猫の歯の破折とは
歯が欠けたり折れたりした状態です。
歯の先端が欠けたり歯が縦割れを起こしている状態を歯の破折といいます。
猫の歯は基本的にヒトの歯と同じ構造をしており、表面からエナメル質、象牙質、歯髄腔からなり、歯髄腔には神経や血管が通っています。
歯根部ではエナメル質がセメント質に置き換わり、歯肉で覆われた歯根部は土台となる歯槽骨に支えられ、歯と歯槽骨の間には歯周靱帯(歯根膜)が存在します。
ヒトの歯に比べるとエナメル質の厚さが薄いという点が異なります。
破折によって歯髄が露出した状態になると、そこから感染が起こり、歯根膿瘍や炎症による腫れ、痛みが生じ、将来的に歯を失うことにつながります。
猫では犬ほど多くは起こりませんが、交通事故や高所からの落下時に犬歯などが折れてしまうことがあります。
猫の歯の破折の症状とは
破折の程度によって症状が異なります。
破折が生じていても、歯の髄が露出(露髄)せず歯のエナメル質の部分だけが欠けた場合など、軽度であれば何も症状を示さずに気づかず過ごしている場合もあります。
しかし歯の先端が欠けて鋭く尖った状態になると、口唇や歯茎を傷つけたり、じゃれて飼い主さんの手を咬んだ時に思わぬ怪我をすることにつながります。
犬歯の破折は、犬歯の長さや形の違いが見えやすいため気づきやすいですが、奥歯に起こった軽度の破折の場合は普段目にすることがなく、症状も出ないことがあるため、歯科処置の際に偶発的に見つかる場合もあります。
破折が歯髄に達するような深さまで起こっている場合や、歯が縦に割れている場合には、歯の変色や歯髄から感染を起こしたことによる炎症などが生じ、痛みや腫れ、出血(涎に血が混ざる)、首を傾けてご飯を食べる、口を気にする様子、流涎などがみられることがあります。
痛みが強くなると食欲が低下し、元気がなくなってしまいます。
感染によって歯根膿瘍が形成されると、頬が腫れたり、その一部が破れて排膿するようになる場合もあります。
上顎の犬歯の歯根膿瘍では、鼻腔に開通して鼻から排膿したりくしゃみや鼻水が頻繁にみられるケースもあります。
猫の歯の破折の原因とは
歯に強い外力がかかることによっておこります。
破折は歯をどこかにぶつけたり、硬いものをかじったときに起こることがあります。
犬ではひづめなどの硬いおやつを奥歯でかじっている間に生じやすいトラブルですが、猫の場合は高所から落下した際や交通事故にあったとき、または激しく遊んでいる時や猫同士のケンカ中に硬いコンクリートや石にぶつけて起こることがほとんどです。
病的に起こるものもまれにあります。
猫で時々見られることがある破歯細胞性吸収性病巣という疾患では、歯が歯茎との境界部付近で溶けて吸収されてしまいます。
付け根が溶けて細くなっている歯で固いものを咬んだ際に、弱くなっている歯冠部が割れてしまうこともあります。
猫の歯の破折の好発品種について
好発する品種はありません。
破折はどんな猫にでも起こる可能性があり、特定の品種で起こりやすいということはありません。
猫の歯の破折の予防方法について
交通事故や落下事故を予防しましょう。
交通事故や高所からの落下、あるいは猫同士のケンカによって、特に犬歯の破折がよくみられます。
これらのほとんどは屋外で起こるため、できるだけ室内飼育を心掛け、このような機会を減らすことが予防方法の一つになると考えられます。
硬すぎるおやつやおもちゃを与えないようにしましょう。
猫では稀ですが、硬いおやつやおもちゃをかじって遊んでいる時に歯の破折が起こることがあります。
おやつやおもちゃは猫用のものを与えるようにし、大型犬用の硬いおやつなどは与えないようにしましょう。
猫の歯の破折の治療方法について
抜歯または修復を行います。
破折が起こった時の治療方法は大きく分けて2通りあり、抜歯をするか、修復する治療を行うかです。
抜歯を行うかどうかは、露髄をしているかどうか、露髄している場合はその経過時間とレントゲン検査で感染の可能性を確認して判断します。
・間接歯髄覆罩(ふくとう)法
破折が起こっていても歯冠部のエナメル質だけがわずかに欠けた程度であれば、損傷した部分をドリルで削ってコンポジットレジンで埋め、滑らかに研磨して修復できます。
・直接歯髄覆罩法
歯の中にある歯髄に到達している場合、損傷から1~3日以内(年齢による)で重度の感染がなければ、損傷部分をドリルで削ってトリミングした後、コンポジットレジンで露髄した部分を覆い修復します。
・抜髄根幹治療
歯髄に感染が起こっている場合や露髄してからの経過時間が長い場合に、歯髄を取り除き、代わりに抗菌効果のある充填剤をつめて表面をコンポジットレジンで覆い修復する方法です。
・抜歯
歯髄から歯根まで感染が起こり歯根膿瘍を形成している場合や、他の歯や歯周組織への悪影響が考慮される場合には抜歯を行い、感染を起こした歯周組織(歯根膜や歯槽骨など)をきれいに除去してトリミングします。
これらの治療にはいずれの場合も麻酔下での処置が必要となります。
また歯の修復を行う治療はすべての病院で対応しているわけではなく、特に歯科用のレントゲンやレジン充填、抜髄を行う治療は歯科に力を入れている施設に限られます。
また、治療が可能な施設であっても、破折してからの時間経過が長いと感染が重度になり、歯を温存できない場合も多々ありますので、破折が起こった場合にはできるだけ早く対処してあげるようにしましょう。