猫の上皮小体機能低下症とは
上皮小体から分泌されるホルモンが不足する病気です。
上皮小体とは、頚部にある甲状腺に寄り添うように位置する数mmの小さなホルモン分泌器官です。
左右に2個ずつ、合計4個存在し、時には甲状腺の中に埋もれるように存在します。
上皮小体機能低下症とは、上皮小体から分泌されるホルモンが不足することにより、体のカルシウムとリンのバランスがうまく調節できなくなる病気です。
猫で起こる上皮小体機能低下症の原因は大きく2つで、一つは原発性、もう一つは甲状腺機能亢進症の治療として甲状腺を摘出した後に起こるものです。
原発性の上皮小体機能低下症はほとんど見られず、多くは甲状腺摘出術に伴って起こります。
カルシウムは生体内で細胞が正常に働くために必要な成分ですが、上皮小体ホルモン不足により低カルシウム血症を起こすと神経筋骨格系の働きに異常が生じ、痙攣や昏睡状態など命に関わる状態に陥ってしまいます。
しかし、状態をしっかり把握して適切に治療を行えば、予後は比較的良好です。
猫の上皮小体機能低下症の症状とは
低カルシウム血症に伴う症状がみられます。
上皮小体機能低下症では、カルシウム濃度が下がることによって神経筋骨格系がうまく働かなくなり、以下のような症状が見られます。
・食欲低下
・活動性の低下
・流涎
・頭を壁に押し付ける
・痙攣発作
・昏睡
・振戦
・歩き方がおかしい
・白内障
上皮小体機能低下症では低カルシウム血症と高リン血症が起こりますが、上記のような症状はカルシウムが重度に低下することによっておこります。
低カルシウム血症は治療されずにいると、命を落とす危険があります。
猫の上皮小体機能低下症の原因とは
原発性のタイプは猫ではあまり見られません。
原発性上皮小体機能低下症とは、上皮小体の形成不全や萎縮によってホルモン分泌が低下して起こるものです。
猫ではこのタイプは非常に少なく、ほとんど報告がありません。
甲状腺切除術後に起こることがあります。
高齢猫で起こりやすいホルモン疾患に甲状腺機能亢進症という病気があります。
この病気は甲状腺から出るホルモンが過剰になることで、高血圧や体の異常な消耗を起こす病気ですが、治療として甲状腺を摘出する手術を行うことがあります。
上皮小体は甲状腺と非常に近接しており、中には甲状腺に埋もれるような形で存在していることもあるため、手術の際に上皮小体を温存することができず上皮小体も一緒に切除されてしまいます。
その結果、上皮小体ホルモンが不足してしまいます。
猫で起こる上皮小体機能低下症の多くはこのタイプです。
その他の原因もあります。
頚部にできた腫瘍による上皮小体の破壊や、外傷によって上皮小体が損傷し、ホルモン分泌の低下が起こることがあります。
また、免疫異常によって上皮小体の萎縮が起こる場合もあるようです。
猫の上皮小体機能低下症の好発品種について
好発する品種はありません。
特にありません。
猫の上皮小体機能低下症の予防方法について
上皮小体をできるだけ温存して手術することが理想です。
原発性の上皮小体機能低下症を予防する方法はありません。
甲状腺切除術に伴うものを予防するには、できるだけ上皮小体を温存して手術を行うことですが、上皮小体が甲状腺に埋もれている場合には、上皮小体を識別することすら難しく、現実的には難しくなります。
猫の上皮小体機能低下症の治療方法について
低カルシウム血症には緊急治療を行います。
低カルシウム血症によって痙攣などの症状が見られ、立つことができないような場合、緊急治療が必要となります。
まずは発作症状をお薬で抑え、静脈点滴でカルシウムの補充治療を行います。
しかし、カルシウムの補充は急激に行うと不整脈が起こってしまうため、心電図で状態をチェックしながらゆっくりと行わなくてはなりません。
数日間、点滴でカルシウムを補給し、状態が安定したら自宅での内服薬投与に切り替えることができます。
状態が安定したら維持治療へ切り替えます。
上皮小体機能低下症の治療は、カルシウムとビタミンDの補給を行うことです。
どちらも内服できる製剤があり、経口投与で治療できます。
治療の初期にはカルシウム剤とビタミンD製剤の両方が必要ですが、通常の食事にはカルシウムは十分に含まれているため、安定期に入ったらカルシウム剤は減量していき、最終的には必要なくなります。
一方、ビタミンD製剤は生涯投与が必要です。
ビタミンDは腸管からのカルシウムの吸収を促す作用があります。
ヒトは紫外線を浴びることでビタミンDを体内で生成することができますが、猫はできないとされています。
そのため、食事や内服薬としての補給が不可欠になります。
上皮小体機能低下症の場合、投与量は徐々に減らすことができますが、完全にやめてしまうと再び低カルシウム症状が現れてしまいます。