犬の環軸椎不安定症とは
環椎と軸椎の間のつながりが不安定になり、脊髄の圧迫を引き起こす疾患です。
頸の骨である環椎(第一頸椎)と軸椎(第二頸椎)からなる関節を環軸関節と呼びます。頭部の回転運動を担っており、頸部の滑らかな動きを可能にしている関節と言えます。
環椎軸椎不安定症とは、この構造の不安定化により脊髄の損傷が起きる疾患です。脊髄の損傷に伴い、軽度の場合は頸部の疼痛やこわばり、起立姿勢や歩行の異常が認められます。重度の場合は四肢の麻痺、排尿障害、呼吸異常などさまざまな症状が認められます。
犬の環軸椎不安定症の症状とは
頸部痛、四肢麻痺などが認められます。
軽度の場合は、頸部痛による頸部のこわばりが認められます。頸部を動かすことなく上目遣いをする、頸部を伸展することを好み屈曲することを嫌がる、などの行動が見られます。
重度の場合は、歩行困難、四肢麻痺、排尿障害が認められます。さらに脊髄圧が高まってしまいますと、呼吸筋が麻痺して呼吸停止に至る場合があります。
犬の環軸椎不安定症の原因とは
先天性
トイ犬種では、骨端成長板の閉鎖異常により歯突起の発育障害が起こりやすく、歯突起成長板の早期癒合、部分的癒合、癒合不全が歯突起の変位、低形成および無形成の原因になるとされています。
歯突起は環軸関節の安定性に重要な役割を果たしているため、歯突起の欠損や奇形、靱帯の付着のない場合、背側環軸靱帯が頭部の屈曲に関する全ての外力に耐えなくてはならないため、脆弱化から断裂を引き起こし、環椎軸椎不安定症が発症します。
先天性の原因によって発症した場合、一般的には臨床症状は軽度とされており、慢性的に神経症状が進行していくとされています。無症状の先天性奇形を持つ症例においては、外傷が原因で臨床症状を引き起こす可能性があります。臨床症状は頸部痛から始まり、四肢麻痺に進行することがあります。
外傷性
頭部に腹側方向への力が加わってしまいますと、環椎後頭関節が限界まで屈曲し、環軸関節に力が加わるようになります。さらに頭部が屈曲した場合に、背側環軸靱帯、翼状靱帯、尖靱帯、横靱帯が伸展し、場合によっては断裂し、歯突起、軸椎の棘突起の背側あるいは頭側の骨折など様々な傷害が合併して環椎軸椎不安定症が発症します。
無傷の歯突起を持つ犬の軸椎の骨折では、歯突起と体部の結合部位において軸椎の骨折を引き起こすことがあります。無傷の歯突起を持つ動物における脱臼の場合、重度の脊髄圧迫が生じるため、呼吸停止に至る可能性があります。
犬の環軸椎不安定症の好発品種について
以下の犬種で好発がみられます。
- チワワ
- トイプードル
- ポメラニアン
- ミニチュアダックスフント
- ヨークシャーテリア
環軸椎不安定症は若齢の小型犬種に多く認められますが、特にチワワ、トイプードル、ミニチュアダックスフンド、ポメラニアン、ヨークシャーテリアなどが好発犬種とされています。
犬の環軸椎不安定症の予防方法について
先天性の場合は発症の予防は難しいと言えます。外傷性の場合は事故を防ぎましょう。
先天性の場合は発症の予防は難しいと言えます。環椎軸椎不安定症罹患動物の繁殖を制限することで、環椎軸椎不安定症の増加をコントロールすることができます。犬の遺伝性疾患は罹患犬の同系交配を避けることで罹患する犬の増加を抑制することが可能となり、継続して遺伝性疾患の繁殖制限をすることが全ての遺伝性疾患の根本治療につながると言えます。
外傷による頚部脊椎の靱帯の損傷や骨折により環軸椎不安定症が起こることもあります。外傷の原因として、交通事故、落下事故、他の犬との喧嘩などが挙げられますが、これらのような事故を防ぐことが発症の予防につながると言えます。
犬の環軸椎不安定症の治療方法について
内科療法
ケージレスト(絶対安静)を行い、NSAIDsなどの鎮痛剤の投与とギプスの装着を併用します。一時的に症状は緩和しますが、完治は期待できないとされています。
外科療法
背側固定術と腹側固定術が行なわれてきましたが、現在は腹側固定術が主流とされています。ピン、スクリュー、外科用の骨セメント、などを使用し環軸関節の固定を行います。脊髄の圧迫を取り除き、環軸関節が術後固定されることを目指して行われます。
脊髄や神経の損傷が少ないほど、経過は良好になる傾向があります。