猫の網膜剥離とは
高血圧などが原因で網膜が剥離してしまうことがあります。
網膜剥離は視覚に対する緊急疾患です。
猫では高齢猫の高血圧症などから発症することが多いですが、外傷や緑内障などの他の眼の病気の結果としても起こることがあります。
網膜は眼球の中を内張する、目から入った映像を感知する膜です。
眼から入った映像は、水晶体を通った後、網膜に映し出されることで認識され、視神経を介して脳に伝達されます。
網膜は細かく分類すると10層からなる膜ですが、この中の最も外側の網膜色素上皮という部分と、そこより内側の感覚網膜の間で剥離が起こります。
剥離が起こる範囲が大きければ大きいほど、視野の欠損範囲も大きくなり、全部剥離してしまうと失明してしまいます。
しかし広範囲に剥離が起こっても、早期に治療できれば視覚の回復は可能です。
網膜は眼の中にあるため、剥離を早期に見つけるのは容易ではありませんが、網膜剥離に伴って現れる目の症状を覚えておき、網膜剥離に発展しやすい疾患にかかっている場合には定期的に目のチェックをすることで視覚喪失を回避してあげましょう。
猫の網膜剥離の症状とは
視覚障害が現れます。
網膜剥離を起こすと剥離した範囲の大きさに応じた視覚の障害が現れます。
部分的に小さな剥離が起こった場合はあまり視覚に影響がないこともあるため、症状から網膜剥離を疑うことは難しいですが、広範囲~全剥離した場合には視覚が広範囲に障害されるため、以下のような様子が見られます。
・ものにぶつかって歩く
・ふらふら歩く
・動きたがらない
・ごはんの場所がわからない
しかし、網膜剥離が片方の眼だけに起こった場合、もう片方の眼で視覚が維持されるため、顕著な症状が出ず、気付かないことも多いようです。
眼に見られる変化に気をつけましょう。
網膜が剥離することによって眼の中でも炎症や出血などの変化が見られます。
それに伴って、眼には以下のような変化が見られます。
・瞳孔が開きっぱなしになる(まぶしい光にも反応しない)
・眼の奥に膜状のものが垂れているのが見える
・眼の中に出血がある(眼の奥が赤い)
片側だけに起こった場合、眼の左右の違いによって気づくことができます。
網膜が剥離しても痛みはあまり出ないため、食欲などにはあまり変化は見られませんが、眼にこのような異常が見られたら直ちに病院へ連れて行きましょう。
猫の網膜剥離の原因とは
全身性の疾患によっておこります。
眼は非常に血管分布が豊富で、高血圧の影響を受けやすい器官です。
高齢の猫で多い甲状腺機能亢進症や慢性腎臓病では高血圧になることが多く、高血圧から眼底出血を起こし網膜剥離を起こす場合が多くなります。
他には糖尿病などによって網膜が変性することでも発症しますが、ヒトで見られるほど猫では多くありません。
眼の疾患に続発しておこります。
緑内障や白内障、ブドウ膜炎、進行性網膜萎縮などといった、眼の他の病気がもとで眼の中の炎症や出血が起こり、網膜剥離を起こしてしまう場合もあります。
また、白内障の手術後の合併症として起こってしまう場合もあります。
外傷性にもおこります。
外傷などで眼に強い衝撃が加わった際にも発症することがあります。
猫の網膜剥離の好発品種について
好発する品種はありません。
特にありません。
猫の網膜剥離の予防方法について
基礎疾患に対する治療で高血圧を防ぎましょう。
猫の網膜剥離の多くは、高血圧に関連して起こります。
高血圧を起こす基礎疾患(甲状腺機能亢進症や腎臓病)を治療・管理し、高血圧をコントロールすることが予防になります。
定期的に目のチェックを受けましょう。
網膜剥離に関連する疾患を抱えている猫では、定期的に眼底のチェックを行うことをお勧めします。
網膜剥離が起こっても痛みの症状はほとんどないため、小さな網膜剥離が起こっている場合には視覚障害があまり顕著ではなく、進行するまで気づくことができません。
しかし、定期的にチェックすることで早期に発見できれば、それだけ早く対処することができ、進行を抑えることができます。
猫の網膜剥離の治療方法について
基礎疾患に対する治療を行います。
高血圧や糖尿病によって網膜剥離が起こった場合、血圧のコントロールや血糖値のコントロールを行うことが重要です。
甲状腺機能亢進症では抗甲状腺薬の投与、腎臓病では血管拡張薬や降圧薬の投与、糖尿病ではインスリン治療などによって、基礎疾患の治療を行います。
内科疾患の管理が良好になることで視覚が回復する場合もあります。
眼の疾患についても同様で、それぞれの疾患に対して点眼薬や内服薬での治療を行います。
レーザー凝固治療を行います。
剥離してしまった網膜を、レーザー治療で凝固する(再接着させる)治療です。
この方法は眼の表面から特殊なレンズを介してレーザーを照射し、はがれた網膜をレーザーで留めていくため、眼球にメスを入れることはありませんが、全身麻酔が必要な処置となります。
対象となる症例や治療できる診療施設は限られますので、眼科専門病院を紹介してもらう必要があります。
眼内手術は眼科専門医への受診が必要です。
眼の中にはゼリー状の硝子体という液体が満たされています。
この硝子体に異常が生じ、網膜を引っ張って剥離が起こっている場合や、広範囲に網膜剥離が起こっている場合、硝子体を一度取り除き、代わりにシリコンオイルを満たして網膜をレーザーで凝固する網膜硝子体手術を行うことがあります。
非常に専門性の高い手術のため、実施できる病院はさらに限られます。
視覚回復が難しい場合にも疼痛を管理する治療が必要です。
網膜剥離が起こってからしばらく時間が経過している場合、上記のような治療を行っても視覚の回復は難しくなります。
消炎剤などで合併症を予防しつつ管理していくことになりますが、全くの無治療で放置してしまうと続発性の緑内障やブドウ膜炎が起こり、疼痛管理のためにシリコンの義眼挿入や眼球摘出が必要になる場合もあります。