犬のセロイドリポフスチン症とは
ライソゾーム病の1つとされています。
細胞小器官の1つである水解小体(ライソゾーム)には60種余りの酸性水解酵素が存在し、これらの酵素群が細胞内物質を分解する役割を担っています。これらのライソゾーム酵素や触媒反応にあずかる活性化蛋白などの遺伝的異常により、当該酵素反応における基質などが蓄積し、細胞障害ひいては臓器障害などを引き起こす全身病がライソゾーム病(ライソゾーム蓄積病)です。現在、犬のライソゾーム病は約30疾患の報告があります。ライソゾーム病の多くは進行性の神経変性性疾患であるため、発症年齢や進行速度には疾患ごとの違いがあるものの、予後不良である場合がほとんどですが、なかには神経症状を発現しないため比較的長期に維持管理できる疾患もあります。
セロイドリポフスチン症は、致死性の遺伝子病であり、多くの場合は3歳までに死亡します。
犬のセロイドリポフスチン症の症状とは
神経障害や視覚障害を引き起こします。
多くのライソゾーム病は神経変性疾患であり、中枢神経細胞や網膜細胞が比較的影響を受けやすいとされています。
セロイドリポフスチン症の臨床症状としましては、運動失調、ふらつき、振戦(不随意でリズミカルな震え)、測定過大(動作が大きいなどの異常)、驚愕反応(刺激に対して過剰に反応する)、視覚障害、行動異常、痙攣、麻痺などがあげられます。
1~2歳で発症し、徐々に進行していきます。多くの場合は3歳までに死亡します。
犬のセロイドリポフスチン症の原因とは
セロイドリポフスチン症は遺伝性の疾患です。
ライソゾーム病のほとんどは単一遺伝子の異常に基づくメンデル遺伝病であり、常染色体性劣性遺伝形式で伝達されます。
セロイドリポフスチン症では、遺伝子変異によってpalmitoyl protein thioesterase、カプテシンDと呼ばれる酵素・蛋白が欠損し、スフィンゴ脂質活性化蛋白A・Dと呼ばれる物質がリソソーム内に蓄積してしまいます。
犬のセロイドリポフスチン症の好発品種について
以下の犬種で好発がみられます。
- イングリッシュセッター
- チワワ
- ボーダーコリー
- ミニチュアダックスフント
ボーダーコリーで見られる遺伝性の疾患です。イングリッシュセッター、チワワ、ミニチュアダックスフンドなどでも発症の報告があります。
犬のセロイドリポフスチン症の予防方法について
発症の予防方法はありません。
セロイドリポフスチン症の発症の予防方法はありません。しかし、罹患動物の繁殖を制限することでセロイドリポフスチン症罹患犬の増加をコントロールすることができます。犬の遺伝性疾患は罹患犬の同系交配を避けることで罹患する犬の増加を抑制することが可能となり、継続して遺伝性疾患の繁殖制限をすることが全ての遺伝性疾患の根本治療につながると言えます。
犬のセロイドリポフスチン症の治療方法について
効果的な治療方法はありません。
ライソゾーム病の動物症例のほとんどは予後不良であり、セロイドリポフスチン症も予後不良となります。適応できる治療方法が無く、安楽死の適応についても早期から考慮しなければなりません。介護する場合には、褥瘡予防、感染治療、褥瘡コントロールなどがQOL維持に役立つと言えます。
一方、人医学領域では遺伝子治療、基質減少療法(合成酵素阻害薬)、シャペロン療法、酵素補充療法などが研究されて一部では実用化されています。人医学領域では先天代謝異常症の薬物療法の研究は日々進んでいるため、今後動物症例にも応用可能な薬剤が出てくる可能性もあります。
予後
セロイドリポフスチン症は、進行性の神経変性性疾患です。他のライソゾーム病と発症年齢や進行速度に違いはあるものの、すべて予後不良であると言えます。
セロイドリポフスチン症は遺伝子型検査によりキャリアを同定できるため、事前に繁殖ラインからキャリアを外すことで国内でも効果的な予防が可能となり、症例の出現はかなり減少しています。