猫の脊髄腫瘍とは
脊髄そのものや脊髄周囲に腫瘍ができます。
脊髄とは、脳からつながる太い神経の管です。
背骨(椎骨)の中を通って頭の付け根から腰のあたりまで四肢や内臓に分岐する枝を出しながら伸び、最後方では馬の尻尾の様に枝分かれして尻尾や下肢、骨盤内の臓器に分布する神経として分布します。
脳は脊髄を介して四肢や臓器に指令を出し、四肢を動かしたり臓器を正常に働かせています。
この脊髄自体や、脊髄が存在する脊髄腔内にできる腫瘍を脊髄腫瘍といいます。
脊髄が腫瘍細胞に侵されたり、腫瘍に圧迫されることよって神経の働きに障害が生じ、麻痺や運動障害が起こるとともに、腫瘍による疼痛などが現れます。
脊髄腫瘍にはいくつか種類がありますが、猫で最も多く認められるのはリンパ腫で、他には髄膜腫や転移性の腫瘍などがあります。
症状や神経学的な検査から脊髄の問題が疑われた場合、確定診断のためにはCT検査やMRI検査が必要となり、検査可能な高度医療設備がある病院を受診する必要があります。
猫の脊髄腫瘍の症状とは
痛みと運動障害がみられます。
脊髄腫瘍では、腫瘍が脊髄を圧迫することによって直接的な痛みが出る他、圧迫された脊髄や分岐した神経が支配する体の器官に機能障害や麻痺が起こります。
脊髄腫瘍があるときに見られる症状には以下のようなものがあります。
・背部痛
・運動失調(ふらつきなど)
・麻痺
・脱力
・元気消失
・食欲低下
・排泄障害
・呼吸障害
初期症状はふらつきなど、うまく歩けないという程度ですが、腫瘍の成長とともに脊髄への圧迫が強くなると、次第に進行して麻痺が起こります。
症状がどこに出るかは脊髄のどこに病変があるかによって異なります。
脊髄の下方(尻尾側)に近ければ近いほど症状の出る範囲は狭く、上方(頭側)に近いと前肢・後肢にわたって症状が現れ、左右どちらかに偏って腫瘍が形成されている場合には腫瘍がある側だけに症状が現れることもあります。
麻痺は四肢の動きだけでなく、内臓(膀胱など)にも起こるため、自力排尿・排便が困難となり、排尿の介助などが必要になることもあります。
特に注意が必要なのは頚髄の腫瘍で、四肢の麻痺に加え呼吸に関わる神経が障害されるため、呼吸機能が低下し危険な状態になることがあります。
猫の脊髄腫瘍の原因とは
リンパ腫の発生が多くみられます。
猫の脊髄腫瘍の多くはリンパ腫です。
リンパ腫は猫白血病ウイルスや猫エイズウイルスへの感染があると発生率が高い腫瘍です。
特に若齢の猫白血病ウイルス感染猫ではリンパ腫の発生率が高いことが知られています。
しかし、これらのウイルスに感染していなくてもリンパ腫になることはあり、その発症機序はわかっていません。
その他の腫瘍も形成されることがあります。
脊髄は硬膜という膜に包まれており、腫瘍がどこにできるかによって大きく分類されています。
それぞれの部位では、以下のような腫瘍がおこります。
・硬膜外腫瘍:硬膜の外にできて脊髄を圧迫する腫瘍
椎骨腫瘍(骨肉腫、軟骨肉腫、骨髄腫、線維肉腫、血管肉腫、未分化肉腫)
リンパ腫、腺癌・肉腫などの転移病変など
・硬膜内髄外腫瘍:硬膜と脊髄の間にできる腫瘍
髄膜腫、末梢神経鞘腫、腎外性腎芽腫、転移性腫瘍など
・髄内腫瘍:脊髄の中にできる腫瘍
神経膠腫、上衣腫、腎外性腎芽腫、リンパ腫、血管肉腫など
それぞれの腫瘍の発生原因もやはり解明されていません。
猫の脊髄腫瘍の好発品種について
好発する品種はありません。
品種による好発傾向は特にありません。
猫の脊髄腫瘍の予防方法について
ウイルス感染を予防しましょう。
リンパ腫に限っては、猫白血病ウイルス感染や猫エイズウイルス感染の関与が確認されています。
そのため、これらのウイルスへの感染を予防することは将来的にリンパ腫を発生するリスクを減らすことにつながります。
これらのウイルスは猫同士の濃厚接触やケンカによる咬傷などから感染します。
感染猫との接触を断つために室内飼育を徹底することや、感染リスクがある場合(同居猫に感染猫がいる場合など)にはワクチン接種で抵抗力をつけておくなど、感染を防ぐ対策をしておきましょう。
猫の脊髄腫瘍の治療方法について
可能であれば外科手術を検討します。
脊髄腫瘍の治療は、切除可能な腫瘍であれば外科手術が適応となります。
硬膜外腫瘍や硬膜内髄外腫瘍で、脊髄自体を巻き込んでいなければ手術による切除が可能ですが、脊髄自体に腫瘍ができる髄内腫瘍の場合には脊髄を切除することはできないため、手術は不適応です。
しかし、手術前にどのタイプの腫瘍かを正確に診断することは難しく、多くの場合はCT検査やMRI検査、脊髄造影検査などで腫瘍の場所やタイプを把握するために、大学病院などを紹介受診する必要があります。
完全切除ができない場合でも、腫瘍の部分切除(減容積)や組織の検査を目的として、または脊髄の圧迫を解除するために行う場合もあります。
放射線治療を行います。
手術できない場合や、手術を希望しない場合、あるいは外科手術の補助治療として放射線治療が実施されます。
腫瘍の種類によっては放射線治療の効果があまり得られないものもありますが、中には腫瘍の根治のためではなく疼痛緩和を目的として行う場合もあります。
放射線治療には毎回麻酔をかけることが必要となり、一般の病院には治療設備がないため、大学病院などの高度医療設備の整った診療施設で実施します。
リンパ腫には抗がん剤治療が適用されます。
猫の脊髄腫瘍で最も多いリンパ腫は、抗がん剤治療に割とよく反応する腫瘍です。
そのため、治療には外科手術ではなく抗がん剤治療単独、あるいは放射線治療と併用して実施され、高い治療効果が得られることがあります。
抗がん剤治療には様々な副作用が現れます。
あらかじめその内容をよく理解しておき、副作用が見られた場合の対処方法を確認しておきましょう。