犬の殺鼠剤中毒とは
抗凝固性殺鼠剤の誤食や盗食によって引き起こされます。
殺鼠剤にはクマリン系化合物に代表される抗凝固剤を主成分にするものと、リン化亜鉛やシリロシドなど急性毒剤を主成分とするもの、さらには両者を組み合わせたタイプがあります。犬の殺鼠剤中毒は、そのほとんどが抗凝固性殺鼠剤の誤食や盗食によって引き起こされます。
犬の殺鼠剤中毒の症状とは
出血傾向が見られます。
抗凝固性殺鼠剤中毒において、軽度あるいは初期の症状として共通に見られるのは、元気消失や挙動不審および食欲減退であり、出血傾向が発現すると歯肉出血、皮下出血、関節腔出血(跛行)、時には肺出血、消化管内出血、胸腔内・心膜腔内・腹腔内の出血、あるいは脳出血を認めることもあります。肺出血や胸腔内出血では呼吸器症状、脳内出血では神経症状、心膜腔出血では心タンポナーデによる閉そく性ショックが認められることがあります。出血が持続すると貧血が認められ、重症例では出血性ショックやDICを併発することがあります。
すでに出血傾向が認められる犬ではプロトロンビン時間と活性化部分トロンボプラスチン時間の著しい延長が認められます。出血傾向や凝固時間の延長は、抗凝固性殺鼠剤摂取からの時間経過が認められないことがあります。慢性例では、再生性貧血が認められます。
犬の殺鼠剤中毒の原因とは
ビタミンKの利用障害を起こします。
抗凝固性殺鼠剤は、肝臓におけるビタミンK還元サイクルで必要な酵素を抑制し、ビタミンKの利用障害を起こします。ビタミンKの利用障害によりビタミンK依存性凝固因子(第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子)の合成障害と、内因性凝固阻止物質となるPIVKAの出現により遅延性に出血傾向を起こします。慢性例では出血に起因する貧血が起こります。
犬における抗凝固性殺鼠剤の中毒量は、殺鼠剤の成分や、1回摂取と反復摂取により異なります。第1世代の抗凝固性殺鼠剤にはクマリン系剤のワルファリン製剤、クマテトラリル製剤、インダンジオン系剤のクロロファシノン製剤、ダイファシノン製剤などがあります。犬における中毒量は、1回摂取の場合はワルファリン20~50mg/kg、クロロファシノン3mg/kg、ダイファシノン3~7.5mg/kgで、反復摂取の場合は、ワルファリンが1~5mg/kg、5~15日とされています。
半減期の長い抗凝固性殺鼠剤では、食物連鎖を通じた間接的な影響にも注意が必要であり、これらの殺鼠剤で中毒死したネスミを、犬が多量に摂取することで中毒を起こす危険があります。
犬の殺鼠剤中毒の好発品種について
全犬種で好発します。
殺鼠剤中毒の発症には、年齢、性別、犬種差は無いとされています。
犬の殺鼠剤中毒の予防方法について
殺鼠剤を食べさせないようにしましょう。
犬は好奇心が強く、中毒物質なのかを判断できないため、飼育環境中に犬が届く場所に殺鼠剤を置かないようにしましょう。
犬の殺鼠剤中毒の治療方法について
支持療法と特異的拮抗薬の投与をおこないます。
殺鼠剤の誤食が明らかだが臨床症状を伴わない場合には、予防的にビタミンK製剤を投与します。その際、誤食から60分以内であれば、催吐処置をおこなうことがあります。胃腸管の解毒に活性炭や下剤の投与が有効との報告もあります。
すでに中毒症状を発症し、重度の貧血、低血液量性ショック、肺や中枢神経系への出血など、生命に危険が見られる場合には、新鮮全血を輸血します。また、新鮮凍結血漿の投与は、出血傾向の改善に有効とされています。胸腔内出血が重度で、肺や心臓の圧迫が認められる場合には、胸腔穿刺が必要となることもあります。
症状が軽度の場合や、輸血により症状の改善傾向が確認されれば、ビタミンK製剤の投与を継続し、安静に保つとともに、必要により対症療法をおこないます。
予後
抗凝固性殺鼠剤による中毒の予後は、出血の部位や程度、合併症の有無により左右されます。軽症例および治療に対する反応がよければ予後は良好ですが、ショック、肺出血、脳出血、DIC合併例などでは死亡することもあります。