猫の乳び胸とは
胸腔内に乳白色の胸水が溜まる病気です。
乳び胸とは、胸腔内に「乳び」という乳白色の胸水が溜まった状態をいいます。
乳びとは、腸のリンパ管から吸収された脂質を大量に含むリンパ液で、胸管という管を通って胸腔まで運ばれ、胸腔内で静脈に注ぎ込みます。
胸管が閉塞したり、外傷などによって損傷すると、乳びが漏れ出し、胸腔内に貯留して乳び胸となります。
乳び胸を起こす原因には様々なものがありますが、いずれの場合も胸腔内に乳び胸水が占拠することによって、呼吸困難などの症状を示します。
長期間経過すると、線維性胸膜炎を起こして肺がうまく膨らまなくなり、呼吸状態は徐々に悪化してしまいます。
原因をしっかりと見極め、それぞれに対応した治療を行うことが必要です。
猫の乳び胸の症状とは
呼吸器症状がみられます。
胸腔内に乳びが貯留すると、肺の膨らむスペースが狭くなるために、呼吸器症状がみられるようになります。
主に見られる症状は以下の通りです
・元気がない
・呼吸が浅く、速い
・開口呼吸している
・食欲低下
・咳
・呼吸困難
上記のような症状は、胸水を抜去すると改善しますが、ほとんどの場合、再び胸水が貯留するということを繰り返します。
線維性胸膜炎に発展します。
経過が長くなると徐々に線維性胸膜炎をおこし、胸膜の肥厚や肺の癒着が起こります。
すると肺がうまく伸び縮みできなくなり、胸水を抜いた後にも呼吸の苦しさが続き、常に呼吸が浅く速い、といった状況に陥ってしまいます。
このような線維性胸膜炎を起こす前に治療を行うことが重要です。
猫の乳び胸の原因とは
猫ではリンパ腫が原因のことがあります。
乳び胸の原因は、大きくは先天性、外傷性、非外傷性に分けられます。
先天性の乳び胸は、犬では報告されていますが、猫ではあまり見られません。
外傷性の原因としては、交通事故や外科手術による胸管の損傷が挙げられます。
非外傷性の原因には、腫瘍(リンパ腫や胸腺腫)、心筋症、心外膜疾患、肺葉捻転、横隔膜ヘルニア、全身性リンパ管拡張症などが挙げられます。
この中でも、猫では縦隔型リンパ腫による乳び胸が多くみられます。
これらの原因を一つ一つ除外していき、あてはまるものがなかった場合には、特発性乳び胸と診断されます。
猫の乳び胸の好発品種について
以下の猫種で好発がみられます。
- シャム
- ヒマラヤン
アジア系の猫に起こりやすいと言われています。
猫の乳び胸の予防方法について
効果的な予防方法はありません。
乳び胸を予防できる効果的な方法はありません。
できるだけ早く呼吸の異常に気付き、原因を特定することで、呼吸状態を改善させるとともに線維性胸膜炎に移行することを防ぎましょう。
猫の乳び胸の治療方法について
胸水抜去を行います。
胸水が貯留してしまうと、自然に吸収されてなくなることはほとんどありません。
胸水が貯留している間は肺が十分に膨らまず、呼吸が苦しいままなので、針を刺して胸水を抜く処置を行います。
胸水を抜いてあげることで、呼吸状態は非常に良くなり、食欲や元気も回復します。
また、抜いた胸水を検査することで、乳び胸の原因が特定できる場合もあります。
しかし、効果は一時的で、多くの場合はしばらくすると再び胸水が貯留してしまうため、その度に処置を繰り返す必要があります。
また、線維性胸膜炎に移行してしまっている場合には、胸水を抜去しても効果は限定的です。
原因疾患を治療します。
特発性乳び胸以外の場合、原因となっている疾患を治療することで乳びの貯留が落ち着きます。
猫で多いリンパ腫などは、抜去した胸水の検査、超音波検査、針生検などで診断でき、抗がん剤治療などによって治療可能です。
内科治療を行います。
特発性の乳び胸の場合、胸水抜去と内科治療によって改善することがあるため、初期には内科治療が行われます。
内科治療としては、低脂肪食への切り替え、利尿剤、血管拡張剤、ルチン、ステロイドの投与などが行われます。
ルチンは蕎麦などに含まれるポリフェノールの一種です。
血液をサラサラにしたり、血圧を下げる成分としてサプリメントなどが販売されていますが、乳び胸に対しては、胸水に含まれる蛋白量を減らすことで胸水が吸収されることを助長し、胸膜炎を起こさないようにする効果があると考えられています。
外科治療を行う場合もあります。
胸水抜去と内科治療を行ってもあまり改善がみられない場合には、外科治療も選択となります。
ただし、外科手術は線維性胸膜炎が進行する前でなければ実施できません。
肺が癒着を起こしていると手術自体が困難となるばかりか、肺を損傷するリスクが高くなります。
手術方法としては、胸管の結紮、ドレーンの設置、心膜切除術、胸腔腹腔シャント術、大網胸腔内固定術、乳び槽切開などがあります。
胸管結紮術は、胸管を結紮してリンパ液が胸管に流れないようにする方法です。
胸管結紮だけでは治癒率は40%程度とされています。
ドレーンは、肋骨と肋骨の間から胸腔内にチューブを入れ、胸水を外に出す経路を作る方法です。
針を刺して何度も胸水を抜く必要がなくなりますが、感染のリスクやドレーンが閉塞して胸水が抜けなくなることがあります。
心膜切除術は、心臓を包んでいる心膜を切除することによって静脈の圧を下げ、結果として胸管にかかる圧を減少させる効果があります。
乳び槽切開とは、お腹の中にあるリンパ液の溜まり場を切開し、胸管・リンパ管にかかる圧を減少させる方法です。
胸腔腹腔シャント術は、横隔膜を切開するなどして、胸水をお腹に流し、吸収させる方法です。
切開してもすぐに閉鎖してしまうことがあるため、横隔膜に医療用のメッシュなどを設置する場合もあります。
大網胸腔内固定術は、本来腹腔内臓器を包んでいる大網という膜を胸腔内に引き込んで固定させ、大網に胸水を吸収させる方法です。
いずれの方法も一つの治療方法では再発することが多く、胸管結紮、心膜切除術、乳び槽切開を組み合わせた方法などが、治療成績が良いとされています。
胸膜癒着術という治療方法もあります。
抗生物質の一種やタルク(鉱物の一種)を胸腔内に投与することで炎症を起こさせ、肺を癒着させて胸水の貯留を防ぐという方法もありますが、効果が安定せず、呼吸状態がさらに悪化する場合もあるため、慎重に検討する必要があります。