猫の脳炎・髄膜炎とは
脳や脳の表面を覆う髄膜に炎症が起こった状態です。
脳は体のさまざまな機能を司る中枢器官です。
脳には脊髄がつながり、脊髄から全身の臓器や筋肉に神経が細かく分岐して伸び、体の動きや臓器の正常な働きを制御しています。
脳や脊髄の周りは髄膜という膜で包まれ、髄膜と脳や脊髄の間には脳脊髄液が循環し、脳や脊髄を衝撃から保護するとともに老廃物を排泄しています。
脳炎や髄膜炎は、脳自体や脳を包む髄膜に炎症が起こった状態です。
感染性に起こるものと非感染性のものがありますが、猫では主に感染性の脳炎や髄膜炎の方が多い傾向があります。
炎症の程度によって症状は異なりますが、食欲低下や元気消失などの全身状態の変化に加えて神経症状が現れることが多く、重度の場合には痙攣発作が止まらないなど、命に関わる状態になってしまうことがあります。
あまり頻繁に見られる疾患ではありませんが、発症した場合には重症化から命の危険が生じることもあるため、注意が必要な病気です。
猫の脳炎・髄膜炎の症状とは
様々な神経症状がみられます。
脳炎や髄膜炎を起こした時に見られる症状は以下の通りです。
・食欲不振
・元気消失
・発熱
・嘔吐
・嗜眠(寝てばかりいる)
・震え
・痙攣発作
・意識障害
・運動失調
・麻痺
・前庭症状(眼振・斜頸など)
・視覚障害
脳炎や髄膜炎は脳とつながっている脊髄にも波及することがあり、脊髄炎を併発した場合には四肢の麻痺や運動失調などが見られます。
しかし、これらの神経症状は他の中枢神経疾患でも見られる症状のため、症状だけで診断することは難しくなります。
全身的な検査を行い、他の病気の可能性がなければ、確定診断のためには麻酔をかけてCT検査やMRI検査、脳脊髄液の検査が必要になり、治療に対する反応も含めて診断が下されます。
猫の脳炎・髄膜炎の原因とは
感染性の原因によっておこります。
猫の脳炎や髄膜炎の多くは感染性に起こります。
原因としては細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などがあげられます。
最も多いのはウイルス感染によるもので、中でも猫伝染性腹膜炎による脳炎や髄膜炎が多くみられます。
また、猫エイズウイルス感染によって神経症状を示す場合もあります。
細菌感染では脳に直接感染が起こることは少なく、眼や耳の化膿性の疾患(眼窩膿瘍や中耳炎・内耳炎など)が隣接する脳に波及して起こる、あるいは全身性におこった敗血症が脳に影響して起こる場合が多くなります。
その他にはクリプトコッカスなどの真菌、トキソプラズマなどの寄生虫によっておこるものがあります。
非感染性のものもあります。
感染性の原因以外で猫に脳脊髄炎を起こす疾患として、猫灰白脳脊髄炎というものがあります。
この病気は比較的若い猫(3カ月~6歳)に発症しますが、はっきりとした原因はわかっていません。
猫の脳炎・髄膜炎の好発品種について
好発する品種はありません。
品種による好発傾向は特にありません。
猫の脳炎・髄膜炎の予防方法について
感染症を予防しましょう。
多くの脳炎や髄膜炎は感染症が原因でおこります。
様々なウイルス感染症や寄生虫感染症は感染している猫との濃厚接触や、寄生虫に感染している動物の捕食によっておこるため、室内飼育を徹底することによって感染のリスクを大きく減らすことができます。
また、免疫不全状態を引き起こすウイルスの感染(猫エイズウイルスや猫白血病ウイルス)がある場合には、各種の感染症が重篤化しやすくなります。
感染のリスクがある場合にはワクチン接種を受けるなど、これらのウイルスへの感染予防対策をしておきましょう。
猫の脳炎・髄膜炎の治療方法について
感染症の治療を行います。
感染症が原因であると判明した場合にはそれぞれに対する治療を行います。
細菌感染の場合は感受性のある抗生物質、真菌感染には抗真菌薬、寄生虫に対しては駆虫薬を投与します。
しかし脳には脳血液関門というバリアがあり有害物質や薬剤が到達しにくい構造になっているため、脳に到達しやすい薬剤を選択する必要があります。
ウイルス感染症によっておこった場合には根治は難しい場合がありますが、症状を緩和するためにインターフェロンなどを投与して、体の免疫力を上げる治療を行います。
神経症状に対する治療や消炎治療を行います。
原因(感染症)に対する治療を行う間、できるだけ神経症状を抑えて脳にかかる負担を減らすことも必要です。
重度の痙攣発作が起こっている場合には、抗けいれん薬を投与して発作を抑える治療が必要です。
痙攣発作を頻繁に繰り返すと後遺症が残ってしまう場合があり、発作が落ち着く前に次の発作が起こる「重積」という状態に陥ってしまうと、発作から自力で回復できずに最悪の場合は命を落としてしまうことがあります。
脳に起こっている炎症を抑えるためにはステロイド剤などの消炎剤を使用することがあります。
しかし重度の細菌感染症などの場合には逆に症状が悪化してしまうことがあるため、使用には慎重な判断が必要です。