猫の角膜黒色壊死症とは
角膜の一部が壊死して黒くなり、炎症を起こす病気です。
角膜黒色壊死症とは、猫で見られる眼疾患で、透明で透き通っている角膜の一部が壊死して黒くなり、その周囲で炎症が起こることにより強い痛みを起こす病気です。
角膜分離症とも呼ばれます。
壊死が角膜の表層のみで起こる場合から角膜の全層に達する場合まで程度は様々で、病変が深い場合には角膜穿孔(角膜に穴が開いてしまう状態)に陥る危険があるため注意が必要です。
また、壊死部分の周囲には角膜潰瘍や細菌感染を伴うことがあり、細菌感染によって角膜が融解して穿孔する危険にも注意しなければなりません。
一度壊死してしまった角膜は取り除かない限り元の透明な角膜には戻らないため、治療には壊死した部分の外科的な切除などが必要となりますが、治療経過で自然に脱落することもあります。
しかし、再発することが多いため、再発予防のために角膜を保護する継続治療が必要です。
猫の角膜黒色壊死症の症状とは
目の表面に黒い瘡蓋ができるのが特徴です。
角膜黒色壊死症とは、その名の通り角膜が壊死して、黒~黒褐色の色素沈着のような斑点ができる、あるいは瘡蓋の様になる眼の病気です。
目の中央部分に1~2mm大でできることが多いですが、中には目の半分を覆うような大きなものもあります。
主な症状は以下の通りです。
・眼の表面に黒い円形の塊ができる
・眼瞼痙攣(眼を細める)
・涙目
・目ヤニ
・眼の充血
・角膜の浮腫
・角膜潰瘍
・眼を気にしてこする
黒色壊死症では目の痛みが強いことが多く、涙目や目を細める様子が見られ、気にしてこすってしまうことでさらに眼を傷つけ、悪化する場合もあります。
痛みが強い場合には、元気がなくなる、食欲不振といった全身的な症状も見られます。
また、壊死した部分の周囲には角膜潰瘍ができやすく、血管新生(血管が伸びて入り込む)や、角膜が浮腫を起こし白っぽく膨れている様子が観察されます。
潰瘍部分や壊死部の境界では細菌感染が起こりやすく、感染を伴うと角膜が菌によって融解し、角膜穿孔を起こす危険があります。
猫の角膜黒色壊死症の原因とは
慢性的な角膜疾患や角膜炎に続発します。
詳しい発生機序はわかっていませんが、慢性的な角膜疾患や角膜炎に続発して起こるとされています。
その背景には、猫ヘルペスウイス感染症や、瞼が内側に入り込む眼瞼内反症などがあることが多く、特にヘルペスウイルスに感染している猫に長期間ステロイド剤の点眼薬を使用した場合などに起こるケースもあるため、注意が必要です。
猫の角膜黒色壊死症の好発品種について
以下の猫種で好発がみられます。
- シャム
- ヒマラヤン
- ペルシャ
どの猫種でも起こりえますが、これらの品種で好発する傾向があります。
鼻が低く、顔の周りの毛が目にあたりやすい猫では、慢性的な刺激から発症するリスクが高くなります。
猫の角膜黒色壊死症の予防方法について
ウイルス感染に対するケアで予防しましょう。
猫ヘルペスウイルスは、子猫の時期に感染することが多い感染症です。
一般的に猫カゼといわれ、鼻水やくしゃみ、結膜炎、目ヤニなどの症状を示す病気ですが、感染するとウイルスを体から完全に排除することはできず、体の抵抗力が落ちた時に症状がぶり返す感染症です。
この病気の発症はすでに感染していてもワクチン接種によって定期的に免疫を付けることによって予防できます。
毎年(あるいは3年に一度)、定期的にワクチンの追加接種を受け、ウイルスに負けない抵抗力をつけるようにしましょう。
また、発症時にはできるだけ早期にインターフェロン療法を行い、症状が重度にならない内に治療するようにしましょう。
ステロイド剤の点眼時には要注意です。
他の眼の疾患の治療として、ステロイド剤を使用しなければならない場合がありますが、その際は処方時の用法・用量を守りましょう。
万が一、使用中に目の表面に黒い点ができるなど異常が見られた場合には、直ちに使用をやめ、かかりつけ医に相談しましょう。
目の周りをきれいに維持しましょう。
眼の周りの毛が目の表面にあたり、目ヤニや涙目になりやすい猫の場合、毛の長さを整え、眼の周りの汚れをこまめに拭くなどして、眼の周りの環境を清潔に保てるようにしましょう。
眼に慢性的な刺激を与えないことが、発症の予防につながります。
猫の角膜黒色壊死症の治療方法について
外科療法で壊死部分を取り除きます。
角膜の壊死した部分を外科的に取り除く治療方法です。
角膜の表層だけに病変がある場合には病変部の切除だけを行いますが、角膜の深部まで達する場合や、既に穿孔しているような場合には、壊死部の切除後に結膜を角膜に移植する手術や、眼の前眼房という部分を形成する手術など、専門性の高い技術が必要となります。
そのため、治療を開始する際に、眼科専門医を紹介されることが多くなるでしょう。
手術の後は、数週間コンタクトレンズを装着したり瞼を閉じたままにして角膜を保護し、抗生物質や角膜保護剤を点眼します。
また、発症の背景に眼瞼内反症がある場合には、角膜の手術と同時に、内反症の整復手術を行います。
内科療法で自然に脱落するのを待ちます。
手術が状況的に難しい場合や、病変が小さく(浅く)症状が軽度の場合、内科治療で経過観察します。
角膜は再生する組織なので、新しく作られた角膜の組織が壊死した部分の下に入り込むことにより、壊死部分が自然に脱落することがあります。
しかし、その時期は症例毎によって様々で、数カ月から中には数年後という場合も少なくありません。
その間は周囲で起こりやすい角膜潰瘍の管理などを行うために、角膜保護剤や抗生物質を点眼し、発症の背景にヘルペスウイルス感染症が関与している場合には、内服薬で抗ヘルペスウイルス治療を行います。
外科治療・内科治療のいずれで治療した場合でも、壊死部分が脱落すると眼痛などの症状は改善しますが、再発することが非常に多いため、継続して角膜を保護する治療を行い、再発兆候が見られたらすぐに対応できるよう経過を観察していく必要があります。