猫の直腸脱とは
肛門から腸が反転して突出した状態です。
直腸脱とは、肛門から直腸が反転して突出した状態のことを言います。
「脱肛(肛門脱)」も直腸が肛門から突出した状態ですが、脱肛は肛門付近の直腸粘膜だけが突出した状態で、直腸全層が反転した「直腸脱」とは厳密には異なり、脱肛のことを部分脱出、直腸脱のことを完全脱出と呼ぶこともあります。
腸が脱出したまま長時間経過してしまうと、腸の乾燥や血行不良による壊死、あるいは猫自身が舐めたりかじったりして腸を損傷してしまうことがあり、腸を切除する手術が必要になることもあるため、できるだけ早く腸を元に戻す処置を行わなければなりませんが、直腸脱の原因となった疾患や病態が解消されなければ、多くの場合すぐに再発してしまいます。
寄生虫感染の起こりやすい子猫に見られることがある他、腸の炎症や便秘によってしぶり、過度のいきみを繰り返すことによっておこりやすくなり、また妊娠に関連して起こることもあります。
猫の直腸脱の症状とは
肛門から腸が反転して突出します。
直腸脱では、肛門につながる直腸が反転し、突起状(太いソーセージ状)の赤~赤黒い膨らみが肛門部から連続して観察されます。
脱出した腸は時間の経過とともに表面の粘膜が乾燥し、肛門で締め付けられるために血行不良をおこして壊死することもあり、猫自身が痛みや違和感から舐めたりかじったりすることで表面が傷ついて出血・損傷してしまいます。
便は少量ずつ下痢便が漏れ出るように排出されることが多く、重度の場合には痛みが生じ、元気消失や食欲不振、全身状態の悪化が見られます。
猫の直腸脱の原因とは
多くは基礎疾患が存在します。
直腸脱は腸炎や慢性の下痢を起こす寄生虫の感染などによって、しぶりを繰り返すことが原因となり発症します。
子猫ではマンソン裂頭条虫や壺形吸虫、コクシジウムなどといった寄生虫の感染によって頻回の下痢症状を起こすことが多く、しぶりを繰り返しているうちに直腸が脱出してしまいます。
強い腹圧がかかることによって起こります。
妊娠している猫の出産時や、慢性的な便秘がある猫では排便のために繰り返し強くいきむことで直腸が脱出してしまうことがあります。
肛門括約筋の緩みが原因になります。
肛門には肛門括約筋という筋肉があり、肛門を閉めた状態に保つ役割をしています。
内科的な疾患や年齢的な問題でこの肛門括約筋の力が弱いと、直腸が脱出してしまいます。
子猫や若齢猫では肛門括約筋が未発達なため、繰り返し下痢をすることで直腸が脱出してしまうことが多いと考えられます。
猫の直腸脱の好発品種について
以下の猫種で好発がみられます。
- マンクス
尻尾が他の猫よりも短いマンクスでは、直腸脱の発症や排便のトラブルがやや多いとされています。
猫の直腸脱の予防方法について
子猫には必ず便検査を行い、寄生虫の駆除を行うことが予防になります。
子猫の時期は様々な消化管内寄生虫が寄生している可能性があります。
子猫をご家庭に迎える際には必ず便検査を行い、必要に応じて早期に駆虫薬で治療することで慢性の下痢の発症を抑え、それに伴って起こる直腸脱の発症も予防できます。
便秘対策で予防します。
便秘を繰り返している猫では、食事内容の変更や便の滑りを良くする潤滑剤、緩下剤などを上手く使用して便を軟化させ、強い腹圧をかけなくても排便が可能となるようにケアしてあげましょう。
猫の直腸脱の治療方法について
脱出した腸を還納します。
直腸脱が起こった場合、まずは腸を肛門から押し込んで還納できるか試みます。
脱出して長時間経過していると腸の表面が乾燥して汚れが付着し、腫れが強いために押し戻すことが困難なことがありますが、患部をやさしく洗浄し、浸透圧の高い液体(50%糖液など)やステロイド性の外用薬などで腫れを引かせて対応します。
脱出した腸を戻す際には潤滑剤を使用し、指でやさしく肛門部に押し込みます。
しかし一度還納できても再脱出してしまうことが多いため、その場合には肛門に巾着縫合を施して再脱出を予防します。
また、このような治療に併せて、直腸脱の原因となった基礎疾患の治療(寄生虫の駆除等)は必ず行います。
外科手術が必要になることもあります。
脱出した直腸の還納が困難な場合や再発を繰り返してしまう場合、あるいは脱出した直腸が壊死している場合などは、外科手術を行う必要があります。
手術では開腹して結腸を固定する結腸固定術や、壊死した腸管の切除術などが行われます。