猫の上皮小体機能亢進症とは
大きく3つの病態があります。
上皮小体とは、副甲状腺とも呼ばれ、喉にある甲状腺に寄り添うように左右対称性に2個ずつ存在する、小さなホルモン分泌器官です。
上皮小体はパラソルモンというホルモンを分泌し、血液中のカルシウムの濃度を上昇させるために腎臓や腸、骨に働きかけます。
カルシウムの濃度は、正常に保たれないと神経や筋肉、細胞の働きに異常を生じます。
高すぎても低すぎても良くありません。
また、カルシウム濃度はリンの濃度とも密接に関連しています。
正常な体の中では、カルシウムの濃度やリンの濃度に合わせて、パラソルモンなどのホルモンの分泌量を変え、体が正常に機能するようにカルシウム濃度が調整されています。
上皮小体機能亢進症とは、上皮小体から出るホルモンが過剰になっている状態をさします。
これには大きく分けると以下のような3つの病態があります。
・原発性上皮小体機能亢進症
・栄養性二次性上皮小体機能亢進症
・腎性二次性上皮小体機能亢進症
これらは発症機序が異なり、現れる症状や治療方法にも少し違いがあります。
猫では原発性上皮小体機能亢進症が起こることは稀で、質の良いペットフードが多く販売されるようになった現代では栄養性二次性上皮小体機能亢進症もあまり見られません。
しかし、高齢猫では慢性腎臓病が多いため、腎性二次性上皮小体機能亢進症は一般的に見られます。
猫の上皮小体機能亢進症の症状とは
原発性上皮小体機能亢進症では高カルシウム血症になります。
原発性上皮小体機能亢進症では、パラソルモンの過剰分泌により血液中のカルシウム濃度が高くなり、高カルシウム血症による臨床症状が見られます。
主に見られる症状には以下のようなものがあります。
・多飲多尿
・食欲不振
・元気消失
・嘔吐
・下痢
・震え
・神経過敏
・血尿(尿路結石)
・寝てばかりいる(嗜眠)
・虚弱(筋肉の萎縮)
神経や筋肉の異常だけでなく、血液中のカルシウム濃度が高くなることにより、尿に排泄されるカルシウム濃度も高まり、尿石症(結晶尿や結石)による膀胱炎症状も見られることがあります。
栄養性二次性上皮小体機能亢進症では骨からカルシウムの脱灰が起こります。
食餌からのカルシウム、リンの摂取不足などにより、パラソルモンの作用によって骨からカルシウムを動員してカルシウム濃度を上げようとする反応が起こるため、骨が弱くなり、歩き方などに異常が見られます。
主に見られる症状は以下の通りです。
・歩くのを嫌がる
・ぎこちない歩き方
・骨の痛み
・跛行(びっこをひいてあるく)
・四肢の変形
・病的骨折
・歯牙の喪失
・痙攣
・震え
腎性二次性上皮小体機能亢進症の症状は慢性腎臓病の症状と重複します。
症状は主に慢性腎臓病によってみられるものです。
・食欲不振~食欲廃絶
・元気消失
・多飲多尿
・嘔吐
・下痢
・神経症状
・脱水
高カルシウム血症の症状と慢性腎臓病の症状は重なる部分があるため、血液検査をするまで二次性上皮小体機能亢進症が起こっていることに気づくことができません。
しかし、腎臓病の経過チェックとして定期的に検査を受けていれば、見逃すことも多くはありません。
猫の上皮小体機能亢進症の原因とは
原発性上皮小体機能亢進症は腫瘍によっておこります。
原発性上皮小体機能亢進症では、上皮小体の良性腫瘍や、時に悪性腫瘍によっておこります。
猫での発生は非常に稀です。
栄養性二次性上皮小体機能亢進症は栄養の偏りによっておこります。
食事内容の偏りによっておこります。
食事中のカルシウムやリンの濃度が不足していたり、バランスが悪い状態が長く続くと、血中のカルシウム濃度が不足するために上皮小体はパラソルモンを持続的にたくさん放出するようになります。
このパラソルモンが骨に働きかけることによって、不足分を補うために骨からカルシウムを動員しようとするために骨が弱くなり、骨折や骨の変形が起こり、症状として歩行異常が見られるようになります。
腎性二次性上皮小体機能亢進症は腎臓病の進行によっておこります。
慢性腎臓病が進行すると、腎臓で活性型ビタミンD3の合成が低下することで、腸からのカルシウム吸収が低下し、また腎臓からのリンの排泄も低下します。
これらによって低カルシウム血症や高リン血症になると、上皮小体からのパラソルモンが持続的に分泌されるようになり、腎性二次性上皮小体機能亢進症が起こります。
猫の上皮小体機能亢進症の好発品種について
好発する品種はありません。
特定の品種に対する好発傾向は特にありません。
腎性二次性上皮小体機能亢進症は高齢猫によく見られます。
猫の上皮小体機能亢進症の予防方法について
バランスの良い食事で予防できます。
今では少なくなりましたが、ホームメイド食などで偏った食事管理をしていると栄養性二次性上皮小体機能亢進症になりやすいとされています。
特に成長期に肉ばかりの食事などを与えることは良くありません。
栄養成分のバランスが取れた、ライフステージに合った総合栄養食などの食事を与えるようにしましょう。
中高齢期には腎臓ケアに配慮しましょう。
猫は慢性腎臓病の発生が非常に多い動物です。
中・高齢期には定期的に尿検査や血液検査を受け、腎臓病の兆候を早期に発見するとともに、時々食事内容を見直し年齢に合った腎臓への負担が少ない食事を与えるようにしましょう。
腎臓病は、重症化する前に積極的にケアをすることで効果的に進行を抑制できます。
猫の上皮小体機能亢進症の治療方法について
原発性上皮小体機能亢進症では腫瘍の切除を行います。
根本的な治療としては、腫瘍を切除することが必要です。
しかし、高カルシウム血症によって全身状態が非常に悪い場合は、まずそれに対する対症療法を行います。
治療としては静脈点滴を行い、カルシウムの排泄を促します。
必要に応じて利尿剤やステロイド剤などで尿へのカルシウムの排泄を促進しながら、高カルシウム血症による痙攣などの症状が消失するレベルまで治療を継続します。
点滴で一旦状態が安定しても、腫瘍が存在する限り高カルシウム血症は持続してしまうため、安定した段階で手術を検討します。
上皮小体は全部で4個あり、腫瘍化している上皮小体が1個だけの場合はそこだけの切除を行います。
術後は高カルシウム血症が徐々に改善しますが、中には逆に低カルシウム血症となってしまう場合もあるため、注意が必要です。
低カルシウム血症は初期にはカルシウム剤やビタミンD製剤の補給が必要ですが、残された上皮小体の機能が回復してくると投薬はやがて必要なくなります。
栄養性二次性上皮小体機能亢進症では食事の変更が必要です。
栄養バランスの取れた良質な総合栄養食を与えることが治療になります。
食事を変更してもなかなか改善しない場合には、補助的にビタミンD製剤の投与を行います。
腎性二次性上皮小体機能亢進症の治療は腎臓病に対する治療を行うことです。
腎臓病が進行すると腎性二次性上皮小体機能亢進症も進行するため、基本的には腎臓病の治療を積極的に行うことが腎性二次性上皮小体機能亢進症の治療になります。
慢性腎臓病では血中のリンの濃度が高くなることが非常に多いため、リンの含有量が制限された腎臓病対応食を与えます。
それでも効果が十分に出ない場合は、リンの吸着剤を経口投与し、リンの吸収量を抑制します。
同時に慢性腎臓病の治療として、血管拡張剤や脱水に対する皮下点滴などを行い、腎臓病の進行をできるだけ抑制する治療を行います。