犬の水晶体脱臼とは
水晶体が本来の位置からずれた状態です。
眼のレンズである水晶体は、チン小帯と呼ばれる細い糸で支えられています。チン小帯のもう一方の端は虹彩につながる毛様体に接着し、水晶体は虹彩の後方及び瞳孔の中心に位置するように固定されています。この水晶体が本来の位置からずれたものを水晶体脱臼と呼びます。水晶体脱臼には、水晶体が瞳孔より前にずれる前方脱臼と、瞳孔より後ろにずれる後方脱臼があります。犬の水晶体脱臼の多くは後方脱臼であるとされています。また、完全に脱臼せずに、一部の支えを失って下方に沈んだ場合は水晶体亜脱臼と呼ばれます。
犬の水晶体脱臼の症状とは
無症状の場合もあれば、痛みがある場合もあります。
水晶体脱臼のみで、緑内障やぶどう膜炎を併発していない場合は、臨床症状を示さないこともあります。
水晶体脱臼が原因となって眼圧が上昇し、緑内障が発症することがありますが、そういった場合には、激しい眼の疼痛、結膜の充血、角膜の炎症や白濁が見られます。さらに、視力が低下し失明することもあります。
水晶体が瞳孔より後ろにずれる後方脱臼では、網膜に障害を与え、網膜剥離を引き起こすことがあります。また、水晶体が瞳孔より前にずれる前方脱臼では、緑内障や角膜浮腫を引き起こすだけでなく、強い疼痛を生じるため、緊急での治療が必要な場合があります。
肉眼で水晶体の位置がずれていることを確認できる場合がありますが、犬が触られるのを嫌がってなかなかじっとしてくれないこともあり、肉眼では気付かない場合もあります。
犬の水晶体脱臼の原因とは
原発性水晶体脱臼
原発性水晶体脱臼とは、水晶体自体の問題によって発症するもので、先天性と遺伝性のものがあります。いずれの場合も主にチン小帯の異常が原因で水晶体が外れてしまい、多くは両目に発症します。
テリア種を中心とした様々な犬種においてチン小帯の断裂が生じやすい遺伝的素因があるとされ、原発性水晶体脱臼を生じることが報告されています。
続発性水晶体脱臼
続発性水晶体脱臼は、交通事故などで眼を強く打ってしまう、白内障によって水晶体が膨らんでしまう、緑内障で眼球が大きくなってしまう、ぶどう膜炎でチン小帯が変性してしまう、などの原因によって水晶体が外れてしまいます。
いずれの場合も外れた水晶体が角膜に当たることで角膜浮腫や結膜炎が起こり、眼房水を排出する経路を塞いでしまった場合は緑内障を併発してしまいます。また、水晶体が外れることによって血管と眼の間の物質交換を監視している血液房水関門という部分が破綻してしまった場合、ぶどう膜炎を併発することもあります。
犬の水晶体脱臼の好発品種について
以下の犬種で好発がみられます。
- ウェストハイランドホワイトテリア
- ケアーンテリア
- ジャックラッセルテリア
- トイプードル
- ボーダーコリー
- ボストンテリア
- ミニチュアシュナウザー
- ヨークシャーテリア
- ワイアフォックステリア
ウェストハイランドホワイトテリア、ケアーンテリア、ジャックラッセルテリア、トイプードル、ボーダーコリー、ボストンテリア、ミニチュアシュナウザー、ヨークシャーテリア、ワイヤーフォックステリアなどが水晶体脱臼の好発犬種とされています。
犬の水晶体脱臼の予防方法について
遺伝性の場合は発症の予防方法はありません。
原発性水晶体脱臼の場合は、発症を予防することはできません。しかし、罹患動物の繁殖を制限することで水晶体脱臼罹患犬の増加をコントロールすることができます。犬の遺伝性疾患は罹患犬の同系交配を避けることで罹患する犬の増加を抑制することが可能となり、継続して遺伝性疾患の繁殖制限をすることが全ての遺伝性疾患の根本治療につながると言えます。
続発性水晶体脱臼の場合は、交通事故などに遭わないように気を付ける、白内障や緑内障などの原因となる疾患の早期発見、早期治療をおこなうことが重要になります。
犬の水晶体脱臼の治療方法について
内科的治療
後方脱臼の場合は症状が出ないことがあるため、通常は外科的な処置を必要とせず、経過観察をすることもあります。前方脱臼に移行し緑内障を併発する危険を防ぐために、縮瞳薬の点眼を行う場合もあります。
外科的治療
前方脱臼をしている場合は、臨床症状が重かったり、合併症を引き起こす可能性が高いため、外科的治療が第1選択となります。ただし、手術を行っても水晶体を元の位置に戻すことはできないため、全身麻酔下で水晶体を取り除く手術を行います。水晶体を取り除くだけで眼内レンズは入れない方式が一般的とされています。
水晶体がなくてもすりガラス越しのようなぼんやりとした状態であれば物を見ることができるとされています。