猫の骨髄異形成症候群とは
骨髄で正常な血球が生成されなくなる病気です。
血液のさまざまな血球成分(赤血球、白血球、血小板)は主に骨髄で産生されます。
骨髄の中には幹細胞という未熟な細胞がたくさん控えており、それが様々な細胞に成長(分化)することによって新しい血液細胞が作られます。
骨髄異形成症候群では、この造血系の幹細胞に異常が生じ、異常な幹細胞からは正常な血液細胞が作られなくなることで血球減少症が起こります。
猫では発症した猫の多くに猫白血病ウイルス感染が認められることから、猫白血病ウイルスへの感染が発症に関与していると考えられていますが、猫白血病ウイルスの感染がなくても発症することはあります。
骨髄異形成症候群の猫の中には、後に急性骨髄性白血病に進行してしまう猫もあり、骨髄異形成症候群は白血病の前段階とも考えられています。
治療の前には血液検査や骨髄検査の結果をもとに急性骨髄性白血病に進行するリスクが高いかどうか分類し、それによって治療方法を検討・選択します。
治療としては、免疫抑制療法や場合によっては化学療法(抗がん剤)が行われ、必要に応じて輸血などの支持療法を行います。
猫の骨髄異形成症候群の症状とは
減少する血球の系統によって症状は様々です。
症状は、血液細胞のどの系統が作られなくなるかによって変わります。
赤血球系、白血球系、血小板系の3系統のいずれか1つのみに減少が見られる場合と、2系統あるいは3系統にわたって減少が見られる場合があり、多系統にわたって減少が見られる症例ではそれぞれに対応した治療が必要になります。
血球減少症が起こると、元気・食欲が低下する、疲れやすいなどといった全身状態の低下が見られるほか、各血球の減少に伴って以下のような症状が見られます。
赤血球系の減少
・貧血
・可視粘膜が白っぽくなる
・歩行時のふらつき
・寝てばかりいる
白血球系の減少
・感染症にかかりやすくなる
・発熱
血小板系の減少
・出血傾向(血が止まりにくい)
・皮膚に紫の痣ができやすい
しかし、中にはあまり目立った症状を示さない場合もあり、血液検査で偶発的に発見されることもあります。
猫の骨髄異形成症候群の原因とは
猫白血病ウイルス感染によっておこります。
発症した猫の多くに猫白血病ウイルス感染が認められるため、猫白血病ウイルス感染がこの病気の発症に関与していると考えられています。
しかし、猫白血病ウイルスに感染していない猫でも発症することがあります。
免疫学的な異常が原因である可能性があります。
ヒトの骨髄異形成症候群の発症には、免疫学的な機序が関与していることが示唆されています。
そのため、猫も同様に免疫学的な機序が存在すると考えられていますが、詳細は明らかになっていません。
猫の骨髄異形成症候群の好発品種について
好発する品種はありません。
特にありません。
猫の骨髄異形成症候群の予防方法について
室内飼育と感染予防を行いましょう。
発症に関連していると考えられる猫白血病は、感染猫との濃厚接触(唾液や血液などの体液を介して)によって感染します。
できるだけ感染している猫との接触を避けるために、室内飼育を心がけ、多頭飼育下の猫に猫白血病ウイルスに感染している猫がいる場合には、濃厚接触を避けるために生活環境を分けることが賢明です。
また、感染リスクがある場合には予防接種をして免疫を付けておくことも重要です。
猫の骨髄異形成症候群の治療方法について
免疫抑制療法を行います。
血液検査や骨髄検査の結果、将来的に急性骨髄性白血病に進行するリスクが低いと考えられる場合(低リスク群)には、免疫抑制剤による治療を行います。
使用されるお薬はステロイド剤や免疫抑制剤です。
初期にはステロイド剤で治療を行い、治療効果が認められた場合には用量を徐々に減量していきます。
ステロイド剤だけでは治療効果が不十分な場合、あるいはステロイド剤の副作用が強く現れてしまった場合などには、免疫抑制剤を併用して治療を行います。
いずれの治療の場合も免疫を強く抑制するため、治療中は感染症に対して注意が必要です。
特に白血球が減少するタイプでは細菌感染などが起こりやすいため、抗生物質なども同時に投与される場合があります。
治療を開始した場合には外には出さず、他の猫との接触を避けることが賢明です。
化学療法が必要な場合もあります。
急性骨髄性白血病に進行するリスクが高い場合(高リスク群)は、白血病への移行段階であると考えられ、抗がん剤を使用した化学療法がおこなわれます。
(ヒトでは骨髄移植が第一選択ですが、猫では困難で実施されていません)
高リスク群の中でも比較的リスクが低いと考えられる場合には、低用量の化学療法を行いますが、白血病に進行する可能性が極めて高い場合には高用量の化学療法が必要になります。
化学療法を実施する際は、副作用による消化器症状や感染症などに注意が必要です。
免疫抑制療法の場合と同様に抗生物質の投与を併用したり、外には出さないなどといった配慮が必要です。
支持療法として輸血も検討します。
上記の治療に加え、血球減少症が直ちに命を脅かすようなレベルにまで達している場合には、輸血を行うことを検討します。
輸血を行うと、不足している血液成分を急速に補うことができます。
しかし血球にはそれぞれ寿命があるため効果は一時的で、再び血球が減少してしまう前に治療を行うことが必要です。
また、猫には血液バンクがないため、輸血の度にドナーを探し、血液が合うかどうかの検査を行うことが必要です。
その他には止血や造血に関わるビタミンや、造血に関わるホルモンの投与などが行われることもありますが、その効果は症例によって様々で、すべての発症猫に劇的に効果が得られるものではありません。