猫の腎盂腎炎とは
腎臓内に感染が起こり、腎臓の機能が低下した状態になります。
腎臓は血液の老廃物を漉しとって尿を生成する臓器です。
腎臓の皮質・髄質内を走る無数の毛細血管から、尿として漉しとった老廃物を腎盂という扇形の空間に集めて尿管へ流し、膀胱を経て排尿が行われます。
腎盂腎炎は、腎盂と腎臓の実質(皮質・髄質)に細菌感染が起こり、炎症をおこした状態です。
腎臓は左右に1個ずつ存在するため、片方の腎臓のみが発症した場合にはあまり症状を示さず無症状の場合もありますが、両側の腎臓に発症した場合には慢性腎臓病となり、重度の場合には尿毒症を起こすこともあります。
また、発症までの過程の違いから、急性・慢性腎盂腎炎と分けられますが、それによっても症状は異なります。
早期に発見でき、適切に治療できれば腎臓の機能を温存できますが、慢性化してしまった場合には腎機能低下や腎臓の萎縮を招いてしまう病気です。
猫の腎盂腎炎の症状とは
無症状から重篤な腎不全症状まで様々な状態があります。
腎盂腎炎の症状はその重症度や発症過程によって、無症状から非常に重篤な腎不全症状まで様々です。
一般に急性の腎盂腎炎では以下の様な顕著な症状を示すことが多くなります。
急性腎盂腎炎
・発熱
・食欲不振
・嘔吐
・腎臓腫大
・腰部痛(腎臓の痛み)
両側性に発症した場合には、体の老廃物が体内に貯留してしまうため、尿毒症症状(意識障害、痙攣など)を示すこともあり、危険な状態です。
このほかの慢性腎盂腎炎と共通する症状としては
・頻尿
・血尿
・尿が濁っている
・失禁
・多飲多尿
などがあります。
片側性の慢性腎盂腎炎ではほぼ無症状のこともあり、その場合は発見が遅れてしまいがちです。
猫の腎盂腎炎の原因とは
尿路の通過障害による尿の逆流によっておこります。
腎盂腎炎の原因は、主に細菌感染です。
尿の生成から排尿までは、通常は一方通行ですが、何らかの原因によって尿路の通過障害が起こると正常な尿の流れが滞り、逆流が生じます。
膀胱炎などで細菌に汚染された尿が逆流すると、腎盂腎炎となってしまいます。
尿路の通過障害としては、
・腎結石
・尿管結石
・膀胱結石
・尿道結石
・前立腺肥大(猫では非常にまれ)
・尿道の炎症
・膀胱腫瘍
などが挙げられます。
正常な排尿ができない状態になるとおこります。
尿路の通過障害以外にも、正常に排尿できないような問題があると、結果として尿の逆流が起こりやすくなり、腎盂腎炎を発症することがあります。
・脊髄疾患による麻痺
・膀胱アトニー
・異所性尿管(猫では稀)
交通事故などで脊髄を損傷してしまった場合、膀胱に分布する神経が麻痺してしまい、自力で正常な排尿ができなくなってしまうことがあります。
また、膀胱アトニーでは、膀胱が伸びきった風船のようになってしまい、通常であれば排尿刺激が起こるはずの量の尿が貯留しても排尿刺激が起こらなくなってしまいます。
これらの疾患では膀胱が非常に大きく拡張しても排尿できないため、結果として尿管・腎臓への逆流が起こりやすくなってしまいます。
異所性尿管とは、腎臓から膀胱へ尿を運ぶ尿管が、膀胱の正常な位置につながっておらず、膣や尿道、膀胱の他の部分などに開口している生まれつきの異常です。
正常な尿管は膀胱の出口付近に斜めに入り込む形状をしているために、逆流が起こりにくい構造となっていますが、異所性尿管ではその構造が失われているために逆流や細菌の侵入が起こりやすくなってしまいます。
また、治療行為としての尿道へのカテーテル挿入なども原因となってしまうことがあります。
上記の脊髄疾患の猫では、自力排尿ができないためにカテーテルを挿入して排尿させることもありますが、不衛生な状態で行うと感染を招いてしまいます。
稀に血行性の感染が起こります。
細菌性心内膜炎などを起こしている動物では、血流に乗った細菌によって血行性に腎臓への感染が起こり腎盂腎炎を起こすことがありますが、猫では稀です。
重度の歯周病なども原因となることがあります。
猫の腎盂腎炎の好発品種について
以下の猫種で好発がみられます。
- アビシニアン
- シャム
- スコティッシュフォールド
- トンキニーズ
- バーミーズ
- ヒマラヤン
- ペルシャ
- マンクス
- メインクーン
- ロシアンブルー
尿路結石を起こしやすい猫種では腎盂腎炎を起こすリスクも高いと言えます。
また、免疫が抑制されてしまうような疾患に罹患している猫でも起こりやすい病気です。
(猫白血病ウイルス、猫エイズ、糖尿病、副腎皮質機能亢進症など)
猫の腎盂腎炎の予防方法について
十分な水分補給を心がけ、トイレの衛生状態を保ちましょう。
尿路感染を起こさないためには、正常な排尿を維持してあげることが重要です。
猫が飲みたいときに飲めるように、十分な量の水を用意してあげましょう。
無理に飲ませる必要はありませんが、水が汚れていると飲まないこともあるので、定期的に取り換えてきれいな状態を維持してあげます。
十分に飲水することで尿の生成が正常に行われ、定期的に排尿することで尿路が洗い流され、尿路結石や尿路感染の発症を減らすことにつながります。
また、トイレを我慢しなくていいように、トイレを清潔に保つことも大切です。
排泄後は速やかに処理をし、いつでも清潔なトイレを使用できるようにしてあげましょう。
排尿状態をチェックしましょう。
排尿は一日に数回あるはずですので、時々その様子をチェックしましょう。
頻尿や血尿はもちろん、尿の臭いがキツイ、一回の尿量が非常に多い、尿が出にくい、などといった様子が見られたら、一度病院を受診することをお勧めします。
定期的に尿検査を行いましょう。
腎盂腎炎を起こす際には、尿に必ず異常が現れます。
中には無症状で進行する腎盂腎炎もあるので、定期的に健康診断を兼ねて尿検査を行い、早期発見に努めましょう。
猫の腎盂腎炎の治療方法について
感染に対して抗生物質で治療します。
腎盂腎炎の原因となっている細菌を抑えるために、抗生物質を投与します。
適切な抗生物質を選ぶために尿の細菌検査を実施し、治療中も定期的に尿検査をしながらその効果を判定していきます。
結石の摘出を行います。
腎盂腎炎の原因が、腎結石や尿管結石、膀胱結石と考えられる場合、抗生物質での治療を行っても再発を繰り返すことがあります。
その場合は結石の摘出手術を行うことも検討します。
尿管結石の場合、猫の尿管は非常に細く、犬の手術に比べて非常に難易度が高いため、その適応については慎重に判断する必要があります。
腎臓をケアします。
腎盂腎炎を起こした腎臓は、少なからず腎機能が低下してしまいます。
腎臓は再生しない臓器ですので、残っている腎機能を少しでも温存するために、腎臓病に対応した処方食への切り替えや、腎機能低下の程度に応じて内服薬の投与を行います。
重度の腎機能低下がみられる場合には、定期的に皮下点滴を行い、体の老廃物の排泄を補助してあげる必要もあります。