によるけがが起こらないようにしましょう。
室内で飼育しましょう。
外に出た際に交通事故などに遭うことを防ぐためには室内飼育を推奨します。
体重管理も大切です。
肥満傾向の猫では、日常的に四肢の関節や腰に負担がかかっており、そのような状態では膝のケガも多くなります。
日ごろから体重過剰にならないように健康的な食生活を心がけ、適度に運動させるようにしましょう。
猫の膝蓋骨脱臼の治療方法について
リハビリで経過観察します。
グレード1では、膝の曲げ伸ばし運動をするリハビリを行いながら、経過観察を行います。
膝蓋骨脱臼では膝蓋骨に付着する筋肉やその周りの筋肉に拘縮がおこっていることが多いため、リハビリによってその拘縮を解除し、スムーズに膝の曲げ伸ばしができるようにします。
特に症状の進行がなく痛みなどの症状も見られなければ、そのままリハビリによる保存療法を行います。
外科手術を行います。
リハビリを行っても脱臼の状況がグレード2以上である場合や、痛みの症状、歩行に支障が出ている場合には、外科手術によって膝蓋骨の整復を行います。
手術の方法にはいくつかあり、大腿骨の滑車の状態や、拘縮した筋肉による牽引の程度、外傷による骨の損傷の状態などによってどのような手術をするか選択していきます。
・膝蓋骨に付着する筋肉の解離
膝蓋骨脱臼によって膝蓋骨に付着する筋肉の拘縮が起こり、そのテンションによって脱臼が起こりやすくなってしまうため、筋肉の付着部を解離してテンションを解除します。
他の手術手技と合わせて行います。
・滑車溝形成手術
大腿骨にある滑車を深く作り直すことによって、膝蓋骨が滑車から脱臼しにくくする手術です。
・脛骨粗面転位術
膝蓋骨が橋渡しする膝蓋腱は、脛骨の脛骨粗面という部分に付着します。
その脛骨粗面の骨を切り、位置をずらして固定しなおすことで、膝蓋腱に包まれた膝蓋骨の位置を変更させます。
・関節包の縫縮
膝蓋骨の脱臼に伴って伸びた関節包を適度なテンションで縫い縮めて再脱臼を予防します。
・矯正骨切り術
大腿骨の変形が起こっている場合には、骨を切って変形を修正する矯正手術も行います。