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執筆獣医師:齋藤厚子先生
[記事公開日]  [最終更新日]
[ 目次 ]

猫の顔面神経麻痺とは

顔の筋肉が動かせなくなります。

顔面神経麻痺とは、その名の通り顔に分布する顔面神経に異常が起こり、麻痺してしまうことによって顔の筋肉をうまく動かすことができなくなる病気です。

顔面神経は脳から分岐する7番目の脳神経の一つで、頭蓋骨の中で脳から分岐した後、顔を構成する様々な筋肉や器官に分岐してその運動を支配しています。
顔面の筋肉、涙腺、唾液腺、中耳の血管を神経支配し、三叉神経という神経とともに舌の前側2/3も支配しています。

顔面神経麻痺がおこると、顔の表情筋が麻痺して動かなくなり、瞬きや口唇、舌の動きに異常がみられ、顔が左右非対称になります。
また、自分で瞬きができないことから、目の表面が乾いて角結膜炎などを起こし易くなります。

顔面神経麻痺には原因となる基礎疾患が存在することが多いですが、原因不明の特発性顔面神経麻痺の場合は角膜の乾燥に対するケアと食事の補助等、対症療法を行うことしかできません。

神経の麻痺は徐々に回復する場合もあれば、生涯麻痺が残ってしまう場合もあり、症例によって様々です。

猫の顔面神経麻痺の症状とは

顔の筋肉が麻痺します。

顔面神経が麻痺すると、以下のような症状が現れます。

・瞬きができない
・涙の分泌低下
・唇を動かせない
・唾液の分泌障害
・耳を動かせない
・病変側の口唇や頬が下垂する(猫ではわかりにくい)

瞬きがしっかりできない上に涙の分泌が低下するため、眼の表面が乾きやすくなり、それによって角膜炎や角膜潰瘍などを発症することが多くなります。(乾性角結膜炎)
そのため、顔面の麻痺としてではなく眼の異常を主訴に病院を受診する場合も多くみられます。

症状は多くの場合急性に発症し、片側性のことが多いですが、稀に両側性の場合もあります。
片側だけに発症した場合は顔が左右非対称になるために異常に気付きやすくなります。

猫の顔面神経麻痺の原因とは

特発性に起こります。

猫の顔面神経麻痺のうち25%は原因不明の特発性です。
可能性のあるほかの疾患を除外することで、特発性顔面神経麻痺と診断されます。

基礎疾患の存在によっておこります。

顔面神経は以下のような他の疾患の影響によって機能不全を起こすことがあります。

・甲状腺機能低下症
・重症筋無力症
・中耳炎、内耳炎
・中耳、内耳の腫瘍
・脳幹の疾患(腫瘍や炎症)

このような原因が存在する場合には、他の神経兆候(ホルネル症候群や斜頸など)も同時に認められることがあります。

診断にはCTやMRI等の特殊な検査設備が必要になることがあるため、検査のために大学病院などを紹介されることもあるかもしれません。

外傷や手術によっておこります。

外傷によって顔面神経を損傷したり、耳の周囲の手術時に神経に炎症や損傷が起こった場合の後遺症として顔面神経麻痺が起こることがあります。

猫の顔面神経麻痺の好発品種について

好発する品種はありません。

特にありません。

猫の顔面神経麻痺の予防方法について

耳の定期チェックで耳の異常を早期発見しましょう。

中耳炎や耳道内の腫瘍などが原因で顔面神経麻痺がおこることがあります。

中耳や内耳は外からは確認できませんが、外耳炎の悪化から中耳炎になる場合も多いため、時々耳のチェックをすることで耳の炎症が悪化する前に治療すれば、顔面神経に麻痺が起こるような事態は回避できます。

猫の顔面神経麻痺の治療方法について

原因疾患を治療します。

顔面神経麻痺にはさまざまな基礎疾患が関わっていることがあります。
その場合には基礎疾患を治療することで神経の炎症や圧迫が解除され、症状が回復することがあります。

しかし中には基礎疾患が良化しても顔面神経の麻痺だけが残ってしまう場合もあります。

特発性の場合は経過観察します。

原因が特定できない場合は、無治療で経過観察を行います。

神経の働きを補助するビタミン剤や神経賦活剤などを処方されることもありますが、劇的な効果が期待できるものではありません。
顔面の筋肉が拘縮してしまうのを予防するために顔面のマッサージなどを行うこともあります。

無治療のままでも数カ月で症状が徐々に改善するものもあれば、生涯麻痺が残ったままになる症例もあり、予後は様々です。

乾性角結膜炎のケアは重要です。

顔面神経麻痺が生じた際に最も問題となるのは、眼への影響です。
顔面神経麻痺から乾性角結膜炎を起こし、重症化すると角膜潰瘍になってしまいます。

その為、対症療法として角膜保護剤の頻回点眼や眼軟膏による保湿・保護を行います。

食事の補助が必要です。

口唇や舌の動きも鈍くなることから、食べこぼしが増えたり、食事を口にためたままになってしまいがちです。
その為、食事内容を変更して飲み込みやすいものにしたり、食事の際には飼い主さんの補助が必要になります。

口の周りも汚れがちになり皮膚炎などを起こしやすくなってしまうため、こまめにふき取り、衛生状態を保つようにしましょう。

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