猫の血尿症とは
尿に血が混ざって赤っぽい尿が出る状態です。
尿の一部に血の塊が見られる、あるいは尿全体に血が混ざって赤~茶色っぽい尿が出る場合を血尿といいます。
血尿が出る原因は様々で、尿を生成する腎臓から尿が通る尿管、膀胱、尿道のどこかに出血を起こす何らかの問題が生じることによってみられます。
最も多いのは膀胱炎ですが、膀胱結石や腎結石、膀胱腫瘍などができている場合もあるため、血尿が見られた場合には腎・泌尿器を全体的に検査してもらうことをお勧めします。
また、同じように赤い尿が出るものとして、血尿ではなく「血色素尿」というものがあります。
血尿は出血した血液が尿に混ざったものですが、血色素尿はタマネギ中毒や免疫の病気などによって血液の細胞が壊れ、その色素であるヘモグロビンが尿に出て赤くなったものです。
見た目には似ていますが、両者は病態も治療も全く異なり、尿検査をすればその違いは明らかになります。
いずれにしても尿が赤いというのは病気のサインですので、すぐに病院で検査をしてもらいましょう。
猫の血尿症の症状とは
尿が赤い、あるいは血の塊が混ざります。
血尿時は尿自体が赤~茶色い、あるいは尿の中に血の塊ができており、それが一緒に排泄されて出てくるようになります。
色が濃い砂のトイレでは、微量の出血はわかりにくいことが多く、白っぽい紙の砂やペットシーツに排泄する場合は尿の色の変化がわかりやすくなります。
その他の症状は、血尿の原因によって異なりますが、以下のようなものが見られることがあります。
・頻尿
・排尿時に痛がる(大きな声で鳴く)
・少量ずつしか排尿できない
・トイレ以外の場所で尿を漏らしてしまう(失禁)
・陰部を気にしてしきりに舐める
一般的に膀胱や尿道に問題がある場合には、頻尿などの排尿時の変化が見られやすい傾向があります。
一方、腎臓や尿管に問題がある場合には、あまり排尿時の異常は見られず、尿の色の変化もわずかでわかりにくいことが多いため、発見が遅れがちです。
見た目にはいつも通りの尿だったのに、健康診断時に顕微鏡検査で見ないとわからない程度の出血が検出される、ということから発見につながることもあります。
腎臓に炎症などの問題が起こっている場合(腎盂腎炎など)には、血尿だけでなく全身状態が悪くなることがあり、以下のような症状が見られます。
・発熱
・食欲低下
・元気消失
・尿量が少なくなる
これらの症状は対処が遅れると命に関わることもあるため、様子を見ずにすぐに病院へ連れて行きましょう。
猫の血尿症の原因とは
特発性膀胱炎や尿路感染症が原因です。
最も多い血尿の原因は膀胱炎によるものです。
膀胱炎は細菌感染や尿石症によっても起こりますが、ストレスが原因で起こる特発性膀胱炎も猫では多く見られ、炎症が強いと出血を起こし血尿が出ます。
尿路感染症の波及や全身性の感染症によって腎臓に炎症が起こる腎盂腎炎などでも、血尿がみられることがあります。
結石や尿石症が原因です。
腎臓、尿管、膀胱、尿道のどこかに結石が存在すると、結石と粘膜の摩擦によって炎症が起こり、出血が起こります。
結石の大きさや形状によっては血尿が見られない場合もありますが、尿管や尿道に結石がある場合には小さくても尿路閉塞をおこすことがあるため、注意が必要です。
また、石ができる前の段階の、結晶が尿中に存在する場合にも血尿が見られます。
結晶は非常に小さいですが、角があるため、膀胱に炎症を起こし、膀胱粘膜からの出血を引き起こします。
オス猫は尿道が細長いため、多量の結晶が尿中にあると排尿時に尿道につまり、尿道閉塞を起こすことがあります。
腫瘍が原因の場合もあります。
猫では尿管や尿道にできる腫瘍はあまり多くありませんが、腎臓、膀胱には腫瘍ができることがあります。
最も多いのは膀胱腫瘍で、膀胱の出口付近に腫瘍が形成されると、腫瘍の成長に伴って腎臓からの尿の流入や排尿に支障をきたし、尿路が閉塞して急性腎不全を起こす危険があります。
一方、猫の腎臓にできる腫瘍はほとんどがリンパ腫で、あまり顕著な血尿症状は示しません。
尿検査で偶発的に微量の血尿が検出され、精密検査をした結果発見されることもありますが、多くの場合は全身状態の悪化やお腹が腫れているなどといった他の症状から検査・診断につながります。
猫の血尿症の好発品種について
全猫種で好発します。
どんな猫でも起こります。
猫の血尿症の予防方法について
定期的に尿検査・健康診断を受けましょう。
腎・泌尿器の腫瘍の発生を効果的に予防する方法はありません。
定期的に尿検査や健康診断を受け、早期にその兆候を検出することで、早期発見・早期治療につなげることが重要です。
飲水が十分にできるようにしましょう。
尿路感染症や尿石症の予防としては、十分に水分を摂取し、定期的に排尿を促すことが効果的です。
尿がたくさん出ることで定期的に尿路を洗い流すことになり、膀胱内にとどまっている時間を長くしないことが尿中の結晶や結石の析出を予防することになります。
体質的に結晶や結石ができやすい猫ちゃんの場合には、フードを尿石症対応のものに変更して作られる尿の成分を調整してあげることも効果的です。
また、肥満傾向になると運動量が落ち、飲水や排泄の回数が減ることから、尿路疾患にかかりやすいことがわかっています。
適度に運動させ、飲水を促すとともに肥満にならないように気を付けましょう。
トイレはいつも清潔に保ちましょう。
猫はトイレが汚れていると排泄を我慢してしまうことがあります。
排泄ごとにトイレを掃除し、いつでもきれいなトイレで排泄できるようにしてあげましょう。
多頭飼育の場合はトイレの数が不足していないかどうかも重要です。
飼育頭数+1のトイレ数が理想的だとされていますので、お家の環境をもう一度見直してみましょう。
猫の血尿症の治療方法について
まずは原因をしっかり検査します。
上に挙げたように、血尿の原因は様々です。
原因によって治療は全く異なりますので、まずはしっかり検査してもらい原因を突き止めましょう。
膀胱炎や尿路感染症の治療を行います。
膀胱炎では消炎剤や止血剤を投与し、炎症を抑える治療を行います。
それに加え、尿路に感染を伴っている場合には、抗生物質を投与して感染を抑える治療を行います。
ストレス性の場合は、ストレスの原因を取り除くことも重要です。
腎盂腎炎では、炎症が起こった結果として腎機能が低下してしまうこともあるため、必要に応じて点滴などを実施し、腎機能をできるだけ温存するような治療(定期的な皮下点滴や腎臓病用の処方食、内服薬の投与)を継続することが必要になる場合もあります。
結石や尿石症の場合は食事療法や手術を行います。
猫でよく見られる結石はストルバイト結石とシュウ酸カルシウム結石です。
ストルバイト結石は食事療法によって溶解することができますが、シュウ酸カルシウム結石は一度形成されてしまうと溶かすことはできません。
また、シュウ酸カルシウム結石は金平糖の様にトゲトゲした形状のことが多く、膀胱内にある場合でも炎症や出血が強く出る傾向があります。
尿路のどこに結石が存在するか、結石の種類などにも左右されますが、結石による刺激が強く、出血や炎症が重度の場合には、結石を摘出する手術を行います。
腎結石の場合は、尿の排泄に支障が出ていなければ、多くは経過観察します。
しかし、腎臓から尿管に結石が落ちて閉塞してしまった場合には、尿が腎臓内に溜まり水腎症をおこしてしまうため、手術が必要になります。
いずれの場合でも、結石の再発や結石が大きくなることを予防するために、食事療法を行います。
結石になる前の段階で、尿に結晶が認められる場合にも、水分摂取を促し、食事内容を変更することで結晶の形成を抑えます。
膀胱内に結晶が沈殿するほどの量が存在する場合には、カテーテルを入れて膀胱洗浄を行い、結石が形成される前に除去する治療を行う場合もあります。
腫瘍の場合はどこにできているかがネックになります。
膀胱腫瘍の場合、腫瘍ができている場所が重要です。
膀胱の頭側であれば大きく切除しやすく、術後の再発や後遺症なども出にくいですが、膀胱の出口側に形成された場合は、腎臓からつながる尿管や、尿を排泄する尿道の開口部を巻き込んでいることが多く、治療に苦慮することが多くなります。
腫瘍の種類によっては内服薬(消炎剤の一部)が効果を発揮する場合もありますが、少しずつでも増大傾向がある場合には、いずれ排尿ができなくなってしまう可能性が高いため、やはり手術での切除が必要です。
しかし、手術は腫瘍の切除だけでなく、尿管を別の部分につなぎ直すような非常に難易度の高い手術となるため、場合によっては大学など高度医療を受けられる病院への転院が必要になります。
腎臓腫瘍の場合は、多くがリンパ腫であるため、手術はあまり行われません。
リンパ腫には抗がん剤を投与して治療を行います。
抗がん剤治療には副作用が発現することが多いため、治療に際してはかかりつけの獣医師とこまめにコミュニケーションをとるようにし、副作用発現時の対処法などをしっかり確認しておきましょう。