猫の門脈体循環シャントとは
門脈が肝臓に入らずに体循環につながってしまう病気です。
門脈とは、肝臓に入る太い血管の一つで、胃腸で消化・吸収された栄養分や薬物などを含む血液を肝臓に運ぶ重要な血管です。
運ばれた血液中の栄養分や薬物は、肝臓内で代謝・貯蔵されたり解毒されたりすることで体に害のない状態で有効に活用されるようになり、有毒なものや不要なものは体外に排泄されるための処理を受けます。
門脈体循環シャントとは、本来肝臓を介してから全身に送られるべき門脈からの血液が、他の短絡(シャント)血管を介して、肝臓を通らずに全身循環に入ってしまう病気です。
シャント血管が存在することによって、肝臓で代謝・貯蔵されるべき栄養分がうまく活用されず、また体にとって有毒な成分が解毒などの処理を受けないまま全身を巡ることになり、発育不良や体調不良を起こしてしまいます。
猫の門脈体循環シャントの症状とは
発育不良や神経症状が見られます。
門脈を通って肝臓に入るべき血液が肝臓に入らないことによって、体には様々な悪影響が現れます。
以下に代表的な症状を示します。
・発育不良(兄弟猫に比べて体が小さい)
・元気がない
・食欲不振
・神経症状
・嘔吐
・下痢
・涎を垂らす
・膀胱結石による血尿、頻尿
・腹水
生まれつきの(先天性)門脈体循環シャントでは、食事を摂ってもその栄養が肝臓で代謝を受けることができず有効に使用されないため、他の猫に比べると発達が悪く、体が小さく不活発な傾向があります。
また、特徴的な症状として神経症状が挙げられ、特に食後に発現する又は悪化する意識障害や沈鬱、間欠的な盲目がみられます。
これは肝臓で代謝・解毒されるべきアンモニアをはじめとする有害物質が、解毒されずに全身を巡ることによっておこります(肝性脳症)。
また、糖の代謝もうまくできないため、低血糖による痙攣が起こる場合もあります。
代謝異常から膀胱結石(尿酸アンモニウム結晶・結石)などもできやすく、結石による刺激で血尿や頻尿などの膀胱炎症状も見られます。
後天性のものでは、門脈に血液が流れにくくなることによって腸間膜などの血流がうっ滞しがちになり、腹水が溜まることがあります。
診断は血液検査やレントゲン検査、超音波検査、造影CT検査などで行いますが、レントゲン検査では肝臓の発達が悪いために小肝症がみられます。
猫の門脈体循環シャントの原因とは
先天性の血管の奇形によっておこります。
門脈体循環シャントの多くは先天性の血管の奇形によっておこります。
門脈は本来肝臓に流入してから全身の血流につながるのですが、門脈シャントの猫では生まれつき後大静脈や奇静脈などといった他の太い血管に短絡してつながってしまっているために本来の門脈の血流が乏しくなり、肝臓に十分な栄養が送られず肝臓が小さくなり、体全体としても発育不良などが起こります。
後天性に発生することもあります。
後天性に発生する門脈体循環シャントは、肝臓の疾患などが原因で門脈が高血圧になり、門脈に血液が流れにくくなることで起こります。
原因となる肝臓の病気には、肝硬変、肝線維症、慢性肝炎、腫瘍などが挙げられます。
後天性の門脈体循環シャントは先天性のものと異なり、細いシャント血管が多数形成されることによっておこるため、超音波検査などでの診断は難しく、それまでの病歴と特徴的な症状、造影CT検査などによって診断されます。
猫の門脈体循環シャントの好発品種について
以下の猫種で好発がみられます。
- アメリカンショートヘア
- シャム
- バーミーズ
- ヒマラヤン
- ペルシャ
門脈体循環シャントの発生自体もともと犬に比べても稀ですが、上記の品種は猫の中では発生頻度が高いとされています。
猫の門脈体循環シャントの予防方法について
先天性の場合は予防できません。
先天性に起こる門脈体循環シャントは予防することはできません。
後天性の場合は原因疾患をしっかり治療することが予防になります。
後天性の門脈シャントは他の肝臓疾患が悪化した時に門脈への血流が制限されることによっておこります。
そのため、原因疾患をしっかり治療しておくことが門脈シャントへの発展を防ぐ予防方法となります。
猫の門脈体循環シャントの治療方法について
先天性の場合は手術が必要です。
先天性門脈シャントの場合は、シャント血管を手術によって閉塞させることが根本的な治療になります。
超音波検査である程度状況を把握しておき、麻酔をかけた状態で造影CT検査などを行い、シャント血管がどこにあるのかを確認したら、シャント血管を結紮したり徐々に血管を閉鎖させる医療器具などを装着して閉鎖させます。
1回の手術で完了する場合もありますが、血管を縛って閉塞させる際の血圧の急激な変化に体が対応できないこともあるため、そのような場合には部分結紮を行って数か月後に再度血管を閉塞させる、という段階的な方法をとる場合もあります。
手術後、合併症などが起こらなければ予後は良好です。
後天性の場合は手術は行いません。
後天性の門脈シャントの場合は、外科手術は不適応です。
原発疾患である肝疾患を治療することにより症状を改善させ、良好にコントロールできるかどうかがポイントになります。
原発疾患の治療とともに対症療法として腹水や肝性脳症への治療を行います。
治療としては腹水を抜去したり、腹水の貯留を防ぐための利尿剤を投与する、また血液中のアンモニアが高くなることを緩和するために、食事療法、ラクツロースの投与、アンモニアや他の毒素を産生する細菌数を減少させる抗菌薬の投与などを必要に応じて選択します。