犬の口腔腫瘍とは
口腔内の腫瘍には、命にかかわるものがあります。
悪性黒色腫、扁平上皮癌、繊維肉腫は、犬の口腔内に発生する悪性腫瘍として発生率が高いものです。浸潤性が高く、狭い口腔内では外科手術でマージン(安全域)がとりにくいこともあり、治療が難しい腫瘍です。
また、棘細胞性エナメル上皮腫は良性腫瘍ではありますが注意が必要な腫瘍です。十分にマージンを確保出来なければ、再発を繰り返してしまいます。
犬の口腔腫瘍の症状とは
口腔内に炎症やしこり、潰瘍などがみられます。
口腔内の腫瘍は、一般的に感染、炎症、壊死が起こります。とくに表面は炎症や壊死が強いことが多いため、目視や表面のみの生検では正確な評価が出来ないこともあります。腫瘍が口腔内で発生し、増大するとともに潰瘍化、出血、壊死が起こるため、重度の口臭やよだれがみられます。口腔内の痛みのせいで食欲なくなることもあります。
悪性黒色腫では腫瘍細胞がメラニン顆粒を含んでいることがあり、黒色あるいは褐色の病変部位が広がる様子が確認できる場合があります。色素が少ないこともあり、その場合の腫瘍は黒色ではなく、桃白色などの粘膜色となります。
腫瘍の浸潤や転移により、顔面や鼻部にしこりや左右非対称の腫れがみられたり、唾液腺や頭頸部のリンパ節で腫れがみられます。
悪性黒色腫は遠隔転移を起こしやすく、リンパ節、肺、全身臓器に腫瘍が転移します。とくに肺への転移の有無はレントゲン検査で確認します。全身臓器に転移している場合は、発熱や嘔吐・下痢などの症状や、転移した臓器に起因する症状がみられます。扁平上皮癌、繊維肉腫は、悪性黒色腫と比較するとリンパ節転移、遠隔転移は少ないとされています。
棘細胞性エナメル上皮腫は良性腫瘍ではありますが注意が必要な腫瘍です。腫瘤が増大することにより、QOLを低下させます。十分にマージンを確保出来なければ、再発を繰り返してしまい、手術が難しくなる場合もあります。
犬の口腔腫瘍の原因とは
それぞれの細胞が腫瘍化することで口腔腫瘍が発生します。
悪性黒色腫は、メラノサイトと呼ばれるメラニンを生成する細胞が腫瘍化したものです。扁平上皮癌は上皮組織の中の扁平上皮から、線維肉腫は線維芽細胞から癌が発生します。
棘細胞性エナメル上皮腫は、歯を形成するエナメル器に関係した良性腫瘍だと言われています。原因ははっきりとはわかっていませんが、口腔内の炎症から引き起こされている可能性もあります。
犬の口腔腫瘍の好発品種について
全犬種で好発します。
口腔内悪性腫瘍は大型犬で発生が多いとされていますが、いくつかの悪性腫瘍の総称であり、多犬種において発生がみられます。
犬の口腔腫瘍の予防方法について
早期発見、治療をおこないます。
腫瘍性疾患であり、予防法はありません。
腫瘍は早期発見、治療が重要です。毎日の健康観察、動物病院での健康診断を行うことで腫瘍の発見率が高くなります。
口腔内腫瘍を早期発見するためには犬の口腔内を観察し、歯周病などの治療を積極的におこなうことが早期発見につながる場合もあります。
犬の口腔腫瘍の治療方法について
外科的切除、抗がん剤療法、放射線療法をおこないます。
腫瘍の外科的な切除と抗がん剤の投与による内科的療法を行います。腫瘍を外科的に切除する場合、マージンとよばれる腫瘍の周囲にある健康な組織を切除する必要があります。これは腫瘍が細胞単位で取り残され、再発することを防ぐ目的があります。
口腔内腫瘍の切除ではマージンをとることが難しい場合、顎の全切除のような大掛かりな術式をとることがあります。多くの犬では顎がなくても摂餌・摂水できます。
また、顎の切除が難しい場合は放射線療法をおこなう場合もあります。ただし、腫瘍の種類によっては放射線療法の効果が乏しい場合もあります。
口腔内悪性腫瘍は、比較的予後が悪く、数カ月~年単位の余命です。