猫の巨大食道症とは
食道が弛緩して食べ物の飲み込みがうまくいかなくなる病気です。
動物が物を食べると、口から食道を通り胃へと食べ物が運ばれます。
食道は口から胃までをつなぐ管ですが、ただの管ではなく筋肉の力によって蠕動運動を行い、食物を速やかに胃の中に送り込む働きをしています。
巨大食道症とは、何らかの原因により食道の筋肉の働きに障害が生じ、食道が弛緩した状態になる病気です。
犬や猫は四つ足で立っているため食道は地面と水平に近い角度で存在しており、弛緩した食道に食物が流れ込むと重力で下方に垂れ下がってしまい、うまく胃まで食物を送ることができません。
そのため、動いた拍子や頭の位置が下がった際に食道内から食物が逆流して吐出してしまうのです。
巨大食道症を起こすと摂食障害から痩せてしまうだけでなく、誤嚥による肺炎を起こすことがあり、食事管理には注意が必要です。
犬に比べ、猫での発症は稀であるとされています。
猫の巨大食道症の症状とは
吐出が頻繁に認められます。
巨大食道症では、食道の筋肉が弛緩して食道の蠕動運動がなくなるため、食べた物が食道内に停滞してしまい、体を動かした拍子などに吐き戻してしまう「吐出」が特徴的に起こります。
「嘔吐」は一度胃に入った食物が吐き戻されるのに対し、「吐出」は胃に入る前に吐き戻される状態を指します。
長期にわたって吐出が認められる症例では食べて胃まで到達する食物が少なく、栄養不良や削痩が見られ、元気がなくなります。
誤嚥性肺炎を起こすことが多くなります。
巨大食道症の動物は食道に停滞した食物を誤嚥してしまうことにより誤嚥性肺炎も高率に発症します。
誤嚥性肺炎となった場合には、咳、呼吸が早い、呼吸困難、発熱などが見られることがあり、全身状態はさらに悪くなります。
猫の巨大食道症の原因とは
先天性に起こる場合があります。
多くはありませんが先天性に巨大食道症が起こる場合があり、シャムでの発症が多いとされています。
多くは何らかの疾患に続発して起こります。
猫の巨大食道症の多くは食道の疾患、あるいは神経や筋肉の働きに障害を生じる他の基礎疾患が背景にあって起こります(後天性二次性巨大食道症)。
原因となりうる疾患には、以下のようなものがあります。
・消化管疾患:重度の食道炎、裂孔ヘルニア、食道狭窄、食道アカラシア様疾患、慢性偽性腸閉塞症など
・上部気道疾患:鼻咽頭ポリープ、喉頭腫瘍
・神経筋接合部疾患:重症筋無力症、鉛中毒、ボツリヌス中毒
・末梢神経筋疾患:自律神経失調症、多発性筋炎、多発性ミオパチー、多発性神経根神経炎
・延髄疾患:腫瘍、梗塞
原因不明のものもあります。
上記の2つの原因が除外された場合、原因不明の「後天性特発性巨大食道症」と診断されますが、猫の後天性特発性巨大食道症は稀です。
猫の巨大食道症の好発品種について
以下の猫種で好発がみられます。
- シャム
- スフィンクス
- デボンレックス
シャムでは先天性巨大食道症の発生が多いとされています。
デボンレックスやスフィンクスでは先天性ミオパチーによる巨大食道症が起こることがあります。
猫の巨大食道症の予防方法について
予防は困難です。
巨大食道症の原因となる疾患にはそれぞれ効果的な予防方法はありません。
そのため、巨大食道症の発症を予防することは困難です。
早期発見し、早期治療を始め、適切な管理を継続することが重要です。
猫の巨大食道症の治療方法について
基礎疾患の治療を行います。
後天性二次性巨大食道症の場合、巨大食道を起こす基礎疾患を突き止め、それに対する治療を行うことが必要です。
そのため、診断には血液検査やレントゲン造影検査、必要に応じて内視鏡検査やホルモン検査などを行います。
食事を立位で与えます。
巨大食道症の猫では食事を高いところに置き、立位で食事させるようにします。
立たせることで食道が水平から角度のついた状態になり、重力によって食べ物が胃の中に落ちやすくなります。
食事内容も高栄養のフードなどに変更し、食後も15分から30分ほどは立位のまま維持することで食事の逆流を防止します。
投薬によって食道の蠕動運動を刺激します。
猫の食道は犬と異なり、後ろの1/3ほどは平滑筋という筋肉で構成されています。
そのため、平滑筋運動改善薬を投与することで症状が改善する可能性があります。
栄養状態が改善しない場合には胃瘻チューブを設置します。
立位の食事や投薬を行っても食事を吐出してしまい栄養状態が改善しない場合には、胃に胃瘻チューブを設置し、食道を介さずに流動食などを胃に入れる治療を行います。
胃瘻チューブを設置するためには麻酔をかけ、内視鏡を使用した処置が必要です。
誤嚥性肺炎を起こしている場合には抗菌薬を投与します。
巨大食道症の動物では逆流した食物を誤嚥してしまうことが多く、高率に誤嚥性肺炎を起こしてしまいます。
誤嚥性肺炎を起こして呼吸状態が悪い場合には抗菌剤を投与し、必要に応じて酸素室で状態が安定するまで治療を行います。