猫の熱傷とは
高温の電化製品による熱傷やヒーターマットなどによる低温やけどが起こります。
熱傷とは、いわゆるやけどのことです。
通常の生活の中では猫の熱傷の発生頻度はそれほど高くありませんが、火災現場にいた猫や、アイロンやコンロなど高温の家電製品に誤って触れてしまった場合、あるいは体を自由に動かすことができない状況でヒーターマットによる低温やけどなどが発生することがあります。
犬や猫の皮膚はヒトの皮膚に比べて薄いのですが、被毛に覆われているために直接地肌が熱源に触れることは多くありません。
しかし被毛で肌が隠れているからこそ、発生現場を実際に目撃しなければやけどを負っていることに気づくのが遅れてしまいます。
重度の熱傷は痛みが強く、その受傷範囲や重症度によっては命に関わることもあります。
猫は温かい場所が好きでストーブなどの近くで寝るのが好きですが、誤って熱傷を負わないように飼い主さんが気を付けてあげる必要があります。
猫の熱傷の症状とは
熱傷の範囲や深さによって症状は異なります。
皮膚は表面から深部に向かうにつれて表皮、真皮、皮下組織から構成されており、そのさらに深部に筋肉や骨などが存在します。
熱傷はその到達深度によって以下の様なⅠ~Ⅳ度に分類されます。
Ⅰ度:
皮膚表面の表皮だけに熱傷が起こった状態です。
皮膚の赤み、紅斑、痛み、熱感などが見られます。
毛をよくかき分けてみないとなかなか見つけられず、毛を刈るとわかります。
Ⅱ度:
表皮のさらに深部にある真皮にまで熱が及んだ状態です。
同じ真皮でも真皮の表面側にまで及んだ熱傷を浅達性Ⅱ度熱傷、それより深部の熱傷を深達性Ⅱ度熱傷と呼びます。
浅達性Ⅱ度熱傷では、赤く腫れたり水疱が形成され、漿液が漏れ出て強い痛みを伴います。
深達性Ⅱ度熱傷では皮膚の表面は黒~黄色~白などに変色し、皮膚は壊死して脱落することが多く、強い痛み~知覚の麻痺がおこります。毛根も破壊されるため、傷跡には毛は生えず、ケロイド状になることが多くなります。
広範囲のⅡ度熱傷では強い痛みや食欲不振、元気消失、動きたがらないなど全身的な症状も見られるようになります。
Ⅲ度:
真皮の全層に熱がおよび皮下組織まで及んだ状態です。
皮膚は黒~茶褐色に変色し、細胞が完全に壊死してしまい、知覚が消失するために痛みを感じなくなります。
皮膚は壊死して脱落し、その部分の皮膚バリアが欠損するために感染症などのリスクが非常に高くなります。
全身状態も非常に悪いことが多くなります。
Ⅳ度:
熱傷が筋肉や腱、骨など皮膚の下の組織に及んだ状態です。痛覚は消失しています。
非常に重篤な状態で、広範囲に及ぶ場合は命の危険がありますが、ここまでの熱傷は火災現場などでしか起こりません。
熱傷によって全身状態にも変化が起こります。
全身の表面積の20%以上に熱傷を負うと、深刻な代謝異常を起こし命の危険があります。
重度の熱傷を負うと、受傷した部位だけでなく全身性に血管の透過性などの急激な変化が起こり、受傷部から漿液の漏出などが起こることで循環血液量が減少し、血液の粘稠性が増加するために、全身臓器への血液供給が悪くなります。
すると腎不全、肝不全などを起こしたり、中にはショック状態に陥ることもあります。
また熱傷による強い痛みは全身の炎症反応を刺激して全身状態をさらに悪化させます。
深達性Ⅱ度熱傷以上の重度の熱傷では皮膚が脱落します。
皮膚は重要なバリア機能を担っているため、皮膚の欠損が起こると感染を起こすリスクが非常に高くなり、敗血症をおこして命に関わる状態に陥ることもあります。
猫の熱傷の原因とは
電化製品などが原因で起こります。
猫の熱傷のほとんどはアイロン、ホットプレートなどの電化製品、熱したフライパン、車のマフラーやラジエーターなどに誤って触れることによっておこります。
夏には熱く熱せられたアスファルトや金属製のものの上を歩くことでも起こることがあります。
また自力で寝返りを打つことができない寝たきりの猫が、保温のために敷かれたヒーターマットなどによって低温やけどを起こすこともあります。
その他の原因でも熱傷が起こります。
熱によるものの他に放射線や感電、薬品による化学熱傷などもありますが、発生頻度はあまり高くありません。
猫の熱傷の好発品種について
好発する品種はありません。
特にありません。
猫の熱傷の予防方法について
熱の出る電化製品を猫の近くで使用しない。
猫が誤って触れる可能性のある場所で高温になる電化製品を使用することはやめましょう。
料理中の台所には猫を立ち入らせない、ホットプレートの使用時などは危険回避のために一時的にケージに入れる、一時的に部屋から出す、などといった対応が必要です。
また、熱傷の原因となりうる暖房器具の周りには柵を付け、猫が近づきすぎないように工夫しましょう。
寝たきりの猫にはヒーターマットは使用しない。
寝返りを自分でできないような猫の場合、体温が下がらないように良かれと思って設置したヒーターマットで思わぬ低温ヤケドを負わせてしまうことがあります。
寒さ対策として、自力で移動が可能な猫にヒーターマットなどを敷いてあげる分には問題になることはあまりありませんが、体を自由に動かせない猫に使用することは極力控えましょう。
ヒーターマットやホットカーペットの使用時には厚手の敷物やタオルを敷き、直接肌に触れないようにすることも重要です。
猫の熱傷の治療方法について
軽症の熱傷は外用薬などで局所の治療を行います。
熱傷の範囲が狭く、深部にまで及んでいない軽症の熱傷に対しては、受傷直後はまず十分に冷却し、ワセリンなどの外用薬を塗布して湿潤状態を保つなど局所の治療を行います。
皮膚がめくれて漿液がにじみ出ている場合には感染を起こしやすいため、清潔なガーゼを当てて包帯やテープで巻き、傷が回復するまで保護して治療します。
熱傷が広範囲で全身状態の悪化が見られる場合には点滴が必要です。
熱傷の範囲が広がると、体液のバランスが崩れ循環血液量が低下することから、腎臓や肝臓などに臓器障害が起こります。
元気がない、食欲が落ちている、動きたがらないなどといった全身状態の変化が見られる場合や、症状があまりなくても広範囲の熱傷がある場合には、積極的に点滴等の治療を行い全身の血液循環を維持する必要があります。
痛み止めも重要です。
強い痛みは皮膚の侵害受容器を刺激して全身に炎症反応を引き起こし、全身状態をさらに悪化させてしまいます。
熱傷の範囲や重症度に応じて、適切な痛み止めを使用することは重要な治療の一つです。
感染症を予防します。
広範囲の熱傷を負った際には、感染による敗血症に陥らないように警戒する必要があります。
敗血症とは、体内に侵入した細菌によって多臓器障害を起こした状態で、腎臓・肝臓・心臓・肺など全身の臓器に機能障害を起こし、命に関わる状態です。
細菌感染は患部の衛生状態が悪いと起こります。
患部は適切に洗浄、外用薬の塗布などを行い、壊死した組織は除去して、ガーゼと包帯で保護し、衛生状態を保たなくてはなりません。
必要に応じて抗生物質などの飲み薬も使用します。
外科的な処置が必要なケースもあります。
熱傷による皮膚の欠損部分が大きい場合には、体の他の部分から皮膚を移植したり、伸びしろのある患部周辺の皮膚を移動させて患部を覆う形成手術が必要になります。
術後は感染症から多臓器不全に陥らないように、しばらく集中治療が必要です。