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監修: 葛野 宗 獣医師
[記事公開日]  [最終更新日]
[ 目次 ]

犬の「便の異常」症状とは

便の異常には様々なものがあります。

犬の便の異常には様々なものがあります。

軟便、下痢、血便、便秘などがありますが、環境の変化や食事などの影響で一過性に見られるものであれば大きな問題は無いと言えます。

経過観察していても改善が見られない場合は受診する必要があります。

犬の「便の異常」症状の考えられる病気(原因)とは

軟便

軟便とは、通常の便よりも少し軟らかい状態のことを言います。犬が軟便をしている時、病気の場合とそうでない場合があります。食べ過ぎ、普段食べ慣れないものを食べた、環境の変化などのストレス、などが原因である場合は、大きな問題は無く、経過を観察していただいても良いかと思います。ただし、続くようであれば動物病院で診てもらいましょう。

軟便の原因として考えられる病気としましては、急性胃腸炎が挙げられます。
急性胃腸炎とは、嘔吐や軟便、下痢などが見られる一過性の胃腸炎のことを言います。急性胃腸炎の原因は多岐に渡り、食事性、薬物性、中毒性、細菌性、ウイルス性、寄生虫性などが挙げられます。

下痢

便の水分が異常に増えてしまい、液状またはそれに近い状態を下痢と言います。小腸に異常がある場合の下痢を小腸性下痢、大腸に異常がある場合の下痢を大腸性下痢と呼びます。

・小腸性下痢
排便の回数は通常と変わらないかやや増加します。便の1回量は多くなることが多いです。水様便などさまざまですが、小腸に出血があると黒っぽくなることがあります。

・大腸性下痢
排便の回数は増加します。便の1回量は、通常と変わらないか減ります。便には粘液が付着していることもあります。大量に出血があると鮮血が付着することがあります。

下痢を引き起こす代表的な疾患を挙げていきます。

炎症性腸疾患とは、慢性腸症のうち免疫抑制薬に治療反応を示すものを呼びます。主な症状としましては、小腸性下痢、大腸性下痢、嘔吐、体重減少、腹痛などが認められます。上部消化管(食道、胃、十二指腸)の病変が重度である場合は嘔吐や小腸性下痢がよく見られ、大腸の病変が重度である場合は大腸性下痢がよく見られます。

膵炎とは、何らかの原因によって膵臓が炎症を起こした状態のことを呼びます。食欲不振、活動性の低下、嘔吐、下痢、腹痛などがよく見られます。軽度な消化器症状のみで治癒することもある一方、全身的な炎症反応を引き起こし短期間のうちに死亡してしまうこともあります。

膵外分泌不全とは、膵腺房細胞の萎縮や破壊によって膵酵素の分泌能力が90%以上失われることで消化不良を生じる疾患です。便の量が増え、体重は減少します。典型例では小腸性下痢が見られ、脂肪便が見られることもあります。

便秘

便秘とは、本来対外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出出来ない状態のことを言います。
環境の変化、運動不足、水分不足、食事の内容によって便秘が見られることがあります。これらの原因がある場合は、改善することが出来ます。

以下に便秘を起こす可能性のある疾患を挙げていきます。

会陰ヘルニアとは、肛門脇の筋肉の隙間から直腸が飛び出してしまう疾患です。去勢していないオスに多く見られます。会陰ヘルニアの症状としましては、便秘が最もよく見られます。飛び出す臓器によって症状が異なり、膀胱が飛び出している場合は排尿困難が見られます。

巨大結腸症とは、持続的かつ不可逆的な結腸の増大を指し、結腸の運動性の低下を伴う疾患です。臨床症状は便秘に加え、血便やしぶりが見られることがあります。腫瘍、異物、骨盤骨折、神経の異常などが原因となり引き起こされます。

前立腺肥大症とは、オス犬に見られる加齢による前立腺の過形成と肥大によって発生します。前立腺はオス犬の副生殖腺であり、雄性ホルモンの作用によって発達、維持されます。未去勢犬の場合、生涯を通じて前立腺は成長し続けます。初期は無症状であることが多いですが、進行すると直腸を圧迫して便秘が見られるようになります。尿道を圧迫することで排尿困難が見られることもあります。

犬の「便の異常」症状の好発品種について

以下の犬種で好発がみられます。

炎症性腸疾患は、ジャーマンシェパードが好発犬種として挙げられます。

膵炎は、トイプードルをはじめとしたトイ種、キャバリアキングチャールズスパニエルなどが好発犬種として挙げられます。

膵外分泌不全は、ジャーマンシェパード、イングリッシュセッター、イングリッシュコッカースパニエルが好発犬種として挙げられます。

会陰ヘルニアは、ボクサーやボストンテリアなどの尾が短い犬種、ミニチュアダックスフントやペキニーズなどの小型犬種でよく見られます。

犬の「便の異常」症状の予防方法について

軟便・下痢

普段食べ慣れない食べ物は与えない、普段与えている食事量を守る、ドッグフードを変更する際は急に変えない、などで一過性の軟便は予防できる可能性があります。
また、人間が食べているものを盗み食いすることで軟便を起こすことがあるため注意しましょう。脂肪分の多い人間の食べ物は消化器系の疾患を引き起こすこともありますので、飼い主さんが防いであげましょう。

感染症は、ワクチン接種である程度防げる疾患があります。また、フィラリア予防薬に含まれる駆虫薬の効果で駆虫できる寄生虫がありますので、定期的なフィラリア予防薬の投与をお勧めいたします。

便秘

会陰ヘルニア、前立腺肥大症は主に未去勢犬で見られる疾患ですので、去勢手術をおこなうことが予防につながると言えます。

その他の疾患は、早期発見・早期治療をおこないます。

犬の「便の異常」症状の治療方法について

軟便

軟便の原因となる疾患が無い一過性の軟便の場合は、止瀉剤を注射や内服で投与します。
原因疾患がある場合は、その疾患に合った治療をおこないます。細菌性の腸炎の場合は止瀉剤に加えて抗菌剤、輸液などをおこないます。ウイルス性の腸炎に対しては特異的な治療法があるわけではないため、支持療法が中心となります。輸液療法、制吐剤の投与、抗菌剤や抗ウイルス剤の投与、栄養補給などをおこないます。回虫、コクシジウム、ジアルジアなどの寄生虫は、それぞれに合った駆虫薬があります。検便などで確定診断を受けた上で投薬する必要があります。

下痢

下痢の原因となる疾患が無い一過性の下痢の場合は、止瀉剤を注射、内服で投与します。
膵炎の場合は輸液をおこない、鎮痛剤や制吐剤を投与します。また、脂肪分をおさえた栄養管理が良いとされています。膵外分泌不全の場合は、消化酵素、抗菌剤を投与します。低脂肪の高消化性フードを給与が推奨されています。感染症の場合は、その原因となるウイルスや寄生虫に合った治療薬を投与します。

便秘

溜まった宿便を肛門から取り出すことは、即時に便秘を解決できます。指による掻き出し、小型犬の場合は腹部から触って押し出す、採便棒を用いて砕く、などの方法があります。
脱水や電解質のバランスを輸液で整えてから浣腸をおこなうこともあります。温かい生理食塩水や水道水を注入する方法、グリセリンを注入する方法があります。グリセリンは効果が強いため、閉塞している部位が無いかを確認しなければなりません。
会陰ヘルニアの場合は手術が必要になります。結腸の固定、ヘルニア孔の縫合などをおこないます。術後も排便のいきみは続くことがあり、管理を怠ると再発することがあります。

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