猫の膵外分泌不全とは
膵臓から出る消化に必要な酵素がうまく分泌されない病気です。
膵臓には大きく二つの役割があります。
一つは内分泌器官としてインスリンなどのホルモンを分泌する役割、もう一つは外分泌器官として消化管内に消化に必要な酵素を分泌する役割です。
膵外分泌不全とは、膵臓の外分泌器官としての働きに支障が生じ、消化酵素がうまく分泌されなくなる病気です。
膵臓から分泌される消化酵素は炭水化物やタンパク質・脂肪の分解に必要なため、膵外分泌不全が起こるとその消化・吸収がうまくできず、体は徐々に痩せて衰弱していきます。
膵外分泌不全のほとんどは猫で多い慢性膵炎の結果として起こり、他の膵臓疾患(糖尿病)や炎症性腸疾患、胆管肝炎などを併発しているケースも多くみられます。
それぞれの病態に合わせて、膵外分泌不全と併発疾患に対する治療が必要です。
猫の膵外分泌不全の症状とは
小腸性の下痢と重度の削痩が見られます。
膵外分泌不全では消化酵素の不足によって炭水化物やタンパク質、脂肪の消化吸収不良が起こり、水溶性の下痢と著しい体重低下がみられます。
主に見られる症状は以下の通りです。
・食欲があり、食べているのに痩せる
・毛ヅヤが悪くなる
・便の臭いが変わる
・便を食べようとする
・油っぽい便をする
・水溶性の下痢
・重度の削痩
・出血傾向(血液の凝固異常)
腸ではビタミン類の吸収も行っているため、特にビタミンB12(コバラミン)欠乏症の発生頻度が高くなっています。
また、ビタミンKの吸収不良によって肝臓で合成されるビタミンK依存性の凝固因子の不足が起こり、血液凝固異常が見られる場合もあります。
糖尿病を併発している場合には特徴的な症状である多飲多尿が見られます。
猫の膵外分泌不全の原因とは
慢性膵炎などから起こります。
猫では膵炎を発症することが多く、顕著な症状があまり見られない慢性膵炎症例も多くいるといわれていますが、猫の膵外分泌不全の多くは慢性膵炎の結果として膵臓の分泌細胞がダメージを受けることによっておこるとされています。
そのため、同じ膵臓の疾患である糖尿病や、膵臓周辺に位置する臓器の炎症性疾患なども併発していることが多く、炎症性腸疾患や胆管肝炎なども併発していることがあります。
膵臓の萎縮が原因の場合もあります。
膵臓の萎縮が原因となる場合もありますが、犬に比べるとその頻度は猫では稀とされています。
なぜ膵臓の萎縮が起こるのかはわかっていません。
寄生虫が原因となることもあります。
膵臓に特異的に寄生する膵吸虫が原因となることもありますが、日本ではあまり見られません。
猫の膵外分泌不全の好発品種について
好発する品種はありません。
特にありません。
発症年齢の範囲は広く、若い猫から高齢猫まで発症する可能性がありますが、5歳以下での発症が多くみられます。
猫の膵外分泌不全の予防方法について
慢性膵炎を早期に治療することが予防策になります。
膵外分泌不全の原因として最も多いのが慢性膵炎によるものです。
猫は膵炎が多い一方、あまり顕著な症状を示さずに見逃されていることも多い動物です。
膵炎の主な症状は吐き気や腹痛、下痢などですが、毛玉を吐くことがある猫では吐いてもあまり深刻にとらえられないことが多いため、知らず知らずのうちに膵炎が進行してしまうことがあるのです。
猫が吐く頻度が何となく多いと感じた場合には、一度病院で健康診断を受け、体の状態をチェックして膵炎の早期発見に努めましょう。
猫の膵外分泌不全の治療方法について
消化酵素の補充を行います。
膵外分泌不全では膵臓から消化に必要な酵素が分泌されなくなってしまいます。
その為、不足している消化酵素を補ってあげることが治療の主軸となります。
消化酵素は食事と一緒に投与しますが、従来使用されてきたパンクレアチンという消化酵素はアルカリ性の環境下で消化活性を発揮するため、経口投与すると胃酸の影響を受けて効果が十分に出ないことがあります。
その為、抗ヒスタミン剤などを併用して胃酸の分泌を抑えるという方法がとられていましたが、新しい消化酵素剤は酸性の環境下でも活性をもつものが増え、胃内・腸内の両方で酵素活性を示すものが主流になってきています。
食事の選択も重要です。
膵外分泌不全の猫は消化・吸収がうまくできない状態になっているため、食事を高消化性のフードに変更することで効率よく必要カロリーと栄養分を摂取させてあげることが重要です。
猫は炭水化物の消化・吸収があまり得意ではないため炭水化物を過剰に投与することは避けた方が良いとされています。
高消化性の高脂肪フードを給与すると脂肪・タンパク質・炭水化物のいずれも吸収がよく、栄養状態の改善が見られ治療に有効とされています。
このような食事は市販食では選択が難しいため、病院で適した療法食を紹介してもらうと良いでしょう。
ビタミンの補充を行います。
膵外分泌不全の猫は、腸管からの吸収される脂溶性ビタミンなどの栄養成分も不足しがちです。
出血傾向や貧血、体の痩せ具合がなかなか改善しない場合は、必要に応じてコバラミンやビタミンK、ビタミンEの補充を行います。
ビタミンの投与は長期にわたって必要になることがあります。
併発疾患がある場合は同時に治療が必要です。
糖尿病を併発している場合にはインスリン投与などによる治療が必要です。
また、消化酵素などを投与しても下痢症状が改善しない場合には腸内で細菌が異常増殖してしまっている場合もあるため、抗生物質の投与を試験的に行うことがあります。