猫の尿崩症とは
抗利尿ホルモンの不足によってたくさん尿が出る病気です。
尿は腎臓で作られますが、はじめに作られた尿は原尿といい、水分量が非常に多い状態です。
この原尿はそのまま排泄されるのではなく、必要な水分を体に再吸収して濃縮されてから排泄されます。
この再吸収に関わるのが、脳の下垂体という部分から分泌されるバソプレシンというホルモンで、抗利尿ホルモンと呼ばれます。
尿崩症という病気は、バソプレシンが不足することによって尿の再吸収が必要量行われなくなり、薄い尿を大量にするようになる病気です。
尿として排泄される水分が多いため、脱水やのどの渇きが強く起こり、飲水量が非常に多くなります。
猫では非常にまれな病気です。
猫の尿崩症の症状とは
多飲多尿が特徴です。
尿崩症で見られる症状は多飲多尿です。
濃縮されていない薄い尿をとめどなく排泄するために、体は脱水を起こしやすく、その分飲水量も非常に多くなります。
多飲の目安としては、一日に体重1kgあたり100ml以上の飲水がみられる場合ですが、多飲多尿を症状として示す病気は他にもたくさんあるため、その鑑別が必要です。
また、尿が非常に薄くなります。
見た目の色も黄色みが薄く、水の様に透明であることでもわかりますが、客観的には尿の薄さは尿検査で比重を測って評価します。
暑い時期など、飲水量が環境的に増える時期には多少尿の濃さが薄くなることがありますが、尿崩症の場合は常に低比重尿が持続します。
多飲多尿であるにもかかわらず、自由に水分が摂れないような状況になってしまうと、非常に強い脱水が起こり、体の電化質のバランスがくずれることから神経症状がみられることがあり、それが長期にわたると致命的になることもあるため、注意が必要です。
猫の尿崩症の原因とは
先天的な異常によっておこります。
抗利尿ホルモンは脳の視床下部という部分で合成され、下垂体で蓄えられ、必要に応じて分泌されます。
犬猫の視床下部や下垂体に先天的な異常があって発症する「中枢性尿崩症」は、報告はありますが非常にまれです。
腫瘍や外傷によっておこります。
下垂体にできる腫瘍や、その腫瘍に対する治療(放射線療法あるいは外科療法)の結果として、または交通事故などの外傷に伴って発症する場合もあります。
腎臓の異常によっておこります。
抗利尿ホルモンは正常に分泌されていても、それが作用する腎臓の側に問題があると、その効果が発揮されずに「腎性尿崩症」を起こす場合があります。
代表的なものは、慢性腎臓病、腎盂腎炎などです。
猫の尿崩症の好発品種について
好発する品種はありません。
尿崩症の発生自体が稀であり、好発品種は特にありません。
猫の尿崩症の予防方法について
腎疾患などに注意しましょう。
中枢性尿崩症を予防する方法はありません。
「腎性尿崩症」に対しては、猫で多いとされる腎臓病などに注意することで、重度の腎臓病になる前に治療することが重要です。
そのためには定期的に健康チェックや尿検査を受け、特にシニア期には食事内容などを見直す必要があります。
猫の尿崩症の治療方法について
自由に飲水させ、特に投薬などを行わない方法もあります。
尿崩症の治療は2通りです。
一つは、特に投薬などは行わず、飲みたいだけ自由に水を飲ませ、自由に排尿させるという方法です。
排尿が多いことが問題にならない場合や、投薬治療は経済的に難しいという場合に選択されます。
ただし、飲水量に関わらず尿はとめどなく出ますので、自由に飲水できないような状況になってしまうと、重度の脱水から命の危険があります。
常に水が供給されていることが重要なポイントです。
猫を残して留守にする場合や、猫自身が体を自由に動かせないような状況では、特に注意が必要です。
抗利尿ホルモンの補充で治療します。
多尿が尿失禁につながり、生活に支障をきたすような場合や、猫が自由に飲水できないような環境での生活を余儀なくされている場合には、投薬治療を行います。
使用するのは抗利尿ホルモンであるバソプレシンの製剤(ピトレシン)、あるいはバソプレシンの前駆物質であるデスモプレシンというお薬です。
経口薬と点鼻薬がありますが、多くの場合は点鼻薬を点眼薬として使用します。
治療を行うと顕著に飲水量が減りますが、薬の効果が出るまでの間(2~6時間)には多飲の症状が出ることがあり、その間にたくさんの水を飲むと水中毒になることがあるため、注意しなければなりません。
投薬は一生涯必要となり、定期的に尿比重の検査を行うことで経過を観察していきます。