猫の耳の腫瘍とは
耳介や耳道内にしこりができる病気です。
猫の耳には、頻度はそれほど高くありませんが、いくつかの種類の腫瘍の発生がみられます。
耳介(耳たぶ)にできる腫瘍は比較的発見が容易ですが、耳道内(耳の穴の中)や中耳(鼓室胞)にできる腫瘍は発見が遅れることもあるため、注意が必要です。
腫瘍の種類としては、耳介の扁平上皮癌や肥満細胞腫、耳道内では耳垢腺腫、耳垢腺癌、耳垢腺嚢胞、炎症性ポリープなどが挙げられます。
猫の耳の腫瘍は、80%以上が悪性と言われています。また、良性の腫瘍であっても耳道を占拠すると慢性的な外耳炎や中耳炎、内耳炎の原因となるため、外科的切除が必要になることがあります。
猫の耳の腫瘍の症状とは
耳介にできる腫瘍には扁平上皮癌や肥満細胞腫が多くみられます。
症状は腫瘍によってそれぞれ異なります。
耳介(耳たぶ)にできる扁平上皮癌では、耳の先のほうに病変を作ることが多く、初めは小さな隆起や皮膚炎のような病変を作ります。
やがて表面が潰瘍化すると瘡蓋ができ、小さな傷か軽い皮膚炎と思って放置していると、次第に進行して少しずつ範囲を広げ、潰瘍化した部分から出血し、皮膚が削れたようにくずれていきます。
時には耳介から顔面にまで広がることもあります。
肥満細胞腫も最初は小さな隆起を作ります。
炎症細胞の一つである肥満細胞のしこりのため、気にして触ると一過性に腫れて大きくなることがあります。
扁平上皮癌の様に表面が脆く崩れるようなことはあまりありませんが、掻いて傷つけてしまうとその部分の治りが悪く、しこり自体も腫れて大きくなります。
耳道内の腫瘍では外耳炎に似た症状が見られます。
耳道(耳の中)にできる腫瘤には良性の耳垢腺腫と悪性の耳垢腺癌、耳垢腺嚢胞、炎症性ポリープなどがあります。
耳の中の皮膚には皮脂腺やアポクリン腺(耳垢腺)という分泌腺がありますが、その耳垢腺が腫瘍化したものが耳垢腺腫と耳垢腺癌です。
見た目はどちらも似ており、耳道内に小さな隆起上の腫瘤をたくさん形成して耳道を狭窄させたり閉塞させたりするため、耳が汚れやすくなり、外耳炎や中耳炎、内耳炎の原因になります。
症状は主に外耳炎症状と同様で、耳を痒がる、耳が汚れやすい、耳だれが出る、耳から悪臭がする、頭を振る、といったものです。
中には腫瘍の表面が潰瘍化して出血するものもあります。
腺癌の場合、周囲の組織に浸潤して大きくなるため、外耳から中耳に腫瘍が浸潤すると中耳炎症状を示し、内耳まで侵入すると斜頸や眼振などの神経症状などを示します。
しかし、外耳炎でも重度になると中耳炎・内耳炎に発展することがあるため、症状だけでは区別はつきません。
耳垢腺嚢胞は耳垢腺の一部に袋状の嚢胞ができ、それが膨らむことによって耳道を狭窄させます。
また、炎症性ポリープでは、皮膚表面に突起状の腫瘤ができます。
どちらも耳道内に占拠することで外耳炎を起こし、耳の痒みや汚れなどの症状を示します。
猫の耳の腫瘍の原因とは
原因は不明です。
腫瘍ができる原因は不明です。
加齢に伴って腫瘍の発生は増えますが、その他の原因としては紫外線、化学物質への暴露、慢性的な炎症刺激などが関与している可能性があります。
紫外線の刺激が一因となることがあります。
扁平上皮癌は紫外線の影響によっておこりやすいことが知られており、特に白い猫では紫外線から体を守るメラニン色素が少ないために、扁平上皮癌の発生率が高い傾向があります。
長期の炎症によっておこるものもあります。
また、外耳炎が慢性化しているような症例では耳道内に腫瘤ができやすい傾向があります。
炎症刺激が長期にわたることも腫瘍の形成に関連していると考えられます。
猫の耳の腫瘍の好発品種について
好発する品種はありません。
特にありません。
扁平上皮癌に関しては白い猫で起こりやすいという特徴があります。
猫の耳の腫瘍の予防方法について
耳のケアを定期的に行いましょう。
腫瘍の中には慢性的な炎症が引き金となって起こるものがあるため、定期的に耳のケアを行い、外耳炎などを放置しないことが大切です。
毎日でなくとも、数日に一回は耳をチェックし、汚れがあればイヤークリーナーをしみ込ませたコットンでやさしく拭いてあげましょう。
耳を見る習慣ができていれば異常があった時に気づきやすいため、早期発見にもつながります。
紫外線対策も予防策の一つになります。
白い猫で起こる扁平上皮癌は、日光(紫外線)に当たると起こりやすいとされています。
紫外線や化学物質(除草剤など)への暴露を減らすという意味合いで、室内飼いを徹底することも予防策の一つです。
猫の耳の腫瘍の治療方法について
外科手術が第一選択です。
治療は基本的には外科手術になります。
外耳炎の症状を抑える治療を行っても、腫瘤が耳道内にあるうちはいつまでたっても良くなりません。
耳介にできた皮膚腫瘍に関しては、腫瘍を含めた耳介切除が行われます。
耳の扁平上皮癌は転移することはあまり多くありませんが、局所再発は起こるため、多くの場合は耳介全体を切除することになります。
小さな扁平上皮癌に対しては放射線療法が有効ですが、治療を実施できる施設が限られており、複数回の麻酔が必要になります。
肥満細胞腫などの皮膚腫瘍ができた場合も同様に、局所再発を防ぐために大きく切除することが必要です。
耳道切除や鼓室胞切開が必要な場合もあります。
耳道内にできた腫瘍では、腫瘍のできた部分や周りの組織への浸潤程度によって異なりますが、部分的あるいは全耳道切除を行い、腫瘍のできている外耳道を途中まであるいは耳道をすべて切除する手術が行われます。
また、鼓膜の奥(中耳)にできた腫瘍やポリープに対しては、鼓室胞という部分を切開して中にできた腫瘤を切除します。
しかし、悪性腫瘍の場合はすべて取り切れない場合もあります。
そのような場合、可能であれば放射線療法を組み合わせることで再発率を下げることができます。
外耳道切除や鼓室胞切開では、顔面神経や舌下神経などの神経、筋肉を損傷するリスクがあります。
場合によっては術後に後遺症として瞬きができない、食べこぼしが多いなどの症状がみられることがあります。
耳垢腺嚢胞は、嚢胞を開いて中に貯留している液体を排出させた後、嚢胞を切除します。
炎症性ポリープの場合はポリープを付け根から切除しますが、中耳から発生している場合には鼓室胞を切開する必要があります。
鼓室胞を切開する手術は難易度が高く、後遺症が残ることもあるため、鉗子で牽引して引き抜く方法もありますが、こちらは再発することがあります。
どのような手術で治療するかは、腫瘍ができている場所や後遺症などのリスクを踏まえたうえでよく相談することが必要ですが、いずれの腫瘍も大きくなればなるほど切除範囲が広がり、治療が難しくなりますので、早期発見・早期治療に努めましょう。