猫の肛門嚢炎とは
肛門嚢が化膿し腫れてしまった状態です。
肛門嚢とは、肛門を挟んで左右に一対存在する、小さな袋状の組織です。
人にはありませんが犬猫や他のいくつかの哺乳動物にはあり、中には分泌された臭いの強い液体が貯留しています。
この液体はマーキングなどに使われていると考えられています。
液体の性状は個体ごとに異なり、サラサラの液体状の場合もあれば、泥状であったり、粘土のように少し硬めの場合もあります。
また液体の中に粒状の塊が混ざっていることもあります。
肛門嚢はしずく型をしており、出口は細い管状となって肛門の左右に開口しています。
普段は排便時に便が通過する際に、肛門周囲の筋肉に圧迫されて少しずつ便とともに排出されていますが、開口部が詰まってしまったり、中の液体の粘性が高い、あるいは粒状のものが混ざっているためになかなか排出されずにいると、炎症を起こし、膿が溜まってしまうことがあります。
これが肛門嚢炎です。
初期には腫れているだけですが、つまりが取れないまま進行すると肛門嚢が破裂して皮膚に穴が開いてしまいます。
穴が開くと血の混ざった膿がお尻の周囲に漏れ出し、猫はお尻を気にするようになり、ザラザラの舌で舐めることによって皮膚が削れて穴がどんどん大きくなり悪化してしまいます。
日ごろからお尻の様子をチェックし、肛門嚢が溜まりやすい子の場合は定期的に絞り出してあげる処置が必要です。
猫の肛門嚢炎の症状とは
お尻を気にする様子がみられます。
肛門嚢に液が溜まってくると、猫はお尻を気にするようになり、お尻を床にこすりつけたり、しきりに舐めるようになります。
短毛種ではお尻の斜め下が何となく膨らんでいるのがわかることもありますが、通常は被毛が生えているため、触ってみなければわかりません。
溜まった肛門嚢液が排出できずにいると、肛門嚢はパンパンになり、炎症を起こし、化膿します。
すると元気や食欲がなくなってしまうことがあります。
さらに進行すると、肛門嚢が破れ、皮膚に穴が開き、中に溜まった膿が血と混ざって排出されます。
お尻の周りは血膿で汚れ、猫はしきりに舐めようとしますが、猫の舌はザラザラしているために舐めることによって薄く弱くなった皮膚が削れ、穴が大きくなってしまいます。
できれば破裂する前に気づき、肛門嚢液を絞り出したり、肛門嚢の出口の詰まりを解消する何らかの処置をしてあげたいところです。
猫の肛門嚢炎の原因とは
肛門嚢の開口部の詰まりが原因です。
肛門嚢は肛門の粘膜と皮膚の境界部あたりに細い管を伸ばして開口しています。
この部分に炎症が起こったり、あるいは肛門嚢液の粘性が高いことなどによって詰まりが生じてしまうと、自然に液が排出できなくなり、肛門嚢液はどんどん溜まってしまいます。
中には何度も肛門嚢炎を繰り返しているうちに、管や開口部が狭窄してしまっている場合もあります。
また、肛門周囲にできる腫瘍などが原因で開口部が狭くなってしまうこともあります。
細菌感染によっておこります。
肛門嚢に細菌が侵入することでも肛門嚢炎を起こすことがあります。
猫の肛門嚢炎の好発品種について
全猫種で好発します。
どんな猫でも起こりうる疾患です。
肥満猫や高齢猫では肛門周囲の筋力低下から発症することもあります。
猫の肛門嚢炎の予防方法について
定期的にチェックして溜まっていたら絞ってもらうようにしましょう。
肛門嚢は、場所さえわかれば飼い主さんが溜まり具合をチェックすることできます。
尻尾の付け根を軽く持ち、真上に持ち上げた状態にするとわかりやすく、肛門を時計に見立てて4時と8時の方向にしずく型の肛門嚢があります。
通常はかすかに触れる程度ですが、ぷくっと大きく膨れている場合は貯留傾向ですので、一度病院でチェックを受け、必要であれば絞ってもらうようにしましょう。
慣れれば自宅でも絞ることは可能ですが、中の液は非常に臭いが強く、家具などに付着するとしばらく臭いが取れません。
また、肛門嚢を絞られることは猫にとっては嫌なことなので、飼い主さんが無理してしようとすると関係性が悪くなってしまう可能性もあります。
このような理由から、無理して自宅で処置せず、トリミングに連れて行った際や動物病院で絞ってもらうことをお勧めします。
猫の肛門嚢炎の治療方法について
破裂する前の段階であれば圧搾や薬液注入で治療します。
肛門嚢に液がたくさん貯留し、破裂する前の段階であれば、病院で絞り出してもらうことで解決します。
しかし、中の液が少し化膿している場合や、開口部が炎症などによって詰まり傾向が見られる場合、肛門嚢を絞った後に薬液を注入して1~2週間後に再びチェックします。
開口部が完全に詰まっている場合には閉塞を解除します。
非常にたくさんの液が貯留しているのに、肛門嚢を絞り出すことができない場合は、開口部が詰まっているということです。
先が丸い細いカテーテルやゾンデといわれる器具を使って、その詰まりを解除してあげることが必要です。
開口部の詰まりが処置をしても全く取れず、どうしても絞り出すことができない場合、肛門嚢を小さく切開して内容物を出す場合もあります。
切開によって液が排出されるため、一時的には状態は改善しますが、開口部の詰まりが取れなければいずれまた同じ状態に陥ってしまいます。
肛門嚢が破裂してしまった場合には傷の洗浄・消毒が必要です。
既に肛門嚢が破裂してしまった場合には、周囲の毛をきれいに刈り、破裂した傷口から肛門嚢の中をきれいに洗浄してお薬を入れます。
また、肛門嚢の開口部をチェックし、つまりがあればそれを開通させる処置を行います。
破れた皮膚は消毒処置を繰り返すうちに数日で塞がりますが、傷が治るまでは抗生物質の内服と消毒処置を繰り返し、猫自身が舐めることができないようにエリザベスカラーを装着します。
傷が治った後も、再発することが多いため、定期的に肛門嚢のチェックを行い、必要に応じて絞ってもらうようにしましょう。
何度も再発する場合には肛門嚢の摘出を検討します。
何度も肛門嚢の破裂を繰り返したり、肛門嚢の開口部が完全に詰まってしまっており開通させることができない場合には、最終手段として肛門嚢を摘出する手術を行うことがあります。