猫のリンパ腫とは
猫で最も多くみられる造血系の腫瘍です。
リンパ腫とは、血液の免疫細胞の一種であるリンパ球が腫瘍性に増殖することによっておこる病気です。
猫に腫瘍ができた時には、リンパ腫の可能性はいつでも考慮しておかなくてはならないほど猫によくおこる病気で、猫の腫瘍の3分の1は造血系に発生し、造血系腫瘍の半分以上(50~90%)はリンパ腫であるといわれています。
特に猫白血病ウイルスや猫エイズウイルスに感染している猫での発生率が高くなります。
リンパ球は白血球の一種で、骨髄やリンパ節、胸腺、肝臓、脾臓に豊富に存在しますが、血液やリンパ液に乗って全身を巡り体の免疫反応に関わって体を守る働きをしています。
リンパ腫を発症すると腫瘍化したリンパ球が異常増殖し、リンパ節や消化管、腹腔内臓器、皮膚、眼、神経など、体のあらゆる部分に浸潤・腫瘤などの病変を形成し、病変を形成した器官の正常な機能を損なうだけでなく、貧血や削痩など全身状態も悪化させます。
リンパ腫には発生部位や腫瘍化したリンパ球の種類によっていくつかの分類があります。リンパ腫は全身性の腫瘍(造血系腫瘍)のため、治療は主に抗がん剤で行いますが、タイプによっては抗がん剤治療によって長期の予後が比較的良好なものと、治療反応が悪く予後が不良なものがあります。
また、状況に応じて外科手術や放射線治療といった治療も適応となります。
いずれの場合も早期発見・早期治療が重要ですので、猫の体調に異変を感じたら、できるだけ早く病院を受診しましょう。
猫のリンパ腫の症状とは
発生部位によって様々な症状を示します。
リンパ腫は体のどこにでも病変を作る腫瘍です。
リンパ腫を発症すると、一般的状態には以下の様な変化があらわれます。
・食欲不振
・元気消失
・発熱
・寝てばかりいる
・吐く頻度が増える
・軟便~下痢
・体が痩せる
・貧血
これらに加え、発症部位によって下記のような様々な症状が現れます。
多中心型リンパ腫(全身のリンパ節が腫大するタイプ)
・体表のリンパ節が大きく腫れる(猫では比較的稀)
・肝臓、脾臓が大きく腫れる
・腹水や胸水が溜まる など
縦隔型リンパ腫(前胸部にある胸腺に病変ができるタイプ)
・呼吸困難
・多飲多尿
・胸水が溜まる
・食べ物の飲み込みが悪くなる など
消化器型リンパ腫
・頻繁に嘔吐する
・吐物に血が混ざる
・下痢
・黒色便
・血便 など
皮膚型リンパ腫
・皮膚病変(発疹~丘疹、潰瘍)ができる
・皮膚が赤く腫れる など
腎臓型リンパ腫
・多飲多尿
・腎臓に腫瘤ができる
・腎臓が腫れる など
鼻腔内リンパ腫
・鼻炎様症状(くしゃみ、鼻汁、鼻づまり)
・鼻汁に血が混ざる
・顔面の変形(鼻筋の腫れ、眼の圧迫など) など
中枢神経型リンパ腫
・痙攣発作、運動失調、麻痺などの神経症状
・意識が朦朧とする など
上記の他にも、眼や骨など体のあらゆる器官に病変を作る可能性があります。
猫のリンパ腫の原因とは
ウイルス感染が関与しています。
全てのリンパ腫についてではありませんが、縦隔型、多中心型、腎臓型、肝臓型リンパ腫は猫白血病ウイルスの感染と密接な関係があるとされています。
猫白血病ウイルスに関連して発症するリンパ腫の発症年齢は若い傾向にあり、その平均は3歳前後です。
また、猫エイズウイルスの感染もリンパ腫の発生に関連があると考えられており、非感染猫に比べると発症リスクは5倍になるといわれています。
年齢が進んだ、免疫不全期のエイズウイルス感染猫では、消化器型リンパ腫が比較的多く見られます。
有害物質の摂取が関連している可能性があります。
ウイルス以外の原因ははっきりとは解明されていませんが、可能性の一つとして有害物質の摂取が挙げられます。
とくに顕著なものとしてはタバコで、飼い主さんが喫煙者である場合の猫のリンパ腫の発生リスクは3~4倍にアップするともいわれています。
また、犬では除草剤や強力な磁場の影響、都市部で生活することが発症に関与していると報告されており、猫もそれらの影響を同様に受ける可能性が考えられます。
猫のリンパ腫の好発品種について
好発する品種はありません。
特にありません。
どんな猫でも、どんな年齢でも発症する可能性があります。
猫のリンパ腫の予防方法について
ウイルス感染を予防しましょう。
猫白血病ウイルスや猫エイズウイルスは、感染している猫との濃厚接触やケンカによって感染します。
これらを防ぐためには、室内飼育を徹底することが効果的です。
また、予防接種でも予防が可能なため、感染リスクがあると考えられる場合(同居猫に感染猫がいる場合など)は接種を検討しましょう。
ただし、予防接種の効果は100%ではありません。
接種をしたとしても、やはり外に出すことは控えましょう。
猫の生活環境でタバコを吸うのは控えましょう。
タバコの有害性は喫煙者にだけでなく、副流煙による受動喫煙として喫煙者以外の人に影響することが広く知られていますが、ペットにも同様に影響します。
特に猫は念入りに毛づくろいをする習性があるため、煙として摂取するだけでなく、全身の被毛についたタバコの成分まで舐めとって摂取することになり、ヒトや犬などに比べその影響を強く受けてしまいます。
また、タバコの影響はリンパ腫だけでなく、扁平上皮癌など他の腫瘍の発生リスクを上げるともいわれています。
愛猫の健康を守るために、猫の生活環境でタバコを吸うのは控えましょう。
猫のリンパ腫の治療方法について
抗がん剤で治療します。
リンパ腫は抗がん剤治療によく反応する腫瘍ですので、基本的には治療は抗がん剤を主軸に行います。
リンパ腫の細胞の種類や発生部位によって使用する薬剤の選択肢は異なりますが、多くの場合は「多剤併用療法」という複数の種類の抗がん剤を組み合わせて交互に使用する治療を行います。
多剤を併用することによって、癌細胞が抗がん剤に対する耐性を持つことを防ぎ、副作用の発現も極力抑えつつ、高い治療効果を得ることが期待できます。
抗がん剤治療には消化器症状や血球減少症などといった副作用が少なからず現れますが、それらはあらかじめ予測可能で、それぞれに適切に対処することで乗り切れることがほとんどです。
抗がん剤の効果には個体差があり、治療反応や副作用の程度を見て途中で治療方法を変更することもあります。
治療開始時には獣医師からよく説明を受け、不安なことや不明点がある場合には遠慮せずに質問しましょう。
外科手術が必要なケースもあります。
消化器型リンパ腫で、腸管閉塞が起こってしまっている場合や消化管出血による貧血が深刻な場合には、消化管にできた腫瘤を切除する手術を行います。
(手術時に必要があれば輸血も行います。)
リンパ腫は血液系の腫瘍なので、手術で腫瘍を取ったとしても術後の状態が安定したら抗がん剤治療で全身的な治療が必要です。
放射線療法は鼻腔内リンパ腫に効果的です。
鼻腔内のリンパ腫には、放射線療法が有効であることが知られています。
また、胸腺や喉の周囲にリンパ腫ができた場合で、腫瘤の圧迫による呼吸困難や嚥下困難が顕著に現れて緊急性が高い場合などにも、腫瘤を縮小させるために放射線治療を行う場合があります。
いずれの場合も一時的に腫瘍が小さくなった後、再発の可能性があるため、その後は抗がん剤で治療を継続します。